2022/08/05 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 酒場」にシスター・パッサーさんが現れました。
シスター・パッサー > 現在の神聖都市において、真面目に神と愛を説く者
真面目に神の言葉に置き換えて洗脳する者
金とセックスが大好きな者

この三つが主だった信仰者だろう。

この王都も、この都市も、一つの熟成肉の塊だ。
削ぎ落せば綺麗な旨味のある肉でも、身に着けたままでは腐った肉と変わらない。
ファッションのようにして、修道女を抱けるという名目で宣伝するただの娼婦もいれば
身も心もハイライトのない瞳に堕ちるまで、教会の地下で売春させられ
時には礼拝堂で神父に神の前でバックで穿たれる。

そんな世界のせいか、シスター・パッサーが礼拝堂の清掃 宗教者への教え
孤児院の子供たちへの説くべきこと それらを除けばこうして修道服姿のまま酒場にいても不思議ではない世界。
どこかの場末の歌姫が修道女に身を隠し、酒場でコーラを頼んで俗世の気分に浸る などというもの
それが随分とかわいらしく見える世界だろう。


―――教会に子供のころから身を置くせいか、面倒がないのが好い
―――新顔の、修道女プレイがしたいだけの者や冒険者以外、私に下手な言葉も投げてくることはない。


シスター・パッサーは、酒場で修道服に煙の匂いがつくのも構わず、カキンッと蓋を開けた金製のジッポ
オイルに浸された軸に、歯車と火石が擦れあって燃やされた火の先端に、愛飲している咥える黒煙草を焦がす。
パチンッと、小気味良く蓋の閉じる音。 吸いなれた、肺に煙を回してから唇から煙が宙へと廻っていく。


「ふぅぅぅぅ…、…。」


教会の裏手で煙草を片手にサボる童とは違い、堂々と合間で煙草を口にする修道女
そんな見た目を、ここでは違和感に思わない。 認識度 周知 それらと共に
何も言わなくても座るカウンターの前で、マスターが琥珀酒に癖のない蜂蜜を落として均等になるまでではなく
雑にゆっくり3回回しただけの、まだ蜂蜜のダマが琥珀の中で泳いでいるのが見える。
グラスを持ち上げ、唇へと傾けて喉を一度鳴らした後、蜂蜜の甘さの後に喉を灼けつく度数。
再び黒巻きの煙草を咥え、まだ酒の味が残るうちに煙がそれを舌に帯び、紫煙となって吐き出される。


「ふー…、…。 おいしいです。」


マスターの混ぜたダマの具合をそう述べる丁寧な言葉。
素直に受け止めるべきか迷う 修道服を着こなすシスター・パッサーへのマスターの苦笑。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 酒場」にチャルヌイさんが現れました。
チャルヌイ >  
いわゆる"改革派"と呼ばれる者たちは、そう一口に呼ばれても多種多様である。
聖書を否定し、神の神聖性を否定し、信仰を棄て、主教そのものを理性によって再構築しようとする、
異端どころか宗教の枠から外れかかっている者もいれば、聖書の教義を厳格に解釈し、
聖体拝領や偶像崇拝において最も原理主義的な立場をとる者もいるが、
現代の彼らに共通しているのは、ヤルダバオートの指導者を堕落の象徴として批判している点である。


マグ・メール大学を拠点とする彼らはヤルダバオートの指導者たちを公然と非難し、彼らの宗教的正統性を貶めている点で一致する。
当のヤルダバオートの指導者たちにとってこの動きは本来とても容認できるものではなかったが、
ノーシス主教本流の腐敗はもはや誰の目にも明らかであり、従って彼らを真正面から攻撃することは、
教会内部の大分裂を引き起こす可能性があったために、彼らは改革派との対話に応じざるを得なかった。
もっともそれは改革派の要求を呑もうとしたのではなく、
敬虔な貴族の間で支持を広げつつある改革派に対抗するための対抗宗教改革の必要性を教会内部の人間が感じ取ったからである。


