2020/11/07 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
神を祀る都市。王国の繁栄と守護を祈る――というお題目で、栄華を極めている此の都市が、己はそんなに好きではなかった。
何せ、己に近付く者は口を開けば寄付だの喜捨だのなんだのと。
ホーレルヴァッハ家の財産を目当てに擦り寄る者ばかり。
此れが貴族や商人であれば可愛げもあるが、高位の司祭として信者の尊敬と崇拝を集める者達に擦り寄られれば、嫌気もさすというもの。
「大体、神に祈って物事が叶うのならば苦労はせぬ。
信仰など、努力を怠った者の言い訳だろうに」
そんな司祭たちとの会食を終えて、不満たらたらにどかりと教会の長椅子に腰を下ろす。
月光がステンドグラスから教会を照らし、女神像を白く照らしている。
これを造るのにかかった金で、幾らの貧民が救われるのだろうかと考えれば、思わず苦笑いも零れてしまうだろうか。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にヨミさんが現れました。
■ヨミ > 「あぁぁぁ……神様ぁ、どうか勤勉な私に今日の糧をぉ……」
深々と頭を垂れ、女神像に向かって両手を合わせる少女の姿がある。
祈りの作法もまったくなっていない所作から、教養の低さを伺わせる姿だった。
その日、少女ヨミは糧にも宿にも困っていた。赤貧であるからだ。
生業とする闘技場の闘士も、暗部の依頼も近々全く羽振りが悪い。
闘技場から出禁にされた数は10を越え、何故か身を寄せた街は治安が良く、儲け話の欠片も得られていない。
正に最後の神頼みとばかり、日頃信じてもいない神に対して頭を下げるしかする事の無い状況。
そんな少女は、苦笑いを浮かべる見目麗しい少年の隣に腰掛け暫くの間ブツブツと念仏めいたものを唱えていたが、
気が済んだか顔を上げれば、そこで漸く隣に少年が腰掛けている事に気付き一寸気まずそうにモジモジと身体を揺らした後――
「あ、あのー、こ、ここ、こんばんはっ。良い夜ねっ?ええと……お嬢さんっ! 教会にはお祈りに来たの?」
気まずさに耐えきれなくなったのか隣の少年へと上ずった声で尋ねる。どうやら、少年を少女と見間違えている様子だった。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
懸命に祈る様は、或る意味敬虔な信者と言えなくも無いのだが。
己の隣で祈る理由が漏れ聞こえれば、浮かべていた苦笑いも深くならざるを得ない。
まあ、そういう世俗的な理由も叶えてやらねば、神などと名乗るものでもなかろうと、祈りを下げる女性をぼんやりと眺めていれば、顔を上げた彼女と目が合って。
「――…ふむ?良い夜である事は否定せぬ。しかし、別に祈りに来た訳では無い。
私は貴様程飢えている訳でも無ければ、金に困っている訳でも無い故な」
高慢かつ傲慢な声色で言葉を返す。
しかし、その表情は微妙に不機嫌そうに顰められているだろうか。
――何せ、コンプレックスに近い容姿を、間違えられたのだから。
「……まあ、そうさな。男を女と見間違えるようでは、神様とやらも今宵の糧一つ、恵んではくれないだろうよ」
装飾過剰な豪奢な礼服を僅かに揺らして。
不機嫌そうな声色で、彼女に言葉を投げかける。
■ヨミ > 「――え゛っ」
目が合い、口を開いた少年から返された言葉に思わず濁った声が出てしまった。
可憐な容姿と一見不釣り合いに見える尊大な口調に思わず何度かまばたきを繰り返した後、一度コホンと咳払いをして――
「――そっか! うんうん、そっか。良かった。
貴女みたいな娘が神様なんて居もしないものに縋る様になっちゃったらいよいよ世も末だもんね。……はっ」
満面の笑顔でそう返した後、すぐにはっとして両手で口を覆う。
神を信じていない口がつい滑ってしまったが、ここは教会だ。辺りを伺いながら再び咳払いをして言葉を誤魔化した。
「――え゛っ」
少女の口から再び先程と同じ様な声が上がる。
少年の姿を丸々とした目で暫くぽかんと見つめた後、開いた口をなんとか塞ぎ。
「ご、ごご、ごめんなさいっ!えぇと、男の子……だったんだ……。
そ、その、あのねっ。あまりに綺麗だったから間違えちゃってっ!
