2020/06/30 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にアマンダさんが現れました。
■アマンダ > ―――――朽ちかけた屋根を叩く雨音に、沈みかけていた意識が浮上する。
乳母を待っているうち、いつの間にか転寝をしていたらしい。
背凭れが床につく格好で転がった長椅子の座面に突っ伏すようにしていた上体を起こし、
雨音しか聞こえぬ暁闇の中、ぼんやりと周囲に視線を巡らせる。
「……乳母や、……乳母や」
人影らしきものは見当たらなかったが、そう、声を投げてみた。
隠れ鬼をするような状況では無い、だが、しかし。
此の身が乳母にすら見捨てられたのだとは、どうしても考えたくなかった。
胸奥に忍び寄る不安を捻じ伏せようと、両手で胸元をぐっと押さえ、
ともすれば泣き言を洩らしてしまいそうな唇を、きつく噛み締める。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にアルファさんが現れました。
■アルファ > 閑散とした明け方近くの都市を黒布重ねた奇妙なる雨除けを持つ青年が歩いていた。
細かな雨が振り仰ぐ昏い空の下で歩むのを好む人はいない。
切れることなく続く雨音と足音くらいしか聞こえない中で
確かに誰かが呟く声が聞こえた。
闇の中でも光を集めて輝く紅目は周囲を巡らし
1軒の粗末な家屋に視線を留めた。
屋根こそあるが風雨は凌げぬ襤褸家にしか見えないそれに
静かに歩みを進めたのは単なる興味から。
一応は扉らしきものを手の甲で打ち鳴らし。
「誰かそこにいるのか?」
■アマンダ > たっぷりと湿気を吸った重い木の扉が、コツコツと叩かれる音がした。
乳母が其処を潜って去って行った、正に其の扉だ。
其れだけならば、あるいは応じもしただろうが――――、
「―――――――、」
人の声、言葉の内容からして、此処に己が隠れていると知らぬ声。
―――しかも、乳母の声とは似ても似つかぬ男の声だった。
長椅子の陰に隠れるよう、ますます身を硬くして、
呼吸さえ潜めて遣り過ごそうとする。
今は閉ざされている扉が、もしも派手に軋みを上げて開かれたなら、
何はともあれ逃げ出さなくては、と、其方を凝視しながらに。
■アルファ > 「ふむ」
返答はない。普通の者ならばそれだけで踵を返す。
だが半分血を引く妖魔の感覚は広い。
物音一つ立てない居住者の気配を探査の糸に絡め取る。
明け方の来訪に恐れるはここに住まう貧民が眠りに耽っているのか
それとも悪党に捉えられ猿轡をされた憐れなる囚われ人か
判断をする術はない。
長らく迷ってから扉を開き。軋む音に静かな訪ねをいれる。
「失礼。なんだかここが妙に気になってな。
邪魔なら出ていくよ」
■アマンダ > ――――――聞こえるのは、何処までも穏やかな声だ。
けれども追い立てられ、捕らえられた家族の末路も記憶に新しい身にとって、
其れすらも、否、其れだからこそ、恐怖は更に募った。
遣り過ごせたかと思う位の、間を挟んだのも結果的には拙かった。
一瞬安堵しかけたタイミングでの扉の軋み、そして先刻の声、に、
己は一気に恐慌状態に陥って。
「いや、――――――こ、ないで、いやあ、っ……!」
悲痛な叫びを残し、己は後も見ずに逃げ出した。
男が入って来たのとは反対側、小さな裏木戸を半ば体当たりで開いて。
雨の中、パシャパシャと泥濘を行く足音は、時折躓きながらも遠く――――――。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からアマンダさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からアルファさんが去りました。