だからこそ、パヴェヴ・ラジヴィウ・"チャルヌイ"が王都マグ・メールの大学を離れ、
この地に宗派間対話を目的とする使節団の一員として訪れたことは偶然ではなかった。
彼が酒場に入ってきたとき、彼の護衛と酒場にいたヤルダバオートの聖職者の間には若干の緊張が漂った。
彼自身はと言えば、その姿を最も適切な言葉で語るならば「地を継がぬマグ・メールの柔和なる者」であり、
その足取りは敏捷と言うにはほど遠く、どこか引きづってさえいた。
もっとも足の悪いわけではなく、それは彼の歩く時のくせであった。


「マスター、リキュールを」


そう言って彼は深く考えず、シスター・パッサーの二つ隣のカウンター席に座った。チャルヌイはこの場では悪い意味での有名人であり、複数の人物の視線が彼に突き刺さっていたが、にもかかわらず、その声はひどく落ち着き払っていて、彼の経てきた年と経験、あるいは威厳さえと感じさせるものだった。


「お嬢さん、貴女はよくここに来るのかな」


そしてこれもまた深い考えなしに、シスター・パッサーに彼は声をかけた。その声色にはこの都市の場末に蔓延する堕落の風潮はなく、怖ろしいほど透き通っていた。

シスター・パッサー > 良くも悪くも、宗派“現実教会”に身を置くシスター・パッサーは異端である。
一言でいえば 神を理由にしない 神で説明しない

教えを受け止めぬ者すら神は愛し、己を制御する者こそが尊ばれるのです アーメン♡

を真っ向から否定し、現実の中で生き延び己を生かす者こそが尊ばれる。
生き残れ それが教会の教え。
生肉を食えば毒にまみれる 性欲に浸かれば病魔が汚染する 血を分け与えれば拒絶される。
それらを神の教えで制するのではなく現実で制する。

故に酒も煙草も修道女が飲みながらも、この都市で生き延び、支持がある。
それこそが、現実教会。

神を理由にする者からすればやりにくいシスターは、武力でも制圧させることはできない。
現実を教えにするのならば 力 武器 金 それこそが神なのだから。
火で焙ろうとすれば炎で焼き焦がし 異端と唱えれば現実で否定する。
悪魔の囁きだと叫ぶ者達にこそ死の歌が謳われる。

故に互いは似た者同士。
酒場には都市に足を運ぶ外部者もいれば、腐った世界に浸かるように酒を飲む神父
修道服を脱いで男と一時を過ごす売女。
皆 固まった。 偶然にもこの神聖都市で立つ足 席を空けてカウンターに置いた身は
この場だけでいえば似ているのだ。 神を否定的にする改革派としては。


「ええ、教会の作業も終えたので いつもの習慣です。」


そう言って、愛飲する黒巻の煙草と琥珀酒と蜂蜜の混ぜ物 キラー・ビー とここでは呼ばれるカクテルを手に
なんの悪びれもなくそう述べた。
修道女が全てを終えたら残った時間は何をすればいいか

酒と金と煙草 で、何が悪いというのか。
すぱすぱ、と紫煙を漂わせる黒と白い生地の修道服姿で、羊毛色の癖のあるロングヘア
ピンクアイの瞳は、悪びれもなければ、いけなことをしているという目でもない。
その透き通った視線に対し、シスター自身も透き通った視線で返した。

周りがささやく やりにくい場所だと。
席の隅で、心を弱めた娼婦に優しく言葉を掛けていた神父は、苦い顔をする。
あの二人の前で神を口にして個室に引きずり込んで慰める振りをして、タダマンに預かることももはや今
この場ではありえない。 神を否定するような塊が二人いる。 

