2020/02/23 のログ
> 「はいっ、了解致しましたですー」

彼の言葉にグッと小さく握り拳を作って応える少女。
不満気ではあるのだけど、結局のところはこれが自分の務めと思えば素直に従う少女であった。

「勿論、ギュンター様は確りとお守りしますよー?
でもでも、こんな状態が続いたらちょっと嫌だなって思ってるくらいですねー」

椅子に腰掛けながらパタパタと足を振るも、周囲の気配への気配りは行っている少女。
守ると言ったら必ず守る、少女にはその自信はある。
何かあれば、余程の事が無い限りは確実に守り切るだろう。
それは周りや彼から見れば確かに勤めを果たしていると言えよう。
少女の考え方は、拘りのせいで無駄に苦労をしていると感じさせるものか。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…贅沢な悩みだな。とはいえ、お前が活躍するという事は此の本陣に敵が攻め入るという事。流石にそれは……」

と、明日を振る少女にやれやれと言わんばかりに肩を竦めかけて、はたと思い付いた様に言葉を止める。
そして、とても戦闘向けとは思えない服装の少女に視線を向けて――

「…そんなに退屈なら、模擬戦でもしてみるか?此れでも、召喚の魔術には多少心得があってな。お前の退屈凌ぎ程度の相手なら、出してやらんこともないが」

それは、少女の退屈を晴らす事に加え、その実力を見てみたいという個人的な思惑も含んだ提案。
果たして、少女がその提案に乗るかどうか。どのみち、此方とて幾分暇を持て余し始めた故の他愛の無い話題ではあるのだが――

> 「うーん…贅沢、なのでしょうかー?
うーん、うーん…そうなのかもしれませんねー」

彼の言葉に小首を傾げ、何度も唸ってしまう少女。
ふと止まる言葉にキョトンとした表情を浮かべて。
その後に続く彼の言葉に、首傾げた侭で少しの間。

「模擬戦ですか?ギュンター様がそうしたいなら、お付き合い致しますよー?
加減した方が良いでしょうか?それとも本気でやった方が良いでしょうかー?」

彼自身が相手をするならば、多分それは断っただろう。
だが、彼が言うには相手をするのは召喚する相手となるようで。
それなら良いかなって思えば、彼へとはそう返すのだ。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…そうさな。此の陣地が崩壊しない程度であれば、多少本気を出しても良い」

加減すべきか本気を出すべきか。その手合いの言葉は、実力に相応の自信がある者が告げる言葉。
であれば、多少本気を出して欲しいが陣地は荒らさないで欲しいというのが司令官としての切実な願いであった。模擬戦の話を振ったのは此方なのだが。

「となれば、善は急げと言うでな。他の者達が戻る前に、是非その力、見せて貰おうか?」

と、少女を天幕の外にあるこざっぱりとした広場へと視線で誘導しながら、得意とする召喚魔術を発動する。
体内の魔力が練り上げられ、術式に寄って組み替えられ、偽りの生命を得る。
そうして、二人の前に召喚されたのは――

「…お前の事は、十分な手練れと見ている。であれば、半端なモノではつまらなかろう?」

2mを超える巨体。鈍く煌めくフルプレートの甲冑。巨体を覆い隠すタワーシールドと、メイスや長剣を構える合計四本の腕。
所謂、上位魔族と称される甲冑の騎士。その紛い物が、まるで置物の様に広場に鎮座して、少女を待ち構えていた。

> 「はいっ、分かりましたですー。
それでは、この陣地が壊れない程度でいきますねー?」

尤も、壊す可能性があるならば相手による事になる訳だが。
彼の言葉に素直にそう答えるのであった。

「わっ、これが召喚なのですねー?
何だか凄いのが出て来たのですよー」

天幕の外へと彼に付いて出た先、そこへと彼が召喚したのは巨体を持つ甲冑の姿。
身長差から少しだけ見上げる形になりながら、その召喚の腕に感嘆の声を漏らす。
しかし、少女のその雰囲気は普段のものと変わらない。
それをただの性格と取るのか、余裕によるものと取るのかは彼次第だろう。
もしかしたら、その両方なのかもしれないが。
ただ、紛い物とは言えど上位魔族の姿を見て、少女はこう伝えるのだ。