失礼だったよね。悪気は無かったの、許して……っ!」
改めて相手の様子を伺えば、明らかな不機嫌を察して咄嗟に深々と頭を下げて両手を合わせる。
暫く頭を下げた後、ちら、と上目遣いに少年の様子を確かめては、再び頭を下げてを繰り返していた。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
何とも珍妙な声と共に色々と言葉を並べたてた挙句、頭を下げたり此方を伺ったりと、忙しなく上下する彼女の頭を眺めながら深い溜息。
「……いや、もう構わぬ。というか、貴様を見ていれば何だか毒気が抜かれてしまった。
悪気が無かったのであれば、私も深くは問い詰めぬ。だからいい加減、頭を下げるのを止めろ。ついでに、此方の様子を伺うのも止めぬか」
はあ、と溜息を吐き出して呆れた様な視線を彼女に向ける。
そのついで、という訳では無いが、観察する様な色の視線も、彼女に向けられるだろうか。
所謂、軽鎧といった類の防具。随分と露出度が高い様にも見受けられるが、軽装の戦士とはこんなものなのかな、と内心思っていたり。
先程の神への祈り――というか、半ば懇願を聞いている限りでは、食い扶持に困った冒険者か何かかなと思考を巡らせていたり。
「……とはいえ、性別を間違える相手には気を付ける事だな。
此れでも私は、マグメール王国を預かる王族の地位を戴く身。
同じ立場のものであれば、その発言だけで切り捨てる様な者もいるやも知れぬぞ?」
顔と体格に似合わぬこましゃくれた言葉遣いと共に、再び呆れた様な溜息を吐き出して、肩を竦めてみせるだろうか。
■ヨミ > 「……え。ほんと? 許してくれる? ……良かったぁっ」
下げた頭に少年の言葉が届けば、勢い良く上体ごと顔を上げてにっこりとした笑みを見せる。
豊満な乳房がゆっさりと大きく揺れ踊るのも構わず、子犬の様に人懐こい笑みを少年へと向けたと思えば
「――なぁに? お姉さんの事じっと見て、おませさんだなぁっ!
ふふふ、ふふんっ。ちょっと気分良いぞっ。飴でも舐めるっ?」
少年からの視線を勘違いした少女は胸を張って得意気な様子を見せた後、
懐から取り出した飴の入った袋包みを少年へと差し出した。赤貧の割には上等な菓子だ。
「ぅ……そ、そうだね。ありがと、気を付け、る……、……へっ?
え、あ……えっ!? ぉ、ぉぉお王族っ!? 嗚呼っ!どおりで凄く仕立ての良い服っ!」
少年の言葉に再び驚き慄く様子を見せた後、今度は納得といった様にぽんと両手を打つ。
「あははは……確かに、王族の人に無礼を働いたりしたら首が飛んじゃうよね。気をつけるっ。
キミがすぐに斬り捨てる様な王族さんじゃなくて良かったぁ……
死ぬならせめてお腹いっぱいの時が良いもん。ぁ、お礼にもう一つ飴あげるねっ」
少年の返事も待たず、半ば強引に飴玉を手渡す少女。
驚き戦いたのも束の間、少年への態度は別段変わる様子も無い。
あまりにも不遜な態度だ。加えて極めて馴れ馴れしい。
「そっかぁ……それでそんな偉そうな話し方だったんだ。納得っ。
偉そうなんじゃなくて、偉かったのね!でも、王族の人が独りでこんな場所に居て大丈夫なの?
