2019/03/26 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にホウセンさんが現れました。
ホウセン > 王国辺境域の主戦場。
他国との半ば惰性となっている戦闘が頻発する此処は、軍需物資の納品先となることが間々ある。
王都で品物を渡し、輜重部隊に前線へ運ばせるというのがセオリーなのだろうが、往々にして割高な人件費が掛かる上に動きが鈍重。
なれば、直接商人に納品させる方が効率が良かろうと、誰彼かが考えた結果らしい。
必ずしも経営者自身が最前線にまで出向くものではないけれど、気紛れに顔を覗かせてみたという具合。

「嗚呼、何処も彼処も飽きもせずによぅやるのぅ。」

柔らかそうな唇から漏れ出した言葉は、傍観者としての色合いが濃い。
それは、目下、偶発的な遭遇戦で矛を交えている両国の兵士に向けての呟き。
呆れの色と上から目線の風情が絶妙にブレンドされた声色は、実際に彼らの遥か頭上で零れたもの。
発言者はといえば、時代錯誤な朱塗りの番傘をさしプカリと戦場の上空を漂っているのだ。
月明かりが照らす中とはいえ、夜空に浮かぶ人外を見出せるのは難しそうで、気付けるのは余程目が良い輩か、同業他社たる人外ぐらいか。

ホウセン > 足を着くべき地面がないせいで、雪駄を履いた爪先はプラリと揺れる。
最初の内は、眼下の阿鼻叫喚の趨勢に意識を向けていたが、飽きるまでの時間はさして長くない。
流血も酸鼻も娯楽足り得ると認識しているけれど、あまりにも平々凡々なのが気に入らぬと。
嫌っている訳ではない。
単に元より薄い興味が霧散したのだ。

「折角なら、英雄傑物の類が戦場を跋扈する様を観劇したいものじゃがなぁ。」

黒く大きな瞳を半目にし、眉間に薄っすらと皺。
不快感の表明ではなく、欠伸を未発に終わらせる為の仕儀。
暢気な人外の眼下では、どちらの勢力といわず兵が刻一刻と地に伏す数を増やしている。
命が果て行く様をして”劇”と呼び鳴らす無神経な傲慢さは、子供らしからぬものというべきか、子供ならではの残酷さというべきか。
見目だけは無邪気な童の妖仙は、今一度主戦場を睥睨する。
何ぞ面白そうなことがあれば、空中散歩を中断して下ってやってもよいと言わんばかりに。

ホウセン > さも傑出した何者かの登場を期待するような台詞。
実際にそのような者が現れたら、鑑賞するだけでは飽き足らず、茶々を入れて場を更に引っ掻き回すのが目に見えている。
誠にもって傍迷惑なことこの上ない人外は、緩く吹く風にノロノロと流される。
僅かに鼻腔に感じる鉄臭さは、きっと地表から巻き上げられた血の臭い。

「この様子なら、後半刻もせぬ内に手打ちとなろうぞ。
 実入りは多くなかろうが、少しばかり銭を集めておくのも良いかもしれぬ。」

火事場泥棒の又従兄弟を名乗れそうな呟きは、貨幣としての価値を求めたものではない。
今際の際に身に付けていた銭に、べっとりとこびり付く暗い情念を収集する為のもの。
恐怖、苦痛、怨嗟、執着、憎悪、悔恨等々と、誠に”呪”の材料に事欠かぬ。

「…酒でも持ってくれば良かったかのぅ。」

待つにしても間が持たない。
空間に虚を空けて貯蔵品を引っ張り出すことも出来るが、酒の香りを愉しむには血の匂いが鼻につく。
前言を翻すまで五秒弱。
次善策として、愛用の煙管を取り出し――
救われぬ魂が漂う地に、季節外れの蛍が如き淡い光が宙を舞った。

ご案内:「ハテグの主戦場」からホウセンさんが去りました。