2015/10/25 のログ
ご案内:「ハテグの主戦場」にリィンさんが現れました。
リィン > 「……貴方の魂が、主の許へ――アイオーンの許へと召されますように」

ハテグと呼ばれる主戦場。
ここでは王国と諸外国との小競り合いが繰り返されている戦場だ。
かつての時代に比べれば、今はそこまで大規模な戦争が起きているわけではない。
しかし、それでも戦闘は起こり続け、兵は死んでいく。

「なんてむごい……」

そんな戦場には似つかわしくない少女が、静寂の満ちたその場所を歩いていた。
少女の名はリィン。かつて存在した王家の少女だ。
白い法衣を風に靡かせ、杖剣を持ちながら、リィンは嘆くように闊歩する。
戦いに敗れ、打ち捨てられた兵士たち。それらの遺体が回収されることはなく、基本的には放置されたままだ。
末端の兵士の扱いなどこのようなものだろう。しかし、リィンはそれを酷く悲しげな表情で見ながら、死者へと手を向ける。

「せめて安らかに」

一つの呪文を唱えれば、その遺体が光となって消え、天へ、あるいは地へと還っていく。
リィンはこうして、慰霊の旅も続けていた。それが危険なことであるとはわかってもいる。
だが、彼女の行おうとしている救世のためにも、これは必要なことなのであった。

リィン > リィンは救世姫として、彼のヤルダバオートと戦うという使命を帯びていた。
その真の意味にはいまだ気づかず、その力もただの少女の域を出るものでもなかった。
しかし、救世派のミレー族の里での修行のためか、それとも救世姫となったためか。
特殊な魔術を使うことができた。この屍者を弔うものも、その一つだ。

「いつか必ず、ヤルダバオートの支配からこの世界を救わなければ……」

戦場の様子を眺めて、リィンは呟いた。
救世派のミレー族の伝承では、この世界が狂い始めたのは、偽神「ヤルダバオート」のためであるとされている。
200年前の“黒の王”ナルラートの時代に「ヤルダバオート」の信仰が持ち込まれ――それ以降、国が乱れ始めたのだという。
そして、救世派のミレー族が信じる救世主である“救世姫”となったのが、リィンであった。
その救世の姫として、今はこの国を去ったといわれる“アイオーン”の許へ死者を送るというのは、重要な役目であった。
祈りの言葉を捧げながら、リィンは死者を送り続ける。

リィン > 手を合わせ、杖で地を突き、天を仰いで祈りを捧げる。
慰霊の旅は続いていくが――

「……これは」

リィンが弔いを続けているときであった。
遠くで鬨の声と土煙が上がる。
再び戦闘が始まろうとしていたのだ。

「……ごめんなさい。私には、今はこれしかできなくて……」

沈痛な面持ちでそう呟いて。
リィンは急いでその場から走り去る。
戦いを止める力など、今のリィンにあろうはずもなかった。

ご案内:「ハテグの主戦場」からリィンさんが去りました。