――あ。私、ヨミ。名前ね? 名字は無い只のヨミ。宜しく、王族さん」
矢継ぎ早に納得したり質問したりしたと思えば、勝手に名乗って握手まで求めながら、再び少年へと笑いかけた。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「…感情の喜怒哀楽が激しいものだな。別に構わぬが」
がば、と擬音がつくような勢いで顔を上げた彼女に少し驚いた様な、ぱちくりとした表情を浮かべた後。
クスクスと小さく笑みを浮かべて、子犬の様な笑みを浮かべる彼女に言葉を返す。
「誰がおませさんか誰が。
…だが飴は貰う。丁度、甘いものが欲しかったところでな」
ジトっとした様な視線で無礼というか無法な彼女の言葉にちょっとだけ小言を言いそうになるものの。
甘党の己に差し出された飴玉には、素直に喜色を浮かべてしまうだろうか。
「…死に至るまでの条件が軽いな。満腹ならそれで良いのか。いや、そういう訳でもあるまいが…」
本当に、ころころと表情の変わる事だと彼女を眺めながら、渡された飴玉を口の中へ。
甘ったるいそれを口内で転がしながらも、馴れ馴れしい迄の彼女の態度を特に咎める事は無い。
咎めても無駄だろうし、特段そういう態度が嫌い、という訳でも無い。
よって、彼女の態度が不遜極まりないものであっても、尊大で横暴な態度は崩さぬ儘、言葉を紡ぎ続ける。
「先程まで司祭達と会談を行っていたからな。
それが終わった後、此処でちょっとぼんやりしていただけだ。気にする事は無い」
「……ヨミ、か。私は……ギュンター。ギュンターと呼ぶと良い。本名は無駄に長ったらしいからな。覚えなくとも良いさ」
家名を名乗る事は無い。
それは、明るい彼女に釣られたからか。はたまたギュンターという一人の少年として、何となく彼女と話をしたかったからなのか。
差し出された手の意味を察すれば、特に拒絶する事も無く握手を受け入れる。
如何にも箱入りの王族と言わんばかりの華奢な掌が、彼女の手を握り返すだろうか。
■ヨミ > 「え? そう? それって褒めてる? ふふ、ありが、と……わぁぁ……っ」
喜怒哀楽が激しいと返す少年に「照れる」と返したと思えば、小さく笑むその顔を覗き込んで瞳を輝かせた。
「――やっと笑ってくれたぁ! はぁぁ……思った通り、眼福で御座います」
心底嬉しそうに破顔した後、わざとらしく大げさに両手を合わせて頭を垂れる。
飴を素直に受け取る様子には、隠し事が出来ないのか大口をあんぐりと開けて驚いて見せたが、
少年の問いを聴けばふにゃりと表情を緩めながら項垂れて見せ、
「うぅ……。私みたいな貧乏人からしてみたら、満腹って凄い価値なんだよぉ……。
もう三日三晩飲まず食わずで、このままじゃ死んじゃう~と思って神頼みしに来たくらいなんだからぁ~……」
ぐすんと涙ぐむが、飴を口の中に放って舐め転がすその所作を見れば、
やはりニコニコと人懐こい笑みを浮かべながら、ほんの少し座る場所を変え、距離を縮めた。
「あぁ、会談っ! うんうん、私も良く会談の場には行くよ。主に邪魔しに行くんだけどっ。
そんなに若いのに、王族さんも大変なんだね。ぁ、疲れて休んでた~、とか? 邪魔しちゃってたらごめんね?」
ごめんね、等と言葉にはしたが二言目には「許してくれるよね?」等と口にする。
少年が名乗り返せば、何度かその名前を唱える様に復唱して――
「ギュンターくんっ!ふふ、覚えた覚えた。王族の人に名乗って貰ったのも、
こんなに傍で話をしたのも初めて。明日は嵐かなぁ。――ぁ、ギュンターさまって呼んだ方が良い?
