2019/11/06 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 教会の並ぶ通り」にレクスさんが現れました。
レクス > 膿んだような月明かりが、教会の並ぶ白亜の通りを照らし出す。
掃き清められた清浄な道だ。仮令、どれほど内側が腐っていても外面を整えることはできる。
例えば、今宵がそうだ。王族だか、公主だか、聖女だが――庶民とは関係ない貴人がこの都市を訪れたという。
だからだろう。この街の表層はいつもにも増して汚濁を嫌い、整えられ、取り繕われた。
――それも、夜になれば澱がはみ出てくる。

ずる――り――。
白い道に点々と、赤いものが散る。
手錠に擦れた左手首から落ちる血で、手ひどく殴られた額から唇から落ちる血だ。
受けた傷は代償を考慮しなければ十を超える。
薄汚れた旅装は常よりも増して、汚れて見える。
手首から繋がる鞘を持つ左手の指は何本か本来望ましい方向とは別方向に拉げている。
乱れた髪の毛の中からまた新しい血が伝って、足跡代わりに白を汚した。
道を歩く足取りが、僅かに乱れるのは片足首が曲がっている所為だ。

「―――――死んだって、構わない。」

所以は、簡単なことだ。
昼間、この街を訪れたところを兵士に見咎められた。拘束されるのも当然だろう。
そして、仕事が増えた腹いせに無抵抗の相手を彼らが袋叩きにしても誰が責められるだろう。
彼らの行いはこの神聖なる都市に於いて合法なのだから。
唇を割って零れるのは、彼らが何度も口にしていた言葉。
それを、口にしながらそれは、歩いている。何処へ向かう訳でもなく、漂泊するように。