2022/01/05 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 市街」にイファさんが現れました。
■イファ > 神聖都市の夜は静かだ。
教会がそこかしこに聳える街中に整然と並んだ街灯の明かりに時折照らされるのは夜警のものか犬か猫か。
静まり返った街で響くのは時を告げる鐘。それに呼応するかにどこかから犬の遠吠え。
(長閑というか、寂しいというか)
そうやってしずまりかえった神聖都市のとある宿の前、警備然として佇む鎧姿がひとつ。しんと冷えて来る空気の中、まるで置物かのように身動きせずに居てかれこれ―――
(…次の鐘までだったか)
兜から呼気が漏れて、白く煙が昇ってく。
護衛の依頼ではあるが、実はフェイクなのだと聞いている。依頼主はこの宿から地下道、さらに地下街へと至ってそこで本当の宿を取っているらしい。
この宿に泊まるのは己を含めて従者と護衛のものだけ。
聞いたところによると
依頼主が地下街と深く親交があるのは既に周知の事実だとかで、こうしてわざわざ『地上で宿をとっています』という素振りは無意味らしいが、『公に訪問はしない』という依頼主なりの主義があるらしい。
ただ時間が流れていくだけの仕事ではあるが、鎧姿は生真面目に佇み姿をさらして、十二分に役割を果たしていた。
(―――鐘までに、何匹通るかな…)
野良なのか、街ぐるみで飼っているのか通りかかる猫は多い。暇つぶしというよりも心易く、鉄仮面の下で紫陽花色の瞳は夜の散歩者の観察を楽しんでいた。
■イファ > 猫たちは或いは路地の奥へ消えて或いは石垣を足掛かりに家の屋根へ飛び乗って、思い思いの場所へ行っているように見える。
(さて、猫の集会というのがあるというから…)
てんでバラバラに見えて、集まる場所があるのかもしれないな。
思いながら空を見上げると丁度月影がくっきりと見える三日月で、それも暗示的に思える。
考え過ぎだろうが、そうだったら面白い。
そう思案しているだけでも時は過ぎる。
やがて遠く、しかし確実な響きが静寂を破って届いて来る。
「―――ああ、流石に冷えた…」
金属音を響かせながら両腕を伸ばして身体を捻る。
声を漏らせばまた白く吐く息が立ち昇って行く。
鎧姿は踵を返すと既に灯りの落ちた宿の扉を押し開けて、床板を軋ませながら中へと姿を消す。
鐘の音が途切れる頃には、神聖都市の街路は夜の住人のための時間……
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 市街」からイファさんが去りました。