2021/05/03 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 広場」にナランさんが現れました。
■ナラン > 深夜の神聖都市は、女が考えていた以上には明るかった。
石畳で奇麗に舗装された路は広く整えられ、何かの象徴だろうか、飾りのついた街灯も規則正しく設えられて隅々までが照らされている。
街並みにはそれぞれの区画ごとに寺院と教会とが混ざって、民家や宿屋、店屋などもそれぞれの寺院の意匠に合わせたようなつくりになって、街灯の後ろで月明りにくろぐろと聳えている。
夕暮れに王都を発って、都市についたのは真夜中。
商人?の護衛で宿も先方持ちだったから、深夜にひとり都市を漂うこの女は今宵寝る場所に困っているわけではない。
只―――最近昼明るい内は眠るようになったせいか、夜は少しおちつかない。ベッドに転がるのを諦めてひとり、深夜の街歩きを始めたところ。
珍しそうに道を行けど、流石神聖都市というべきか、取り敢えず大通りに面した場所で灯りを零す賑やかな店も、道行くひとも見当たらず
整った街並みを見上げては、感心したような吐息を吐いて軽い足取りで歩みを進めて―――ふと辿り着いた広場に立ち止まる。
中心には小さな噴水。
何か神に関連するものか、獣を模った彫刻が真ん中にあって、周囲を水を吐きだす魚たちが守るように配置されている。
噴水を見るのは初めてではないけれど、きらきらと月明りを弾く様子には惹き付けられるものがあって
女はそちらへと歩みを進めて、辿り着けば揺らぐその水面を覗き込んだ。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 広場」にアウロラ・ラディスさんが現れました。
■アウロラ・ラディス > この街に来るのも久しぶりか。
私は以前来た時よりも神聖な空気が匂わなくなってきた街の状況に口元が緩んでしまった。
わざわざこの街に足を運んだ理由もなくなり、今は自由だ。
用もないのなら宿で大人しくしているのが賢明なのだろうが、今日はなんだか気分が良かった。
私は風が運ぶまま、夜の街を一人でうろついていた。
確か、このまま歩くと噴水があった気がする。
少し興奮気味に駆けだすと、この辺りでは珍しい格好の女性が目に留まる。
どこかの民族衣装なのだろうが、纏う雰囲気がそれだけではなかった。
確証はないが、私と同種のような。
「良い夜ですな。
そうは思いませんか。」
私は少し離れた位置から彼女に声を掛けた。
さて、どうなるか。
■ナラン > 覗き込めば移るのは揺らぐ月。
まるで夜空がそのまま揺らいでいるような―――…心地よい、夜が
そうして見入ったのと、背後から声を声を掛けられたのはほぼ同時だったろうか。
弾かれたように屈み込んでいた姿勢を直したのは少しの気恥ずかしさのせい。それからゆっくり振り返って……夜ので追いやられた闇が起き上がって其処にいたような錯覚。黒のドレスを纏った女性だと気づくまでに、ふたつ、鳶色の瞳を瞬き。
「―――こんばんは。
はい、良い、夜ですね…」
驚いたような様子は解ってしまっただろうか。
兎も角も女性の姿に少しの安堵で口の端に笑みを浮かべて言葉を返して、その姿を眺めながら首を傾げて見せる。
「貴方も、夜の散歩ですか?
…私は、着いたばかりですこし眠れなくて」
自分は冒険者だからまだいい。
しかしドレスを纏う彼女は、幾ら神聖都市と言えど、深夜に彷徨う類には思えず
そんな問いを、心底不思議そうに、心配そうに。
■アウロラ・ラディス > 「本当に良い夜で。」
私は口の端を伸ばし、努めて柔和な表情を浮かべた。
突然知らない女に話しかけられたのだ。驚くほうが普通だろう。
「ええ、良い月でしたのでついつい外に出てしまいました。
久しぶりに来たのですが街も以前よりも過ごしやすくなってましたし。」
上空から見下ろす月を見上げてから、彼女の顔を改めて眺める。
どうやら私の格好が奇異に見えた様だ。
「この格好ですか? 私はこう見えて魔術師をしておりまして。
今日は顧客の一人と会う予定でしたのでそれらしい格好をしてたのですよ。
本当ならもう着替えて寝ている筈でしたが、ついつい出かけてしまいました。」
手にしている杖を揺すり、魔術師であることをアピールする。
「貴方は冒険者ですかな?
