2019/08/31 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にジナイアさんが現れました。
ジナイア > 曇天の戦場。
残暑も厳しい日。
夏草も踏みにじられ、ろくろく育たない丘の上は相変わらずの怒声や悲鳴、爆音や金属同士の触れ合う音。
緩やかな風に乗りわんわんと丘の上を満たすその音は、聞けば耳に残る、紛れもない闘争の音だ。
辺りは土煙や火薬、何かが燃える匂いに混じって紛れもない血の香り。
今日も今日とて、丘陵地帯では人とヒト同士、血で血を洗う戦いが繰り広げられている。

―――――と、言っても今は

今朝降った一時的な豪雨のせいで足場はぬかるみ、歩兵は殆ど役に立たないとて、白兵戦よりも弓や魔法などを使った牽制のようなやり取りが殆ど。
それでもその音は止むことは無く、途切れもしない。
夏も終わりに近い今、雲の向こうで陽が暮れかければ、天の明かりも徐々に赤く暗いものになりつつある……

その丘から少し下った場所にある、囲むように存在する雑木林の中。
独りの女が、丘の方を木々の間から丘の方を伺い、収まる気配のない喧噪に独り、溜息をついていた。

(いっそ、白兵戦だったほうが早く諦めたかも知れないな…)

赤銅色の肌に黒髪の女は、その熟れた唇から吐息を漏らし、丘から雑木林の中へと翠の視線を戻す。
林の中を回り込んでくる敵がいれば排除してほしい、と頼まれて、かれこれ半日、こうして潜んでいる。
時折思いついたように雑兵が現れるが、明らかに作戦を立てたようなものではなく、武器を不能にするなどすればあっさりと引き上げていく輩ばかりだ。

――たまたま、王都からの伝令を取り次ぐようになった将軍と、知り合いになったのは良くなかったかもしれない。
こうして、自分の国の事でもない争いに首に突っ込む場合、どうしても覇気が薄れる……
今は只、丘の上の幕引きが早く訪れることを願うばかりだ。

女はそんな後悔に似た気分を抱えながら、雑木林の中、ひとつの木の幹に背を預けて立っている。

ご案内:「ハテグの主戦場」にキルシュナさんが現れました。
キルシュナ > 女の背を支える樹木に面妖な変化が起こった。確固とした樹皮の硬さがふんわりとした柔らかさと人肌の熱にて彼女の背を押し始めたのだ。そしてその直後、とす…と彼女の肩に乗せられたのは黒の短髪で首筋を撫でる褐色の頭部。

「今日のお仕事もそろそろ終わりやねぇ、ジナたん」

妙に蠱惑的な響きを有するハスキーヴォイスが必要以上にぞわぞわっと耳朶を擽るのは、囁きに合わせて吹き込んだ吐息のせい。樹木を背にして死角を消した女貴族を驚かせるためだけに高度な空間魔法を用いて姿を現した黒猫の悪戯である。そして時と場合と互いの立場をあまり弁えない変態猫の悪戯は、その魔手を更に伸ばす。
白シャツに浮き上がる程よいサイズの柔肉をふにゅんもにゅんっと揉み捏ねようと、彼女の脇下から胸元へと双手を滑り込ませたのである。

腕の良い斥候として彼女と行動を共にする事となったこのミレーは、数日前に出会った当初から馴れ馴れしく、隙さえあればこういったセクハラ行為に及び、更には夜の誘いまで掛けてくるという節操の無しの変態であった。
しかして実際に腕は良く、仕事はきっちりと片付けるのだから、なんとも扱いに困る相手といえるだろう。

ジナイア > 「―――…!
 ……まだ、終わっていない。キルシュナ、放してくれるか…」

彼女のこういった悪戯も、もう何度目だろう。
ぞくりと女の首筋から背筋を粟立たせたその声は、もう聞きなれたものと言って良い。
脇下からするりと延びた不謹慎な手も、もう慣れた動きでその手首を掴み、熟れた唇からは盛大にため息が漏れた。
味方ゆえにその腕を捻り上げたりはしないが……

「キミ、いつかその手癖の悪さで身を亡ぼすぞ…
 そちらの方はもう、気配はないのか?」

広い雑木林の中、持ち場を手分けして張っていた。
腕のいい、経験豊富な彼女のことだ。
いう通り、もう少しで戦闘も終わりを告げるんだろう。
そう思いつつも言葉を放って、取り上げた手首を彼女の方へと押し戻し、向かい合って腕を組んだ。

「……面妖な技を使うな…」

翠の瞳で彼女とその溶け込んでいた樹とを眺め、呟く言葉は興味深そうに唇の端が上がっている。

キルシュナ > 「あぁん、相変わらずいけずやなぁ、ジナたんはぁ❤ まぁ、これまでさんざん似たような不意打ち仕掛けてきたし、そろそろ慣れ――――……あ、もしかして、ウチの奇襲を警戒して木に背中預けとったん?」

