2021/09/19 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にマディさんが現れました。
■マディ > 麗らかな午後の日差しが、ステンドグラス越しに七色の光の帯を投げかけている。
数日ぶりに良く晴れたその日、祭壇を前に跪き祈りを捧げているのは、
昨晩、無事にこの修道院へ帰り着き、帰宅が遅かったために夜のつとめを免除されて、
今しがた、すっきりと目覚めた修道女たる女一人。
たった今、女が相対している天鵞絨張りの祭壇の向こう側には、
分厚い天幕で隠された階段があり―――――それを降りた先には、
この修道院の、否、この街の裏の顔がある。
恐らくはこの時刻でも、爛れた遊戯に興じる者たち、彼らに搾取される女たちが居る筈だが、
祈りを捧げている女に、その認識はない。
男への奉仕を命じられていない、今の女は清らかな世界に生きる者。
柔らかなくちびるが紡ぐのは、神を讃え世の平安を願う、静かな祈りの言葉ばかりだった。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にトーラスさんが現れました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にトーラスさんが現れました。
■トーラス > 神聖都市ヤルダバオート。
ノーシス主教の総本山であり、都市全体が宗教施設である街の中でも随一の修道院。
其処へ懐が温かい時に限って足繁く足を運ぶ中年冒険者の姿がある。
表向きの目的は仕事が上手く行った事に対する感謝の意を込めての寄進の為。
事実、決して安くない額の金貨を修道女達を取り纏める老嬢に手渡している。
「――――ヤルダバオートの御心の儘に……」
信仰心の欠片も感じられぬ口調で聖句を呟けば、老嬢の案内に付き従い、
礼拝堂への通路を歩き、途中、すれ違う修道女達を眺めては口端を弛める。
とは言っても、未だ日が高いような時間帯。多くの修道女は仕事に追われて、
お勤め可能な者は少ないらしく、礼拝堂の扉の前で、中に居るものならば、との言葉と、
その修道女の名前を聞けば、軽く頭を下げながら、女が祈りを捧げる堂内に足を踏み入れる。
■マディ > きい、と扉が開く音が聞こえ、女の肩が微かに揺れた。
垂れた頭はそのままに、緩く瞬いて目を開ける。
祭壇前から真っ直ぐと扉前まで伸びる通路と、左右に列なして並ぶ長椅子。
来訪者が中央の通路を辿るなら、そこに敷き詰められた絨毯のため、
靴音はほとんど吸われて消えてしまうだろう。
しかし、それでも女はもう、来訪者の気配を察知していた。
「――――――――………」
細い声で、心より信ずる神の名を紡ぎ、もう一度静かに頭を下げて、
女はすっと身を起こす。
黒衣の裾を淡く翻し、身体ごと来訪者の方へ向き直ろうとしながら、
凪いだ碧い瞳をもの問いたげに瞬かせ、
「……ようこそ、静かなる祈りの庭へ」
誰何の声をいきなり投げかける無粋は、女の流儀ではない。
まずは、快く招き入れるところからだと教えられている。
■トーラス > 扉を開けば、真っ直ぐに絨毯が敷かれて左右に長椅子が備えられた礼拝堂。
視線を前へと向ければ、祭壇の前にて一人の修道女が祈りを捧げているのが目に映る。
此方の存在に気付いたのか、相手が立ち上がり、此方を振り返り見れば、
ステンドグラスから差し込む陽光に晒される女の容貌に思わず口端が弛む。
「……、あぁ、礼拝の邪魔をしちまったかな。
此処に案内してくれた老嬢に熱心な修道女が居ると聞いていたが、アンタがマデリーンだろう?」
神への祈りを捧げていたらしい相手に詫びの言葉を漏らしながら、絨毯の上を歩き進む。
此処を訪れるのは初めてではなく、何人かの修道女と夜の務めを共にしているが、
今回の相手とは初対面であるらしい。
気品すら感じさせる容貌と、地味な修道衣でも隠し切れない、けしからん肢体へと無遠慮な視線を投げ掛けながら、
彼女の立つ傍にまで足を進めると、その肩越しに背後の天鵞絨張りの祭壇を窺い。
