2022/02/01 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にリジーさんが現れました。
リジー > 冒険者としては駆け出し――どころか、一歩踏み出せたかも怪しい娘。
聖なる守りの力は常に、薄くその身を覆っているものの、
娘本人が操れる力は、ごく僅か、となれば、仕事にありつけぬのも道理であろう。
それはとても悲しいことだけれど、それはそれとして――――

「今月も、ありがとうございました、司祭さま」

ぺこり、頭を下げて司祭館を後にする娘の、今日の用事はこれで終わり。
たった今、司祭さまに清めていただいた杖を携え、ついでに礼拝を、と聖堂へ向かうのも、
司祭さまを訪ねるのと同様、月に一度の決まりごとだった。
過保護なきらいのある父との約束だから、この訪問は欠かせない。
実のところ、父の旧友であるという司祭さまに、封印の様子をみてもらう、というのも、
月一度の訪問を欠かせない理由であるらしいのだけれど。
のんきな小娘は当然、そんな事情は知るよしもなく――――

「……この時間だと、誰もいないのよね。
 みなさん、お食事かなにかかしら?」

重厚な木の扉を押し開けた先、聖堂は仄暗く静まり返っている。
この時間にはいつものこと、娘はさしたる警戒心も抱かず、祭壇の前へ進み出て、
すっと跪き、目を閉じて頭を深く垂れた。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 敬虔な僧侶である彼女とは異なり、信仰心の欠片も持ち合わせぬ男。
そんな彼だが、神聖都市を訪れた際には必ず立ち寄り、
少なからぬ金額の寄進をしている修道院が此の場所であった。
今日も今日とて、足繁く通う内に既に顔馴染みとなりつつある司祭に、
ずっしりとゴルド金貨が詰まった革袋を手渡せば、頭を下げて奥へと案内しようとする相手を
勝手知ったるという顔で片手で遮ると薄暗い聖堂の中へと足を踏み入れていき。

「ん、……こんばんは」

祭壇の前で跪き、祈祷を捧げる少女の姿に気付けば、聖堂の絨毯を踏み締めながら歩みを進め。
相手の傍にまで近寄れば、小柄な彼女の姿をまじまじと品定めするような視線を向ける。

「見掛けない顔だが、……奥ではなくこんな場所でも顔見世を始めたのか?」

彼が用事があるのは、神に祈りを捧げる祭壇ではなく、その奥に存在する地下の施設。
一般の礼拝客の参拝は既に断っている時間帯に、礼拝堂にて祈りを捧げる聖職者風の少女を、
修道院の裏側の関係者だと勘違いすれば、常に利用するシステムとの差異に小首を傾げ。

リジー > 扉の開く音が聞こえたくらいで、祈りを中断させるわけにはいかない。
けれども誰かがまっすぐこちらへ近づいてくるなら、
あまつさえその誰かが挨拶のことばを投げかけてくるなら、
応えないのはあまりにも、無作法というものだ。
だから、娘は顔を上げ、跪いた姿勢から立ち上がって、
声の主のほうへ体ごと振り返る。

「こんばんは、……―――― はい?」

数歩の距離、立ち上がっても歴然とした身長差。
仰のく角度で視線を合わせ、笑顔で挨拶を返してから、
相手のことばの意味を計りかねるよう、そっと小首を傾げた。

「あの、……ごめんなさい、もう一度、おっしゃっていただけますか?
 かお……… えと、なん、ですって?」

それは、よく知らない単語だ。
長いまつげに縁どられた瞳を、忙しなく瞬かせて、問い返す。

トーラス > 祈りを終えて立ち上がる小柄な少女の姿を頭から爪先迄、視線を這わす。
同じ施設内で孤児院も経営している此の修道院では、彼女よりも年下の幼子も、
髪から与えられたお役目に付いている事もあるので、その点は不思議ではない。
凹凸乏しく女らしさの欠ける身体付きに多少の不満も胸中を過ぎるも、
可愛らしい顔立ちの彼女に対して文句を付ける気にはならず。

「あぁ、いや、分からないならば、別に構わない。
 ――――ヤルダバオートの御心の儘に……、神の身許に案内して貰おうか」

或いは、此の修道院の規則に不慣れな少女が誤って、階段を登ってきてしまったのかも知れない。
そんな自分に都合の良い解釈をすれば、片手を伸ばして彼女の腕を掴むように捕まえて、
祭壇の裏に回り込めば、一見、壁にしか見えない隠し扉を押し開く。
扉の奥は蝋燭の灯りが左右に灯された下り階段が奥へと続いており、彼女を連れ込もうとする。
体格差のある彼の手を振り切り、彼女が逃げ出す事が敵わないならば、
多少、抵抗されても、力づくで引き摺るようにして、底知れぬ階段を地下へと進んでいき――――。

リジー > ――――ほんの少し、違和感を覚える。

こちらを見る視線が、いささか不躾であるような気がした。
歳より幼くみられることが多いので、もしかしてまた、
こんな所にこんな子供が――という台詞を聞かされるかと思ったけれど、
それとも少し、違うような。

「え、―――――― 痛、っ……!」

問いをはぐらかされたことも、不審感を抱かせる要素。
そのうえ、相手がいきなり腕を引き掴むに及べば、
不意打ちの苦痛に娘は顔を歪ませ、短い悲鳴をあげる。

「はな、して、……離して、痛い、いやです、っ、
 司祭さま、…――――司祭さま……!!」

非力な娘の抵抗など、押し切るのは確かに容易かろう。
けれどもこの娘は、司祭にとっては旧友の娘。
その悲鳴が聞こえたなら、きっと慌てて助けに来るはず。
もちろん、彼の制止が間に合わなければ、娘の運命は男の手の内に堕ちるけれど――――。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からリジーさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からトーラスさんが去りました。