2020/02/23 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にエリザベートさんが現れました。
エリザベート > 深更の夜、王侯貴族の寄進により建立されたという瀟洒な聖堂の中。
揺らめく灯火が朧に照らす祭壇の前、跪く白い女の姿が在った。

地下や裏側には黒い噂も絶えないが、其処は本来、
敬虔なる信徒が祈りを捧げるべく膝をつく場所。
然し、女が其処に居る目的は、祈りなどでは勿論、無かった。

「―――― か、み、さま…… わたくし、の、
 …… わたくしの、あかちゃん、居なくなって、しまいました、の」

虚ろな眼差し、感情の籠らぬ声音。
胸の前辺りで組み合わせていた両手が、するりと腹まで滑り降りる。

「わたくし、の、あかちゃ、ん…… ねぇ、
 いったい、何処に、…… どう、なって、しまい……まし、た の」

問い掛ける形の様でいて、答えを期待してはいない。
たとえ答えてくれる者が在ったとしても――――女に、其れを認識することは出来ない。
何処までも空虚な時間が、ゆうるりと流れるばかり。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にダグラスさんが現れました。
ダグラス > 「ふぁ~、くそ夜中に呼び出しやがって」

大聖堂の上階。
貴族の寄付によって建てられた聖堂や教会には大体設置されている貴族や教会の関係者が密談するための部屋。
急な呼び出しを受け、そこでの打ち合わせを終えた帰り。

入口に向かうため扉から出てきたところで祭壇の前で祈りをささげる女の姿が目に入り。
すでにお祈りの時間などとっくに終わりこんな時間に普通の人間が来るはずもなく。
囁いている内容が聞こえれば少し気になり相手に近づいていき。

「よう姉ちゃん、こんな夜更けに何を祈ってるんだ?
 旦那との子供ができねぇことでも悩んでんのかぁ?」

相手の後ろにある信者のための長椅子にドカッと腰掛けて声をかけ。

エリザベート > 背後で人の気配がしようと、己が即座に反応を示すことは無い。
近づいてくる足音にも、男の体重を受けて、背後の椅子が軋む音にも。

普通の神経の持ち主であれば、当然反応する筈の声にさえ、
幽鬼の様に佇む女の背が、僅かなりとも動くことは無く。

「かみ、さ ま…… かみさま、
 わたくし、の、あのひ、と―――――― あの、」

―――――こども。

男が発した其の単語にだけ、辛うじて微か、双肩を揺らす。
ふらりとローブの裾を翻して振り返り、男の方へ顔を向けたものの、
双眸は其の姿を、ただ、硝子玉のように映すばかりで。

「わたくしの、あかちゃ、ん…… あなた、ご存知、なの?」

脈絡の欠片も無い問い掛けが、ぽつりと落ちた。

ダグラス > 「あん?こどもだぁ?」

反応を示したかと思えば幽鬼のように立ち上がり。
まるで精力のない瞳で見られれば怪訝そうに眉を寄せて顎を撫で。
そういえば最近、噂でどこぞの令嬢が誘拐され見つかったころに死産して以降狂ったという話を聞いたことを思い出し。

「それがこいつか……」

始めはどこにでもある噂の類だと思っていたが。
異様な雰囲気を纏う女と出会えばなるほど合点が行き。
椅子から立ち上がれば相手に近づいて顎から頬までを鷲掴みにして顔を寄せ。

「前の子供は知らねえが、そんなに子供を探してるんならお前の胎にもう一回仕込んでやるよ」

にやりと笑みを浮かべて言えば相手の身体を裁断前のカーペットが引かれた場所に押し倒し。

エリザベート > 当然の如く、真面な会話など成立しない。
問うてはみたが、相手から返答が得られるとも思っておらず、
視線は直ぐに男から離れ、虚空を漂い始める有り様。

其れでも、流石に頤へ手が掛かれば、やや瞠目気味に息を詰める。
まるで其の瞬間に、初めて相手の存在を認識したかの様な―――――

「なに、を、仰っ て、るの………貴方、
 ――――――― わたく、し、」

衣擦れの音を連れて、いっそ呆気無い程簡単に、女の身体は其の場へ引き倒されるが。
丁度其の時、女を捜す僧侶の声が聞こえた。
程無くして聖堂へ姿を見せた僧衣の男は、真っ青な顔をして駆け寄ってくる。
不敬な、不埒な、―――――今更の様な単語を並べ立てて、仰臥する女の身体を引き起こし。
『必要』であるならば別の女を斡旋すると告げて、女の身柄を保護するだろう。
そんな遣り取りの間も、女自身はまるで無反応な儘であった、とか――――。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からエリザベートさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からダグラスさんが去りました。