歳上の美人なお姉さんに"さま"付けで呼ばれるのって、ちょっと嬉しかったりするでしょ? するよね?」
うん?うん?と、まるで甘えた子犬の様に詰め寄りながら上機嫌に言葉を綴る。
少女ヨミは暗部のニンゲンだ。実のところ、王族と会話を交わした事も何度かあった。
が、それは決まって仕事の折。つまる所、話した相手を殺す前、今際の数刻のみの事。
だからこそ、少女は笑顔を浮かべている。こうして何でもない会話を交わせる事が、心の底から嬉しかった。
「ねぇねぇねぇ、ギュンターくんってさ――……王様になるの?」
握手の手が握り返されれば、ふと、そんな事を少年に尋ねる。
何の前触れもなく、笑顔のまま。まるで今夜の献立てを尋ねるかの様に気楽に、だ。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「…別に褒めては……いや、もうそれで構わぬ。うん」
最後の方は、大仰な言葉遣いも崩れてしまった。
此方の顔を覗き込む彼女に、ペースが乱されているとでも言う様に。
「……何だ、人が笑った程度で大袈裟な。
私だって人間だ。笑ったり怒ったりもする」
嬉しそうに破顔した彼女に、不思議そうに首を傾げた後。
眼福だと告げられれば、ちょっとだけ気恥ずかしそうに顔を背けるのだろうか。
とはいえ、ふにゃふにゃと表情を緩めた彼女を見れば、再び呆れた様な視線を向ける事になるのだが。
「神頼みに来るくらいなら、物乞いでもしていた方が建設的だとは思うがな。
それか、その躰を一晩売れば、数日は衣食住が何とかなるのではないかね」
神に祈る前に行動したらどうだ、とちょっと小言めいた事を。
王族の己が言っても余り説得力はないかも知れないが。
――距離を縮める彼女には、少しだけ怪訝そうな表情を浮かべたりするのだが。
「……貴様が高位の者達の会談に参加するとなると、碌な事では無さそうだな。
ああ、構わんよ。疲れてはいたが、疲労困憊という訳でも無い。こうして貴様と話している方が、多少なりとも気が紛れるというものだしな」
許しを請う言葉には、苦笑いと共に頷いて――
「私は王族とはいえ嫡男の身。言わば、正式に当主の座にある訳でも無ければ、実権は父上が握っている故な。
余り堅苦しい事も好かぬし、身分の差で口をきかぬという事も無いさ。
……別にどう呼んでも構わんが、様をつけられる事など日常茶飯事故、どうとも思わぬぞ」
子犬の様に擦り寄る彼女に、小さく肩を竦めつつ。
先程の彼女の言葉を思い返す。
彼女の様な見た目の者が、会談に参加する、と言った。
それはまあ、碌な事では無いのだろう。
よくて護衛。下手をすれば暗殺。
流石に、今回の出会いは偶然であると信じたいが――
「……そうだな。そうなるべく日々努力しているよ。
此の国の王に。此の国を統べる者に。
そうなる為に、私は研鑽の日々を送っている」
さりげなく尋ねられた一言。
僅かに瞳を細めて彼女をじっと見つめれば、小さく吐息を吐き出した後――彼女と同じ様に、軽い声色で言葉を返すだろうか。
■ヨミ > 「え? 笑顔が見れるのって凄く嬉しいでしょ? だから大袈裟なんかじゃないよっ。
そ・れ・にっ。ギュンターくんみたいな男の子の笑顔は、お姉さん方にとっては貴重なんですっ」
少年の言葉に、ヤレヤレと。何やら呆れた様な素振りすら見せながら人差し指を振る。
気恥ずかしそうな所作を見れば、その様もまた微笑ましく、慈しむかの様に眺めていた。
「物乞いをすると、その……色々と要求される事が多くって……
って、こら!か、かか身体を売るとか言わないのっ。あーもう、びっくりしたなぁ……。
