2017/05/16 のログ
ホウセン > 一つ生み出せば、後は生成の手順を反復すれば良い。
馴染み過ぎているが故に無感動な侭、都合十体の式を生み出す。
用途が用途だけに、大した力は練り込んでいない。
精々が、室内でのちょっとした給仕を任せられるぐらいの非力な存在だ。
それらを従える妖仙は、眼下の丘陵地帯の地形を読む。
今日の小競り合いはあそこ、先週の分はそこと。
お互いが手探りの遭遇戦なら話は別だが、不意打ちを受けるリスクを抱えてまで、積極的に敵陣へ侵入しようとする気概は双方ともあるまい。
故に、お互いが戦い易く、不用意な突発事項の生じ難いエリアを、暗黙の了解の内に選び出していても不思議ではない。
大雑把に目した所、六つか七つ。

「行くが良い、従僕共よ。
 地に伏し、草に紛れ、風に散り…”呪われて”来るのじゃ。」

パチンっと指を鳴らすと同時に、十個の影が方々へ散る。
明日以降、何時起こるかも知れぬ戦闘に備えて。
隠遁の為に、この地に溶け込むよう認識を阻害する術式を組み込むべく、今宵この時この地を選んだ妖仙。
これだけの広範囲と多くの対象者をカバーする為に、仕掛けは半自動で、まだ見ぬ元凶は細部まで目が届くまいと思ってはいるが、念の為の措置。

ホウセン > 事象として表面化している疾病は、只の病に非ず。
症状を訴える者の悉くが、体内の気を乱されている。
大概の気力も体力も充実した者ならば取るに足りぬ事柄も、身の内を攪拌されれば平素どおりとは行くまい。
それ故の長期化と段階的な重症化に加え、治癒しないという面倒な効果までが付随している。
病と魔術、それも呪いに類する物らしいという所までは、この二週間で辿り付いた。

「発想がアレじゃな。
 陰湿、悪質、傍迷惑。
 何処ぞの愉快犯が裏で糸を引いておると言われた方がしっくり来るわい。」

例えば、人間同士の戦場を、そっくりそのまま実験場としているような人外の黒幕がいるというように。
だが、今の所は斯様に大きなエリアをカバー出来る程の、超越的な存在の気配は感じていない。
余程巧妙に隠蔽しているのか、人間に知恵を授けただけなのかは分かったものではないけれど。
だが、術式の分野が呪詛ならば、この妖仙は早々人後には落ちない。
人間という存在が、原初に生み出した最もシンプルな呪いごとの一つが、この小柄なモノの存在の一端となっているのだから。

「何を介して呪を掛けているかが分かれば、自ずと解法も分かろう。
 後は…」

できるだけ早期に、血が流れればよい。
きっと、鍵は戦場にあるのだから。
人を救う為に人同士が殺め合う事を望んでいるという皮肉に、形の良い唇の端をやや吊り上げて――

ご案内:「ハテグの主戦場 後方地帯」からホウセンさんが去りました。