2020/04/08 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にキャスリーンさんが現れました。
■キャスリーン > 白大理石の床に天井、窓の無い白い壁。
託宣の間という名の割りに、室内に祭壇の類は無く、
代わりに部屋の中央、白いレースの天幕に覆われて鎮座する寝台が、
やけに際立つ、其の部屋の中には、仄かに甘い香の煙が棚引いていた。
ほんの数分前、寝台には二人の人物が居たが、其のうちの一人は、
上気した頬に満足げな笑みを浮かべ、慌しく甲冑を纏い、部屋を出ていった後。
一人、残されたのは、しどけなく裸身を晒す女であるが――――
『巫女様、御仕度を』
次の間に控えていた侍女が二人、入室するや否やそう声を掛けられ、
事務的な手つきで引き起こされる。
薄物ひとつ纏うことを許されず、一人の侍女に連れられて、
奥に設えられた浴室へ――――其の間に寝台のシーツ類は替えられ、
部屋に残る汚れの類も拭い去られて、元通りの瀟洒な部屋の佇まいへと。
浴室では女の身体から、先刻の客であった兵士だか騎士だかの残滓が、
侍女の手で全て洗い清められてゆくのが、いつものこと。
『――…何も、見えません。
私には、何も』
其のひと言を頼りに、あの男は戦場へ旅立ったが。
脳裏に刻まれた血腥い映像を、其処でのみ知った男の顔を、
俯いて瞼を伏せ、身体を流れゆく湯の中に溶かしてしまうのが、
己にのみ課せられた責務だった。
結局のところ、託宣など頼みとする方が間違っている。
悲劇的な結末の話など、誰も聞きたくはないのだろうから。
――――そう呟く代わりに、深く息を吐くのも、いつものことだった。
侍女たちが慌しく働いているのは、次の客があるからか。
どうせ次の客に対しても、見えたものの話は出来ないのだから、
己としては、知っても仕方の無いこと、ではあった。
■キャスリーン > 清められた裸身に薄絹を纏い、元の部屋へと。
日がな一日、寝台と浴室の往復しかしていない様な状態で、
もう、本当は侍女の導きなど要らないのだが。
自由にさせると逃亡を図るとでも思っているのか、
彼女たちはいつも、己の手をやんわりと、けれど確りと捉えて離さない。
先刻までの行為の名残など、綺麗に拭い去られた寝台の上、
そっと腰を下ろした己がひとつ、首肯をしてみせると。
待ちかねたとばかり扉が開き、次の客が現れるのだった。
鎧が擦れ合う音はしない、衣擦れの音は微かに。
其れよりも、鼻腔を衝く香水が独特だった。
王侯貴族、あるいは羽振りの良い商人の類か。
何れにしても、己が其の客の顔を知るのは、
客の未来に暗雲が立ち込めている時に限られる。
閉じた瞼を意図して開き、真っ直ぐに客人の方へ顔を向けて。
「ようこそ、いらっしゃいました。
私が託宣の巫女、キャスリーンで御座います」
いつもの口上を述べて、一拍の間。
さて、此度の客人の運命は――――――――。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からキャスリーンさんが去りました。