チャルヌイ >  
ヤルダバオートには愛と信仰があり、神の光が万人に天から降り注いでいた。少なくともチャルヌイ達を迎えるヤルダバオートの善良な指導者たちにとっては、そうでなければならなかった。だからこそ、最も善良な聖職者であればこそ、彼らは使節団にこの街の全ての唾棄すべき堕落を全て隠してみせた。

大理石によって建立され、金によって装飾されたの見る者に感銘を与える宗教的建造物、規則通りの和音を奏でる巨大なパイプオルガン、悩みやつれ赦しを願う信徒たち、あるいはそれを穏和に迎える聖職者らしい聖職者、これらはすべてヤルダバオートの理想であり、したがって古き良き時代を願う善良な聖職者たちにとっての「美しい」歴史世界への憧憬でもあった。それは彼らにとって人間の魂の内部なるもっともひそやかな片隅を探るにふさわしいものであり、彼らはそれによって改革派使節団との理念的協同を図ろうとしたのである。

それをわかっているからこそ、チャルヌイの口からはもはや溜息しか出なかった。それは彼にとっては、酒場で娼婦に説教する神父と何ら変わりなかった。その行為が使節団に示したのは、彼らのもつ信仰が人びとの持つ数多の信仰や神学理論の寄せ集めでしかなく、彼らのその肥大した自尊心によって、彼らは自分の欲望を満たすためならどんなことでもするだろうという確信と諦念だけだった。いまや使節団は、ヤルダバオートの最も善良な聖職者たちの成すこの行いを見て、もはや主教はその信仰の根本的な部分で堕落しているという結論を受け入れざるを得なかった。


「不思議なものですね」

と言い、提供されたエメラルド色の透き通ったリキュールを傾けて、彼は続けた。

「この都市には夜でも陽の光が注がれているというのです」


この街に陽の光の当たらぬ部分はなかった。にもかかわらず、その影となる部分は、この街には存在しないものとされた。聖職者たちは陽の光の下で戦い、本来そうすべきであるにも関わらず、暗闇の下での戦いを忌避した。だから、チャルヌイがシスター・パッサーの僅かな瑕疵ををことさらに責めることはなかった。酒と煙草が聖職者にとって許されないのなら、同じく聖職者が影をよけて歩くことも同様に責められるべきであろう。

周囲の人間は居心地の悪さを一層感じるようになっていった。ここには彼らの心を打ち震わせるものは何もなかった。


「私はチャルヌイと呼ばれています。もし差し支えなければシスター、あなたのお名前を窺ってもよろしいですか
 たとえそれに意味がないとしても。」

シスター・パッサー > 『この都市には夜でも陽の光が注がれているというのです』

この街に陽の光の当たらぬ部分はなかった。にもかかわらず、その影となる部分は、この街には存在しないものとされた


そう男が述べる言葉に、シスターは瞳にピクリと そのピンクアイに眉が持ち上がる。
甘いダマが漂うキラービーは、混沌としたもの。混ざり合ったそれではなく大小のそれを舌で感じながら
喉の熱さと共に、灰皿に押しつぶした黒い巻煙草。
新しいやつをつなげて吸う いわゆるチェーン・スモークを行うように先端を咥え、カキンッと蓋が開く。


「なるほろ そへは……。」


咥えたままの、呂律が少し届かない声。
歯車を親指が押し回し、ボッと音を立てる火に先端をジジッと焦がすと
甘ったるいバニラ香の煙が再びシスター・パッサーの廻りに漂う。

パチンッと、シスター・パッサーの手元にある、金地のジッポライターが蓋を閉じれば
セイレーンが眠る顔をのぞかせる。


「光で塗りつぶすという意味ですか?」


曰く、綺麗事だ。
臭い場所もペンキで塗りたくれば収まる。
ゴミ捨て場でよくされる補修のやり方である。
見た目はきれいでにおわなくなっても 下の混ざり合った汚水に使った床壁は糞のまま。
何も綺麗になっていない。