そういうのはあんまり……ち、ちょっと、お姉さん的に色々と都合が悪くってね……」
少女の身体は隅々まで弄り回され、愛玩される為の調整がされきった肉体だ。
情事に近い行為を受ければ、それがどの様な相手でも抗う事は出来ない。
作り変えられた身体だけは自分自身で制御する事も叶わない少女にとって、
性行為程恐ろしいものは無い。少年には……当然と言えば当然か、伝える事は出来なかったが。
「う、うぅぅぅ……厳しい言葉が刺さる!刺さるっ!じゃあ……、……一晩、宿を下さい……。
何でもしますから……なんなら、屋根さえあれば何処でもいいですから……」
少年の小言を真に受けてぐったりと項垂れれば、少女は即行動に移す。
なんともあろうことか、目の前の少年に一宿を乞うたのだ。
身分が高いからでも、金持ちであるからでもない。きっとこの少年が街の平民であったとしても、同じ事をしただろう。
「ふむ……ふむ……へぇ、そうなの?ふぅん――……?
……って、えぇ~!? そっかぁぁぁ……これが王族かぁぁぁ……っ。
ドキドキしてる所を見れると思ったのに、お姉さん結構ショックかも……」
少年が口にする位の話。権利の話。それ等を耳に入れる際、
ほんの少し。細やかな違いではあるものの、薄く瞼を細める少女の雰囲気は静けさを纏うものだった。
が、呼び方に対する狙いを外せば大袈裟に、けれども本気で落胆する自称美人のお姉さん。
「……そっか。そっか。じゃあ、可能性としては、あるんだね。キミがこの国の王様になる未来」
握手の手にほんの少しだけ力が籠る。ゆっくりと手を離せば、一寸自分の手をじっと見つめた後、少年に再び向き直り――
「ねぇ。もし王様になったら、私の事雇ってくれないっ?
身体を張ったことしか出来ないけど、半端に鍛えた兵士50人くらいならササっといなせる程度には強いんだっ。
きっと役に立てると思うな。どう? どう? 自分を売り込んで見るっ」
互いの瞳が交差したまま、ずいっと距離を詰めてそんなお願いをする。
表情はにこやかな笑顔だ。キラキラ輝いてすら居て、とても期待が籠められた目だ。暑苦しい程に。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「……何だか良く分からんが…まあ、喜んでもらえているなら何より…なのか…?」
人差し指を振る彼女に、何だか微妙な敗北感を感じつつも。
やっぱり、其処まで喜ぶことなのだろうかと小首を傾げながら、胡乱な思考の儘頷くのだろうか。
「…此の国では、金に困って身体を売るなど日常茶飯事であろうに。それとも、そんな恰好をしていて案外初心なのか?」
少女の事情は露知らず。
わたわたと否定されれば、へえ、と言わんばかりの揶揄う様な声色が向けられるだろうか。
まあ、案外貞操観念が高いのかもしれない――と、勘違いを孕んだ儘会話は続く。
「……何というか。会ったばかりの男に宿を強請るその図々しさは尊敬に値するな。
しかし、構わんよ。どうせ部屋は余っている。私の屋敷で良ければ、泊まっていくと良い。
行動には、結果が伴う。貴様が行動した褒美くらいは、王族として施してやらねばならんからな」
その行動力には呆れた様な笑みが零れてしまうものの。
いとも容易く、あっさりと。少女の懇願には、頷いてみせるだろうか。
小言を受け入れた褒美、と言わんばかりに、穏やかな笑みを浮かべて。
「――とはいえ、父上は王位を狙うつもりがない。
よって、跡継ぎである私が必然的に王位継承権を求める事になるから、色々と苦労も絶えぬ、という事だ」
