2021/01/30 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 教会・礼拝堂」にジギィさんが現れました。
■ジギィ > 夕暮れの日差しがステンドグラス越しに僅かな光を差し込む礼拝堂。
壁にも祭壇にも燭台があって灯りが灯されているが、室内に満ちる静寂を表すように、薄闇があちこちに蟠っている。
その空間には今修道士や修道女たちはもとより、祈りを捧げに来る市民といった風情の姿も見当たらない。
遠くから讃美歌のようなものが聞こえるのは、果たして別棟からだろうか。
そこへ薄闇を抜けるようにして、灰色のフードを目深に被った人影がひとつ、祭壇へとゆっくり近付いていく。
「―――…」
(勝手に入っちゃったけど…)
何となく声は発さないまま、好奇心の光を宿した瞳を壁やら天井やら机やらカーペットへと向けながら、銅色の肌の女エルフは祭壇へ歩みを進める。
仕事の『お使い』が終わって、ちょっとした観光気分で覗き込んだ場所。
何が女がそこへ引き込んだかというと――――
「……おお…」
祭壇のごく近くまでくれば、それは高さが女の背丈と同じくらいか、巨大と言っても良いくらいの、竪琴。
祭壇の後ろのほうに『聳える』と言っても良いくらいの其れを見上げて、女はぽかんと口を開ける。
「……―――」
次いで、きょろきょろと辺りを見回して。
「…お邪魔します」
こちらの文化の神に一応のお断りを入れて、祭壇へ登る階段へと足を掛ける。
ぎぃっ、と軋む音を最小限にしようとする努力は、決してやましい事があるからではない…はず。
■ジギィ > 祭壇を登りきると、真っ直ぐに落ちて来る光に新緑の瞳が細められる。
そうしながらも、その視線は半ば薄暗い闇から浮かび上がるような竪琴の姿をじっと見つめている。
見た事のない大きさの竪琴。
今までは精々抱えられる大きさのもので、それで音階を作り上げるのに苦労しながらも楽しんでいた、
よくよく見れば張られた糸も繊細に太さを変えられている。
文字通り魅せられて、灰色ローブの奥から片手を伸ばして―――
ぽん
誰もいない室内に音が響いて、振動で灯りが一瞬揺らぐような感覚。
指先に伝った振動―――…思わず次の弦へと指を伸ばして
その指は触れて、弾かないまま、女は溜息を零す。
此処で今弾いたとしても、心焦がれるようになるだけ。
何か正当な手段で、これに触れる許しを得られないと―――何だかもやもやする。
名残惜しげに指を引くと、そのまま後退りするように竪琴から離れる。
祭壇に降り注ぐ夕陽越しに見るそれが、また憎たらしいほどに美しく思える。
「―――おぼえてろよ」
何だかよくわからない捨て台詞をひとりぽつんと零して
女は身を翻して、蝋燭の灯り揺れる薄闇を抜けて、教会の外へと―――
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 教会・礼拝堂」からジギィさんが去りました。