「お相手はお一人様だけみたいですし、私の力のみでちょっとだけ本気を出す事にしますねー?
合図はお任せ致しますー」

身構える様子もない、威圧感や緊張感を発する事もない。
微風に揺れるように佇む少女は、そのままで開始を待っていた。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「…良い返事なのは良い事だが、それをきちんと心掛けてくれよ?」

少女が律義な性格である事は承知しているが、具体的な戦闘方法等を知り得ている訳では無い。
ほんの少しだけ不安を覚えながらも、己の召喚物を見上げる少女に視線を向ける。

「大した事は無い。元々私は行使出来る魔術がそう多く無い故な。こやつとて、お前の相手が務まると良いが」

少女の変わらぬ態度にも、さして気を悪くする事も無ければ、気に掛ける様な素振りも無い。
実力の分からぬ相手に奢る事あしない主義であるし、行使できる魔術の数で言えば己が凡人並である事も理解しているが故に。
寧ろ、平然とした態度を崩さぬ少女を、戦慣れしているのだなと感心する程。

「ふむ、良かろう。まあ、所詮は模擬戦。気を楽にして挑むと良い。では――始め」

穏やかな佇まいの少女を一瞥した後、此方も身構える事無くゆるりと片手を上げ、無造作な開始の合図と共に振り下ろす。

その瞬間、置物同然に鎮座していた騎士はゆっくりと構えを取り――その巨体に見合わぬ速度で、少女へと駆けた。
先ずは牽制のつもりなのか、その巨大な盾で少女を吹き飛ばそうと盾を構えた巨体が少女に突貫する。

> 「もう、ちゃんと分かってますよー。
壊すなって言われたら、ちゃんと壊しませんですー」

ぷぅっと頬を膨らませるも、すぐに表情は戻して。
彼の説明を受けながら、うんうんと答える代わりに頷いた。

そして、彼が模擬戦の開始を宣言する。
その合図に合わせるように突貫する動きを見せる騎士。
なのに少女はすぐには動かない。
開始の宣言を判断出来ていないんじゃないかと思われるような様子だ。

だが実際には違う。
少女が真っ直ぐに向けている視線、その視界の中のすべてに対しての認識能力を発動させていた。
自分の能力が最も効果を発揮する距離である10m内を計り、騎士がその中へと踏み入った途端に少女は動き出す。

ヴンッと空気を歪ませるような感覚を周囲に感じさせ、不可視の力が発動すると同時に瞳が真紅に染まる。
その発動とタイミングを同じくして、牽制らしき突貫を見せた騎士へと目に見えぬ凄まじい衝撃が叩き付けられた。
その威力は強烈で、2・3m程度の甲冑の重さは物ともせずに後方へと大きく吹き飛ばす。
が、それだけでは終わらない。
吹き飛ばす軌道を予想した背後からの、同じく目に見えぬ斬撃が横薙ぎに襲い掛かった。
少女の力をある程度予想し何らかの対策をしていないならば、一瞬で真っ二つにしてしまうだろう。

こうして説明しているから、そう判断は出来ようが。
実際に目に見える光景は、襲い掛かった騎士が後に吹っ飛びながら真っ二つになるものだろうか。
少女には牽制と言う言葉は無い、常に一撃一撃で相手を倒す攻撃を繰り出すのだ。
尤も、これは対策をしてなかった場合だ。
されているならば、違った光景となるもので。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 開始の合図を告げ、突貫する騎士を見守る。
自我を持たぬ召喚物に下していた命令は"眼前の少女を戦闘不能に追い込め"というもの。
殺せとも命じていないが、加減しろとも命じていない。それ故に、紛い物でありながらスペックだけは本物と同等の騎士はその実力を大いに振るう――筈であった。

「……ほう、これは………見事なものだな」

空気が歪む様な感覚は、己も感じる事が出来た。
しかし、感覚として得たのは其処まで。次の瞬間には、重厚な鎧を纏った騎士は構えた盾ごと吹き飛ばされたかと思えば、上半身と下半身が綺麗に分かれている姿を視界に捉える事になる。

