2019/11/04 のログ
■ジナイア > 秋晴れの水色が薄く灰色の向こうに覗く、曇天の戦場。
見通しの良い丘の上では白兵戦。
地鳴りを上げて騎馬の一団が突撃をし、鬨の声と共に土煙と紅いものが飛ぶ。
時折どん、と空気を熱波と共に震わせるのは、どちらかの魔術師の仕業か何か――――
喧噪に包まれる丘を下った所は唐突にこんもりとした森。
季節の移ろいに葉の色を変えるものは少なく、踏み入れれば一段と薄暗いばかり。
その、すこし深く丘から離れた場所で、灌木の茂みにに身体を隠す女がひとり。
森の薄闇に溶けるような赤銅色の肌をしたその女は、翠の瞳は半ば閉じて、視界ではなく、音に集中するために乱れた息を殺す。
手にした弓と矢は、片膝をついた足元へとだらりと落として。
(――――失敗した、かもしれない)
音に集中しながら、そんな思いが脳裏を過ぎる。
弓の修練をしているんだ、と言ったのがまずよくなかった。
知り合いの将軍に戦場へと引っ張り出され、さあ、と言われて少し意地を張ったのもあったかもしれない。
戦場の混乱の中、使い慣れない弓はそれでも幾人かの敵を無力化できたろう。
だが、結局はその弓に手間取るあまり見方からはぐれ、取り囲まれ、森へと逃げ込むことになった。
どうにか引き離し、一度は巻いたものの、追手は諦めた様子ではなかった。
(馬は、無事に逃げ切れたかな……)
音に集中しながら、ひたすらに息を整える。
■ジナイア > 丘の方向からざわめきのように鬨の声が漂ってくる。風向きのせいか近く遠く、波の様に大きく迫り、それからまた遠ざかる。
近くではざあ、と時折枝を揺らし、叢を揺らす音。
同時に鳥の飛び立つ羽音や獣の鳴き声がしなかったら、女の両手はすぐにでも、腰の後ろに折りたたんだままの馴染みの武器を取り出すだろう。
―――ぴくりとそのように指を動かしてしまってから、熟れた唇に苦笑が浮かぶ。
(傲りということもあるが――兎に角もっと修練を積むか、趣味として留めるかだな)
だらりと落としたままの手指に触れる弓を指先で撫でながら、脳裏で独り言ちた。
そうしながら、改めて音に集中しながら、ゆっくりと身を起す。
視線は油断なく周囲の薄闇を探っていくが、認識できる範囲では追手は居ないようだ…
灌木の茂みを揺らしながらも音立てずに滑り出ると、手にしていた弓を矢筒と共に革紐に留め、マントの下の背中へと背負う。
それから使い慣れた武器を、腰の後ろ、ベルトから取り外して片手に。
獲物を繋ぐ繊細な鎖が揺れ、森の中に硬質の音となって小さく響く。
(森の中では、こちらもあまり遣ったことは無いんだけどなあ)
握りこまれ、伝ってくる馴染みの感触に熟れた唇が楽しげに笑んで。
衣擦れの音だけさせて、薄闇の森の中を滑っていく。
――――こちら側から、狩るために。
ご案内:「ハテグの主戦場」からジナイアさんが去りました。