2021/09/15 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にマディさんが現れました。
マディ > 「ぃ、……嫌、っ――――――!」

鋭い悲鳴とともに客であった男を突き飛ばし、女は部屋を飛び出した。
普段は施錠されていた扉が、今日に限って客の不注意により開いていたのも、
その肢体をベッドに拘束する枷の類も無かったことが、幸いして、あるいは災いして。
ヴェールをその場へ取り残し、靴を履く暇も無くストッキング穿きの素足で、
冷たく湿った石畳の通路を、あちこちの壁にぶつかりながら駆け抜ける。
客の手でなかば引き裂かれた修道衣の胸元を、両手で掻き合わせながら。

「いや、いや、ここは、どこ……わ、たくし、いったい、どうし、て……」

――――――まるで場違いな、無垢な小娘が迷い込んだかの如き反応。
原因は今日の客が、たまたま、女の顔を知っていたことによる。
事前に注意は受けていた筈だが、うっかり彼女を『伯爵令嬢』と呼んでしまったこと。
それがために、女の意識は、記憶は、何も知らなかった過去へ戻り、
男の手を拒んで、振り解いて、逃げ出すに至った。
もっとも、この通路をどれだけ走り回っても、逃げ切れる見込みは薄かったが、
今の女はそんなことすら、きれいに忘れ果てていた。

マディ > どこへ向かえば良いのか、誰かに助けを求められるのか。
あちらで曲がり、こちらで壁にぶつかり、
正気を失くした女の逃避行はなおも続くが――――――

その果てに待つものは、きっと、明るい未来でも、外の世界でもないだろう。
今の女には、何ひとつ分からない事ばかりだけれど――――――――。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からマディさんが去りました。