もし騎士が本物の魔族であれば。或いは、それなりの理性と自我を備えていれば。少女の斬撃に対して僅かながらの手が打てただろう。しかし悲しきかな。少女の相手を受け持ったのは、結局の所能力が高いだけの紛い物。自我無き人形。
それ故に、少女の放った必殺の一撃によって、轟音と共に二つに分かれた騎士の残骸が吹き飛ばされる結果となった。
――尤も、仮に騎士が本物の魔族であっても、果たして少女の相手が務まっただろうか。

「……素晴らしい。戦い慣れしているとは思っていたが、予想を上回る腕前だな。此れならば、私の護衛を任せるに十分過ぎる程だ。お前を護衛に出来たのは、存外幸運だった様だな」

少女の実力をまざまざと見せつけられば、素直に感嘆の声と拍手で少女を称えながら歩み寄る。
此れほどの実力者であれば、今後も護衛として雇いたいくらいだ、と頭の中で算盤を弾きつつ――

「……まあ、強いて不満を上げるならば。不可抗力とはいえ、相手を吹き飛ばす先も考えて欲しかったくらいだな」

一つだけ。些細な不満を上げるとすれば、両断された騎士が吹き飛ばされた先は予備の武具を保管するテントだった事か。重量物が勢いよく衝突したテントは、残念ながら積み上げられていた荷物と共に哀れな姿を晒している事になるだろう。
その様を眺めつつ、幾分意地悪そうな笑みと共に少女の眼前へと立つのだろう。

> 折角の模擬戦なのだから、一瞬で勝敗を決するのは如何だろうか?
そう問われてしまいそうな結果が出てしまった。
でも、模擬とは言えど戦いなのだ、加減もしないと言った手前の結果と言えよう。

「あう、折角出して貰ったのに、すぐに終わってしまいましたですー」

勝敗が決すれば不可視の力は解除されたのか、周囲に感じさせていた違和感は消え、スゥッと真紅から元の黒へと瞳の色は戻る。
彼へと振り返れば、申し訳無さそうにそう伝えるのだった。

「そう、でしょうかー…?
こんな結果で大丈夫でしたか?大丈夫でしたら、良かったのですけれどもー」

そんな彼からの言葉を聞けば、パッと表情を晴れさせる少女。
歩み寄る彼へとパタパタと駆け寄るのだが…

「……あっ」

投げ掛けられる指摘に、ゆっくりと視線が騎士を吹き飛ばした方向へと向けられる。
そこに見える光景は、その先にある無惨なテントの姿。
確かに少女自身の攻撃では壊さなかったが、そこは予想通り他の要因で壊してしまったと気付かされてしまって。

「す、すいませんです、あの分はちゃんと弁償してお返しいたしますのでー」

しゅん、と気落ちした様子を見せながら、上目使いに彼を見上げながら謝罪をするのだった。

ご案内:「ハテグの主戦場」からさんが去りました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > ふとした思い付きで行われた模擬戦であったが、結果から言えば大いに満足出来るものであった。
寧ろ、一撃で葬られたからこそ、その実力を伺い知る事が出来たのだから。

「気にする事は無い。寧ろ、此の一瞬で決着をつけた事を誇りに思うが良い」

謙遜や嫌味では無く、一瞬で決着をつけた事を本当に申し訳ないと真摯に告げる少女に、気にする事は無いと穏やかな口調で告げる。
とはいえそれは、吹き飛ばされたテントを視界に収め、気落ちした様子を見せる少女を見れば幾分違った表情を宿す事になるのだが。

「……別に弁償等する必要は無い。だが、そうだな…。良い物を見て、私も幾分昂った。その昂りを、収めて貰おうじゃないか、なあ?」

此方を見上げ、上目遣いで謝罪する少女の髪を撫でながら、緩慢な仕草で少女の躰を抱き寄せようと――

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 後日継続予定
ご案内:「ハテグの主戦場」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。