彼女の脇下に差し込んだ手は、魅惑の柔らかさに触れる前にその侵攻を差し止められた。結果として彼女の両手を封じる事の叶った変態猫は顔を寄せ、その鼻筋と唇で赤銅の首筋を擽る様にしながら真夏日の労働に勤しんだ娘の体臭を嗅ぎ始める。

「――――ん、ウチんとこもなんぼか雑魚が来とったけど、今はすっかり静かなもんやで。何人か生かして捕まえたったし、そっから何か情報得られるかも知れへんね」

背後から抱きすくめようとする腕の中から抜け出して彼女が振り返るのならば、そこには水着めいて露出の高い黒装束を身にまとう長駆がにんまりと笑ませた大口に八重歯を覗かせる様を見ることが出来るだろう。
その表情はどこまでも飄々として、ここが戦場であるという危機意識の欠片も感じられぬ物の、鬼面を模した鉢金や、腰後に交差する形で差し込んだ双剣の禍々しさは、この黒猫がただのお調子者ではないと示している。

「んふっ、ガチな殺し合いは苦手やし、その分色んな小技を覚えとるんよ、ウチ。まぁ、残念ながら奇襲は失敗してもたけど」

言いながら一歩踏み出せば、猫娘の背と樹皮を重ね合わせていた闇色の靄がしゅるしゅると収縮し、黒の太尾を引き抜くと同時に完全に消え失せた。後に残るのは何の変哲もない大樹の幹のみ。

ジナイア > 彼女に嗅がれた首筋の辺りに無意識に手のひらを置きながら、すこし首を傾ければ黒髪がその肩から零れ落ち、金の輪が耳元で揺れる。

「そういう訳じゃない。いちいち味方に警戒などしていられるか
 ―…樹を伝って、得られる情報もある」

僕たる魔神の捜索網を、樹を通じて巡らせていた。
――生憎と、悪戯者の魔神たちは『彼女』を気に入ったらしく、その忍び寄る行動をわざと女には伝えなかった、という事らしい。
そのことに思い至ってまた溜息をつきながら、妖艶な、同時に妙に惹き付けられる『力』を持つ彼女の容姿を翠が見据える。

「奇襲という意味では成功している。十分驚かされたよ。
 …ここ辺りも恐らく、もう来る輩は居ないだろう。
 かと言って、今戻ってもアレに巻き込まれるだけかもしれないが」

視線で彼女の後方に位置する丘の上を示せば、相変わらずの争いの喧噪が丘を満たしている。
天は、紺青に染まりつつあるというのに…

キルシュナ > 『樹を伝って得られる情報』そんな彼女の言葉に反応して動かす金瞳が見つめるのは、淫乱猫から己が身を守るかの様に組んだ腕の先。しなやかな指先に嵌められたいわくありそうな指輪。
淫術以外の魔法は然程得意としていないキルシュナなれど、魔術の痕跡や気配を見抜く勘の様な物は備わっている。それによるならあの指輪はただの装飾品などでは無く、強い魔力を秘めているのだ。彼女の言う情報を齎すのがその指輪に由来する何かなのかは分からぬ物の

「――――ふぅん、ジナたんも色々と隠し玉持ってそやねぇ。その身体のどの辺に隠しとるんか、あちこち穿り返して確認してみたいわぁ❤」

刻一刻と薄暗さを増して行く木立の中で、なお爛々と輝く金瞳を笑みに細める様は獲物を前にした肉食獣の風情なれど、その傍らでわきわきと蠢かせる10指の動きはどこまでも卑猥であった。
続いて発せられた彼女の言葉に誘われ、立木の合間から戦場たる丘陵へと目を剥けた黒猫は何とも嫌そうにその美貌を歪める。

「あちゃあ……もしかしたらあれ、流れ矢で指揮官戦死しとったりするんやないかなぁ。もぉほとんど日ぃも残っとらんのに、完全に引き際見失っとるやん……」

いつもであればもう半刻は早く互いに兵を引いてそれぞれの陣へと引き上げていてもおかしくない時間帯。にもかかわらず、生ぬるい夏風に乗って聞こえてくるのは未だ激しさを失わぬ剣戟と怒号。

「ウチは夜目も効くけど、本職の戦士連中相手に接近戦とかしたないし、今日はもぉさっさと自陣に戻って飯食って、ジナたん相手の夜戦計画立てときたいトコなんやけどなぁ……」

こうしてふざけた口を聞いてはいるも、今のキルシュナは一応ジナイアの指揮下にいるという扱い。故に彼女が求めるのならば、戦場への伴にも応じるつもりである。無論、いざとなればさっさと尻尾を巻いて逃げ帰るつもりもあるのだけれど。

ジナイア > 「まあ、そう考えるのが妥当かもしれないな…」

丘の上を見据えたまま、アーモンド型の眼を細める。
恐らく、両陣営で『そう』なのかもしれない。
そうなると悲惨だ。お互い果てるまで続けるか、どちらかの均衡が少し崩れた時点で、片方が片方を蹂躙していくだろう。

「お互いに浮足立ってるだろうから
 ――…少し、脅かすか」

女が呟いた、ほぼ直後。

どん!!!

