2017/05/15 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場 後方地帯」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 中間報告がてらに、王都を程々に楽しんで舞い戻った国境地帯。
体調が悪化し続ける王国軍の治療という依頼を途中で投げ出すような真似はせず、日中は罹患者の様子を見て回っていた。
診察を行った兵士や傭兵は、彼是百の大台に乗ろうかという具合。
ここまで立て続けに症状を訴える者を見続けていたのだ。
種々の知識を持ちながら原因に辿り着けないのは、余程のヌケサクだと妖仙は確信している。
「ま、医者に解き明かせというのも酷な話かのぅ。」
特に、本件においては。
最初に警戒していた、病原体を兵器として投入してきたという可能性は、真っ先に排除できた。
何しろ罹患者が限定的過ぎるのだ。
王国の兵士の内、最前線で戦った者に多いとは聞いていたが、特に前衛職に固まっている。
おまけに、王都への報告では省かれていたようだが、軍馬の類にも同様の症状が現れている一方で、付近の野鳥に患いの様子が無い。
そして同じ軍馬でも、戦闘に借り出された物は罹患し、戦闘の後に亡骸を回収する為の荷馬車の馬は罹患しない。
全ての種に等しく症状が表れるか、特定の種だけ症状が重くなるかなら分からなくもないが、現状は異なる。
少なくとも自然科学の観点で解明できる類のモノではないのに、原理を詳らかにせよというのが無理な話。
■ホウセン > この世を構成する理の内、魔術やら何やらという要素を引っこ抜いた即物的な階層では起こりえない事柄。
だからこそ、この小さな影がこの丘の上にいるのだ。
子供でもなく、商売人でもなく、謀略家でもなく、好事家でもない。
長い時間を閲している、妖仙としての立場で。
眼下に広がる戦場を見下ろす。
今日も今日とて、小規模な小競り合いがあったというが、昼過ぎに始まった闘争は、夕飯時を前にしてグダグダと終息したという。
「夜間の諍いごとが難儀というのは分からぬでもないが、まるで晩飯で水入りになる悪餓鬼共の喧嘩ではないか。」
もう争うことそのものが目的化し、惰性と妥協で継続している血生臭い戦場。
故に、少しでも優先順位が高い事柄が転がり込めば、短期的な闘争はさっさと切り上げてしまっているかのように映る。
夜風が、サラリとした黒髪を揺らす中、円らな黒目を細め、懐から煙管入れを取り出す。
下品にならぬよう配慮の行き届いた、飾りの掘り込まれている煙管に煙草を詰めて咥える。
唇の中央ではなく、やや右寄りに。
右の人差し指の先に火気を収斂し、火を点す。
最初の一口を大きく吸い込んで火勢を増させると、暗闇の中で赤い光に頬を照らされる。
■ホウセン > 天を見遣る。
雲は晴れ、星は良く見通せる。
月は下弦で、光量は程々。
青白い月に照らされて、只でさえ造形美だけを善しとする人形のような顔が、平素より一層無機的に。
ゆるりと口の端から吐き出した煙が、筋となって後方へ吹き流され、風のうねりで縺れ、やがて霧散する。
星の配置、暦に方角に時間と、揃えるものは揃えて場に臨む。
「短期的に痛苦を取り除くのならまだしも容易かろうが、依頼は治療法の確立まで込みじゃからのぅ。
全く全く難儀な話じゃな。」
煙管を咥えたまま、ぼやきを口にするのさえ作業の一端であると主張したがっているかのように独り言。
謹直さと縁遠い態度ながらに、薄っぺらい胸板の前で、柔っこい細指を組み合わせ、幾つかの印を結ぶ。
原型は北方帝国の辺境に端を発しているものの、既に独自に手を加え過ぎており、殆どオリジナルだ。
「”煙鬼”。」
詠唱を殆ど破棄して、鍵となる言霊だけを口にし、術を発動させる。
風に流されるだけだった煙草の煙を含む空気が、手始めに大人がすっぽり入り込めそうな二メートル程の球体に。
それが約六分の一の体積に凝縮されてていく過程で、煙に由来する白い濁りは濃くなり、四肢めいた造形さえ浮かぶ。
終いには、頭部だけが抜け落ちた小人を形成し、妖仙の傍らに降り立つ。