「この私にショックを受けて欲しければもう少し頑張る事だな。名前を様付けで呼ばれた程度で、王侯貴族が揺るぐと思うてか」
少女が見せた一瞬の変化。纏う雰囲気の変遷。
それは、感情豊かな少女に振り回されがちな己でも、気が付く事が出来た。
寧ろ、そういった感情の方が気付きやすい。陰謀の伏魔殿と化した王城で向けられる感情に似ているものは、大体察する事が出来たのだから。
それでも、敢えてその変化の理由を問わず。
寧ろ己の立場を少しだけ詳しく説明したのは――少女の狙いを探る様なもの、であったかもしれない。
そして、己の手を離した後。自分の手を見つめてから再度此方へ向き直る少女の言葉を、真面目な表情を浮かべてその言葉を聞き届けて――
「……其処まで自信があるというのなら。
そして本当に、其処まで己の才覚に自負があるというのなら。
私が王にならずとも、貴様を雇ってやる事は可能だ。
貴様にその気があれば…の、話ではあるが」
更に距離を縮めて、瞳をぶつけ合うかの様な距離で紡がれる彼女からの提案。
その提案に、暫し考え込んだ後――逆に、彼女を試す様な言葉と共に、じっと見つめ返すのだろうか。
■ヨミ > 「も、もう……っ、お金に困って身体を売るのが日常茶飯事だなんて思いたくないのっ。
ギュンターくんが王様になったら、そんな事の無い国にしてくれるっ?
って……そ、そんな格好って何!? 私の格好、そんなに可笑しい……っ!?」
少年の言葉に頬を赤く染め、ぶんぶんと首を横に振りながら答える。
見目麗しい歳下の少年からそんな事を言われては、恥じらうのがヨミという少女だ。
己の格好に対する言及を受ければ、思わずその場から立ち上がって大声で問いかけ、自分の格好を見回した。
「た、多少図々しいくらいじゃなきゃ、野良の旅なんて出来ないから……ッッ!
って……ぇ、え? ほ、ほんと? ほんとに? 良いのっ!?
ぁ、ぁ……あ……っ、ぁありがとぉ~~~~~っ!!
はぁぁ、良かったぁ……良かったよぉ……っ、奇跡だよぉ……っ!
なんでも言って? お礼ならなんでも、料理でも掃除でも洗濯でも……
あっ。ギュンターくんが相手なら、エッチな要求でもお姉さん受けちゃうかも、なぁんてっ」
当然ながらダメ元だった呟きに手を差し伸べられ、少女の目には少年の姿が眩しく見えた。
そう思えば、不敬も何も関係無いとばかりに少年に喜びのまま抱き着こうとしながら笑顔を浮かべた。
「……私さ。自分が産まれた国、もう無いんだ」
互いの握手の手が離れ、少年から試されるかの様な言葉を投げられれば
少女は一寸、何処ぞとも言えぬ遠くを見つめながら瞼を細め、呟く。
「――なんて言うのかな。治安とか、すっごく悪くてね。
その癖国力も脆弱なものだから、国が纏まる事すらなくて。
あっけなく侵略されて、たくさんたくさん奪われて、なくなっちゃった」
眉尻を下げた儚い笑みを浮かべ、再び少年に向き直り――
「――だからさ。私、この国はそうならないと良いな、なんて思ってね。
その為に結構危ない仕事をしたりとかもしてて、ほんの少しでも役には立ててると思うんだ。
でも、やっぱり私みたいな人間紛い独りじゃたかが知れててさ。
――……ねぇ。キミが王様になったら、国は良くなると思う?
奪われたり失ったり、しない国になる可能性って、あると思う?」
じっと見つめる少年の瞳を、こちらも真っ直ぐに見つめ返す。
そうして儚い笑顔のまま小首を傾げ、少年へと一つ、問いかけを返した。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からヨミさんが去りました。