丘の上で一際大きい轟音が響き渡る。
それは空気を震わせ風を巻き起こし、吹き散らされた雑木林の葉が一斉にざあっと音を立てる。
その風に負けず丘の上を凝視し続けていたのなら、そこへ文字通り雲を突く、灰色の肌の巨大な禿頭の男が現れたのを見ることが出来ただろう。
それが黄色く燃える瞳でじろりと戦場を見渡すのも、雑木林から視認できるほど。

――ほんの束の間、戦場から音が消える。

次には悲鳴や怒号は上がるものの――それは蜘蛛の子を散らすように丘の上から両陣営へと散って行く。
重い剣や盾は放り出され、がしゃんがしゃんと剣戟のような音が響く。
戦車なんてものも当然置き去りに。
灰色の男は、牙の見える口に得意げな笑みを浮かべると、煙となって灰色の天に滲んで行った。

「……芝居掛かり過ぎだな」

ぼそり、赤銅色の肌の女が零す。
丘の上からは未だ悲鳴。
恐らくは逃げ遅れて腰が抜けた輩の助けを呼ぶ声か何かだろう……
それが伺い知れれば、女はしれっと彼女へと視線を移す。

「済んだな。
 戻ろうか」

キルシュナ > 「うへぇ……ウチ、斥候希望しとってよかったぁ…。あない意味のない消耗戦につきあわされるんは流石に……って、え゛、マジであそこに介入するん? なぁ、ウチらもう給料分は働いんたんやし、後はもうさっさと返って天幕でしっぽりぬぽぬぽ……――――――ッッ!!?」

何らかの手出しを企み主戦場たる丘陵へと向かおうとする彼女の背に、怠惰な淫乱猫の愚痴が投げられる。それを無理矢理黙らせたのは、心臓をギュッと縮こまらせる爆音と、一瞬遅れて吹き付ける颶風。
黒装束の背筋を覆うヴェールの如き薄マントが激しく棚引き、ピンと立ち上がった黒の猫尾が毛羽立っていつも以上に膨れ上がった。
土煙と千切れた緑葉の奔流の収まりつつある中、ぽかぁんと大口を開いて見上げる黒猫の金瞳が捉えるのは、馬鹿みたいに巨大なハゲ男。恐らくは魔素によって作られたのだろう仮初の巨体が少しだけ子供っぽい笑みを浮かべて消え失せる。後に残るのは、終わりの見えぬ消耗戦へと突き進んでいた両軍が仲良く潰走していく様。
召喚魔術か何らかの戦技かは分からぬ物の、少なくともこれでキルシュナが意味のない夜戦に付き合わされる事は無くなった。

「あ――――……、なんや分からへんけど、そのようやね。うん、さっさと帰ろ」

何とも言い難い表情で、しかして安堵の溜息を一つ漏らした黒猫は、何かしら事情を知っていそうな彼女の言葉に異論を差し挟むでもなく頷いて踵を返す。

ジナイア > 丘の上の出来事に、面倒な質問もせずに踵を返す彼女にくすりと女が笑みこぼす。
少しは、先に驚かされた意趣返しが出来たというもの。

「戻ったら、いい酒でも一杯奢ろう。
 ――恐らく、明日もあるのだろうしな…」

揺れる彼女の魅惑的な尻尾が目に入らぬように、少し足を速めて彼女を追い抜きながら、言葉と共に肩を叩く。
戻れば、疲弊した兵士たちの中で更に、亡くなった指揮官の後釜争いでも起きているだろう。

―――…安定するまでは、引き留められるかもしれない。
そう思う事が少し、煩わしさが少ないのは
妙な術を使う黒猫の彼女のお陰が大きいだろう…

そんな事を内心に思いながら
赤銅色の肌が闇に溶ける女は、速足で陣地へと、丘を登って行く…

ご案内:「ハテグの主戦場」からジナイアさんが去りました。
キルシュナ > 「ウチとしては酒よりもジナたんの身体で今日の活躍を労って欲しいトコなんやけどなぁ」

酒を奢るという彼女に返す言葉は、やはりどこまでいっても淫乱猫らしい代物であった。それでもむさ苦しい男だらけの戦場において彼女の様な華の傍らに身をおくことが出来ているというだけでも運の良い事。
同性だけでなく異性相手の行為も好む節操なしは、欲求不満を血の興奮と生存本能の暴走に滾る男達を相手に解消し、翌日はまたその大口を漏れる欠伸に開きながら貴族娘と共に戦場に赴くのだった―――。

ご案内:「ハテグの主戦場」からキルシュナさんが去りました。