2021/05/04 のログ
アウロラ・ラディス > 「ああ、宜しく。」

彼女はこの手の話をされることを嫌がるのか、どうにも表情に陰が見える。
おまけに鞘に手を宛てている。
冒険者としては妥当な反応と言えるが。

「なるほどな、君は人に戻ることを目指しているわけか。
ふむふむ…。」

私は無意識に顎に手の甲を宛てていた。
さてどうしたものか。
表情が多少良くなったことはいいのだが、どうにも流れが良くない。

「やせ我慢は体に良くないぞ?
餓えれば餓える程理性を喪失する。」

私は表情を崩すことなく、諭すように告げる。
彼女をこちら側に引き込むのは簡単ではなさそうだ。

「ああ、そうだ。
私は君程に血を求めることは無いが、体質的には似た様なものだ。
不死者と言えばわかるかね?」

ナラン > 理性を喪失する。
その言葉は少なくない驚き―――半ば解っていたものの、兎に角相当な響きとなって胸に響く。
それでも思わず苦しげに歪むのは女の眉だけで、口元は強がりか、笑みは残ったままだ。

「…まさか戻れるとまでは、思っていませんけれど。
 ――――不死者」

彼女の言葉を繰り返してから、改めて彼女をしげしげと見る。
美しい白い顔に、夜に溶け夢に誘うかのような紫色の瞳と長い髪。

「…なんとなくは」

たっぷりと間を取った後に応える。
タナール砦ではよく―――本当によく魔族と戦っているけれど。

「では…アウロラさんは、……魔族?」

束に触れた手に力が籠る。
元々後衛の自分が、この至近で勝てるとは微塵も思えないけれど
じり、と片足を下げたのは逃げる為ではなくて、構えるため。

アウロラ・ラディス > どうやら、揺れているようだ。
唇は笑みを浮かべているが、眉尻がよく動く。
目は口ほどに物を言うと言うが、彼女は正直だ。

「なんだ分かっているではないか。
それならば現状を受け入れた上で上手くやる方が良いとは思わないか?」

恐らくすでに日中の活動にも支障をきたしているのだろう。
こちらを見つめる双眸に、私は笑みを浮かべたまま首を傾げる。

私の言葉を咀嚼しているのか、随分と時間がかかった気がする。
そうして出てきた反応は尚望まない方向であった。
やれやれ、私は地雷を踏むのが上手なのか?

「…難しい処だな。
私は自分で自分を人間と思っているが、現状は不死者だ。
ただ生れた時は人間だったのでな。
今は人間も魔族もどちらも得意先だよ。
互いに一枚岩でないのはなんとなくわかるだろう?」

さてどうしたものか。
夜とは言えこんな街中でやり合うなど、双方にとって良いことは無いと思うのだが。

「私に剣を向けるのなら覚悟した方がいいぞ。
私は君みたいな可愛い子であっても容赦なく牙を向く。」

杖に跨ったまま、頬杖をついた。
彼女が制止を聞かずに抜くのであれば、こちらもそれに応えるが。

ナラン > 「…それでは、アウロラさんは本当に私と似ていますね。
私も今も自分を人間だと思っていますけど…多分本当はもう、違うんでしょう」

頬杖を付く彼女を見ながら、肩から力を抜く。手はまだ束に触れたままだけれど、引いた足は戻して、また正面から見つめ合う形になるんだろう。

「確かに私も、身体はヒト側ではないですけれど、魔族側でもないです。
 受け入れて上手くできるほど、器用ではないんです。…アウロラさんから見ればただ、未練たらしいのかもしれません。」

むずかしいですね。と笑う顔に屈託はない。
飢えに苦しむのも受け入れると決めてしまった事だから、女自身に葛藤はないようだった――――今のところは。

「私も過剰に反応をし過ぎました。すみません。
 …アウロラさんは親切で言ってくれたのでしょう?」

ぺこりと頭を下げる姿に、もう宙に浮かぶ彼女への警戒心はないだろう。
頭を上げた女の表情には、少しの親近感めいたものが乗って彼女を見遣る。

「…もしよければ、ここで少しお話していきませんか?
 出先で何もおもてなしもないですけれど。
 この街の昔の事でもいいですし…アウロラさんの事が少し、知りたいんです」

そう言って噴水の淵を示す。
彼女が許せばそこへ腰掛けて、しばらく彼女自身の事や魔術の事を、他愛もない範囲で話してもらうつもりで。

アウロラ・ラディス > 「一度こういう身体になってから戻った事例と言うのはあまり聞かないな。
それも本当に戻ったかどうか怪しいものが多い。」

どうやら咄嗟に身構えたが、結局のところ敵ではないと思われたようだ。
私は少し物足りなかったのか、不意に口から息を吐いていた。

「未練たらしいと言うつもりはないが、その体質の君を周囲は人だとは思ってくれんだろう。
迫害を恐れながら孤独に飢えと戦うなど、過酷だと思うが。」

彼女は見た目通り強い意志を持っている。
私は感心するように首を縦に動かしつつも、思った事を述べた。

「いいや、親切心ではないぞ。
君のことを可愛らしいと思ったから声を掛けた。」

頭を上げるのを待ち、心中を吐き出した。
実際に私は欲の強いタイプだ。
それを隠すつもりもない。

「そうだな、では私のことを話そうか。
私は元は宮廷魔術師でな。
こう見えても昔は貴族だった時期もあったんだ。
ある日、家が御取り潰しを受けてな。
それ以後は平民地区で暮らしている。
さっきも言ったように魔族からも貴族からも依頼を受けているからな。
場合によっては君の敵として出会うこともあるかも知れないな。

どうだ、少しは私に興味が湧いたかな?」

杖に跨ったまま彼女の目の前に近づき、簡単に身の上を語る。
さて、彼女はどんな反応を示すことだろうか。

ナラン > 魔導士で、不死者だという彼女。
きっと自分よりは年長だろう、等と一種呑気な事を考えながら、彼女の言葉を聞いている。

「声を掛けたのは、後ろからだったじゃないですか。
 アウロラさんも飛んだナンパ師ですね」

くすくすと笑う。
過酷な道のりなのは承知の上だから、先に言われた言葉には苦く笑うだけ。女は漸く短剣の束から手を離して噴水の淵に腰掛け、宙に浮かぶ彼女を見上げる。

「そうでしたか。貴族……取り潰しというのは、何となく解ります。
 ―――ご家族は?
 …そうですね。できるだけ、直接戦場でお会いしたくはないですけれど」

実力的にも、今となっては感情的にも。
興味を持ったか、と言われると女は曖昧に笑って彼女を見上げ、首を傾げて見せて
暫しの後肯定の証に少し、頷くのだろう。

そうして神聖都市での深夜の語らいは、夜明け近くまで続いたかもしれない…

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 広場」からナランさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 広場」からアウロラ・ラディスさんが去りました。