それに少し不思議な力も感じる。
貴方も感じませんか?」
■ナラン > 「…そうですか。
私は『以前』を知らないので」
首を傾げたままそう応える。
来たのは今回が初めてで、しかも未だであった街の人間と言えば宿屋の者だけだ。
佇む彼女が手にして、揺れる黄金の杖を見てようやく納得がいく。
魔法には全く馴染みがないけれど、その威力は目の当たりにしたことが何度もある。
「魔術師さんでしたか。―――すごいですね。私にはそう言った力が全く備わっていないので」
苦笑にも似た表情で首を戻す。
改めて彼女の顔を見れば、その紫の瞳は吸い込まれそうにも思える…
「――そうですね。たまに、の冒険者なのであまり堂々名乗れないのですけど…
……不思議な力、ですか?」
問われると今度は反対側へ首を傾げる。
彼女からは間違いなく、雰囲気だけではないナニカを感じるけれども…
「―――いいえ、特に、わたしは…」
今は身の内に血の飢えを感じていない。
ともすれば女は自分が『其れ』であることを忘れる。
なので心底の応え。不思議そうに瞬く瞳が、彼女を見返すだろう。
■アウロラ・ラディス > 「以前はね、もう少しだけ力が強かった街だった。
それはもう、私からすると疲れるくらいに。」
杖を中空で水平に浮かせ、その上に腰掛けた。
魔術師ならばよくやる行動だろう。
「そうか? 貴方にも素質は備わっているように思えるのだが。
触れる機会がなかっただけではないのか?」
私は彼女の瞳をじっと眺めていた。
意思の強そうな瞳だ。頑張った所で魅了することはできそうにもない。
「名乗りたくないのなら構いませんが。
…ええ、もっと言うならば人の領域を超越した力と言いましょうか。」
彼女は己の事を把握していないのだろうか。
どうにも反応が鈍いような…それとも、こちらを警戒しているのだろうか。
私は杖に座ったまま、2歩ほど近づいて見せた。
「では尋ねるが、貴方は飢えを感じたことはないかな?」
私はこれ以上まどろっこしいやり取りをするのも苦手なので、距離を詰めながら核心を突くことにした。
彼女がどういう心境であれ、ここまで言えば何らかの反応を示すだろう。
■ナラン > 「力…」
ふわりと宙に浮く姿を軽く目を見開いて見る。
魔法という存在と、それを扱う者があるという事には慣れたけれども
実際目の当たりにするといつも驚きは隠せない。
――――戦場を除いて。
「いえ、そんな…
わたしは『ナラン』と言います。元々は遠くの…田舎の出身なので」
触れた事がない、と言われれば、そうなのだろう、と頷いて見せる。
彼女がどう思っているのか把握しようもなく、近付く姿もまた興味深さと、少しの警戒心とでじっと見つめて佇む。
――――と
その女の瞳たまた軽く見開かれ、手が拳を握ることになる。
一瞬顔を彼女から逸らして俯けて
「――――いえ…
いいえ。
………――――――そうですね。たまに」
上げた顔には自嘲のような表情。
『飢え』の詳細には触れようとしない、彼女が自分を如何しようというのか
見定めるように、月明りの下、鳶色の瞳の光が強くなる…
■アウロラ・ラディス > 「以前のこの街は私のような存在では近づくことも出来ない様な場所だったそうじゃないか。」
胸元に手を宛て、ため息を吐きながら口を動かす。
これで私がどんな存在か察しがつくことだろう。
「なるほど。
私はアウロラ・ラディスと言う。
王都で主に活動している魔導士だ。」
頷く彼女を瞳を細めて見つめていた。
どうやら彼女も多少はこちらに興味をもっているのだろう。
警戒しながらだが、直ぐに逃げるような素振りも見せ無かった。
彼女が視線を逸らした瞬間、また一歩距離を詰めた。
どうやら思い当たる節があるのだろう。
私は彼女の返答を待ってから口を開く。
「そうだろう、そうだろう。
君と私は似た様な存在のように思えたのでね。
おまけに君は自分の現状に目を背けているようだ。
どうだろう、君が良ければ喉を潤すものを提供しようと思うのだが。」
私は彼女の瞳を覗きこんでいた。
もはや詳しくは聞かずとも何に飢えることがあるのかは分かっている。
■ナラン > 溜息を零す彼女を訝しげに見つめながら、神聖都市と彼女の関係を思う。
何かしら、この国の神とやらと敵対するような存在なのだろうか?彼女が?
「よろしく、アウロラさん…
―――――いえ。」
また近寄っていた彼女の美しい顔へ、暗く微笑んで見せる。
帯に挟んだ短剣の柄に手を添えたのは、狩人か狩られる者かの反射に近い。
「いいんです。これは…この飢えは私が抱えるべきものですから。
…叶うならいつか帰って、家族にまた会えるように。
ご親切には、感謝します」
『その時』目を逸らさないで居られるよう、ヒトからは貰わないと決めた。
気遣いか、まさかの『提供』を申し出てくれた彼女に軽く頭を下げて見せて、再び上げた表情はすこし気を許したようにも微笑む。
「多少現実を見て居ないのかもしれないですが、出来る間は、やせがまんもしようと思っているんです。
…貴方が似た存在、というのは、意外です」
魔術師という以上に、彼女には何かがあるのだろうが、どうにも魔力というものが絡むとよくわからない。
「あなたも――――『飢え』ることが?」
思わず問うてしまったのは、同じ境遇かもしれない人に、初めて出会ったからだろうか。