そんな例えを口にする。
しかしシスターはその思想からか、煙を二度吸い込み、フゥゥゥゥと甘い香りを漂わせ。


「見えない場所を無くして救う振りをするから、隠れる場所も無くしてこうなるんですよ。」


酒精と煙草の香を漂わせる口から吐かれる言葉のほうが
清浄且つ清涼に感じるなど、世も末。
二人は神を信仰する教会を、片や現実的な表現で 片や思想に対する言葉を口にする。
周りは隠れる場所も塗りつぶした、全員晒し者にされている者らと、シスター・パッサーは述べたのだ。
神を肯定する者と神を否定する者 周りの空気がより冷える。
異端と称して狩られてもお互い、不思議じゃない。


「え?」


お互いにシスターと、名前も知らない誰かでは終わらないらしい。
シスターは、名無しでシスターと呼ばれるだけでも十分だったものの、隠すこともない
それは本名なのか 偽名なのか 現実教会と錨のシンボルに合わせたかのような
コンパスの別名を口にする。


「パッサーです パサーとも。ミスタ・チャルヌイ」


お互い、今のくだらない宗教派閥の多数を嫌う。
シスターは清廉な神に傅く、腐ってない者らですら興味はない。
現実教会に属するが故だが、チャルヌイの言葉の言い回し方を用いて
他人事のように、たっぷりの洗剤に汚物をつけても汚物のまま むしろ全て汚物に塗り替わる。
光らせたが故に全て汚物になったのだ。

現実教会は故に、汚物とならずに済んでいる。

チャルヌイ >  
 シスタ・パッサーの問いに、チャルヌイは頷く。

 「我々の住む世界にはよくあることですが」と、彼は前置きする。

 「信徒は光をば追い求めます。無理からぬことです。しかし、聖職者がそれで善い筈はない」

 その場には二人の人間がいた。男は神を愛するがゆえに人間を憎み、女は人間を愛するがゆえに神を憎んでいた。しかしそのどちらも、今の主教本流では異端の思想である。彼らの中では、神を愛することと人間を愛することは、矛盾なく両立するのであるから。

 そして教会は安心立命の場となるのである。

 「救えるものですか、救えるものですか」

 そう言って彼は繰り返す。

 「聖職者がどうして人を救えるなどと考えられるものでしょうか。
 神が宇宙とその価値の秩序を支配し、善と悪を区別し、ひとつひとつの事物にひとつの意味をあたえたもうと、
 そして啓典をひもとく聖職者が一切万事は神の光の下にあり、善であると断言しようと、
 目の前の人間が悲惨な目に遭おうとも、この世の全ては善であると、気の触れたように言い張ることが、
 果たして聖職者の成すべきことでしょうか」

 「結局のところ、我々はどうにも受け入れがたい自らの瑕疵と付き合って生きていくしかないのですよ、そうでしょう?」

 チャルヌイはもちろん、シスター・パッサーとは違う。彼は彼女のようには生きられない。
 それは彼もまた聖職者であり、人間の自然な本性を嘆き、できることなら神の栄光の沐浴を受けたいと望んでいるからだ。
 しかし、その考えに沈溺するには、彼は年を取り過ぎ、また頭が回り過ぎた。彼は神を愛し、人間を憎んでいながらも、目の前の人間を放っては置けなかった。

 「シスター・パッサー、貴女に会えてよかった」

 名を知ることに意味はないかもしれず、一度の出会いが生涯最後かもしれない。
 しかしチャルヌイが彼女の名を聞いたのは、彼女への感謝の意を伝えずにはいられなかったからだ。
 そしてそれはチャルヌイが目の前の存在をヤルダバオートに住む数多のシスターの一人としてではなく、
 一人の人間としてのシスター・パッサーとして受け入れるためでもあった。

 だから、その言葉は妙にこそばゆく、おかしなものに聞こえた。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 酒場」にシスター・パッサーさんが現れました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 酒場」からシスター・パッサーさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 酒場」からチャルヌイさんが去りました。
ご案内:「」にチャルヌイさんが現れました。