「シスター・マディ、静かなる祈りの庭も悪くはないが、俺はもっと神を身近に感じたくてな。
アンタが昇天へ導いてくれるか?」
口端を歪めながら、斯様な戯言を紡げば、祭壇の奥へと誘ってくれ、と伝えて。
■マディ > 信仰に生きる敬虔な修道女の一人として、女はそこに立っている。
その眼差しも、表情も、相手の身形や傷跡などに怯むことは無いが、
男が口にした、ひとつの名前には分かりやすく動揺した。
「ぁ、………あの、どうして、……わたく、し」
マデリーン。
それは確かに、女の名前のひとつではあるけれど。
―――――この修道院で、女を、そう呼ぶ者は稀だ。
何故なら、その名で呼ばれた女は、つとめを果たすことが難しくなる。
昼のつとめならば何の問題も無い、だが、しかし、男が求めるのが、
夜のつとめを果たすもの、としての女ならば。
近づいてくる男から、無意識に、女の足は逃げを打つ。
摺り足めいて半歩、更に近づかれればもう一歩。
後退ってみたところで、女の背は祭壇に阻まれ、直ぐに逃げ場を失くしてしまうのだが。
「あの、………わ、たくし、貴方の、仰ること、よく、わかりませ、ん……。
わたくし、……わたくし、どなたかを、導くこと、なんて」
戸惑う。躊躇う。
女の眼差しは落ち着きなく周囲を泳ぎ、両手は黒衣の端をきゅっと掴み、
助けを求めるような、寄る辺ない幼子めいた表情で、扉の方を見遣りさえする。
男が遅ればせながら紡いだもうひとつの名前は、混乱する女の耳には届かなかった。
弱々しく頭を振って、今にも、男の脇を擦り抜けて行ってしまいそうに。
もっとも、男が既に何度も、ここの地下を使っているのなら。
祭壇の裏手にある階段も、その先にある施設にも、先導役など不要だろう。
要は女が積極的か、そうでないかの違いだけ、かも知れず。
■トーラス > 目の前の女から見せられたのは予想外の反応。
動揺する様子の彼女に後頭部を掻きながら怪訝な視線を向ける。
「ん? 別人だったか……? 老嬢には一人しか居ないと聞いていたが?」
念の為、礼拝堂の中に視線を一巡させると他に修道女の姿がない事を確かめる。
連絡の不徹底か、或いは、彼の方が何かしらの勘違いをしていたのか。
近付く度に後退る女の反応に、今迄、相手にしてきた修道女達とは、
異なる反応を見て取って、互いの困惑の色は益々強まるばかり。
「おいおい、教育が行き届いていないなんて聞いてないぞ。
ちっ。こっちは高い金を寄進してるんだ。元は取らせてもらうからな。
まぁ、アンタがシスター・マディでも、別人でも、些細な問題だ」
混乱する女の態度に訝しむ様子を見せるが、逃げ出されては堪らない、と彼女の腕を取り。
其の侭、抵抗する相手を引き摺るようにして祭壇裏に隠された隠し扉を抜けて地下へと進み。
その後、神聖なる礼拝堂の地下にて何が行なわれるのかは、二人のみが知る所となり――――。
■マディ > 初めに応対した老修道女が、誤ってその名を男に伝えてしまったのか。
あるいは名前についての説明を省いたのか、し損ねたのか、
男との間に、何某かの認識の齟齬が生じていたのか。
いずれにしても、女は今、かつての伯爵令嬢マデリーンとして、
男の前に立ち、その視線に、至近に迫るその姿に怯えている。
訝しげに眉を寄せられ、舌打ちひとつされるだけで、
びくりと身を震わせ、眦に涙さえ滲ませてしまうほど。
屈強な男性と一対一で、不興を買ったらしいと感じれば、その反応も道理か。
現に、伸ばされた手に捉えられた女の腕は、ひどく震え強張っていた。
「ゃ、―――――はな、して、離して、くださ……!
ど……こへ、いったい、何を、……いや、やめて、誰か、っ……!」
か細い悲鳴は扉の向こうに届くこと無く、男の耳を煩わせるのみ。
必死の抵抗すら押し切られ、非力な女は男に引き摺られて、
存在することすら忘れ果てていた、隠し階段の下へ連れ込まれることに――――――。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からマディさんが去りました。