2019/04/10 のログ
■ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「王城での俺は、お前が思い描く以上に悪辣だぞ。そういった表情の方が慣れているやも知れぬ。………ええい、そこまではっきり言わずとも良い。お前の顔を見ればそれくらいは分かる。俺だって、こういう事には……慣れていないのだ」
己が悪辣であることを、そういった表情を浮かべて応えようとする試みは、真直ぐ過ぎる程の彼女の言葉で敢え無く失敗した。
結果、彼女が好きだと言った気恥ずかしそうな表情で僅かに目線を下げてしまうのだが。
「……お前がそう望むなら、お前を縛り、檻に捕え、俺の元から逃げ出さぬ様に首輪でもつけてやるとも。だが、それは――」
気恥ずかしさとも、照れとも違う感情で言葉に詰まる。
己でも、何故言葉が続かないのか理解できずに少し考え込む様に視線を彷徨わせる。
だが、肉棒が彼女の体温をより強く感じ、それが心地良いと思った矢先、考えが纏まったのか彷徨わせていた視線は再び彼女に向けられる。
だが、その視線は今迄のものとは違う。傲慢で横暴な貴族でもなく、年相応の少年でもなく、未知の感情に困惑する様な。そして、それを彼女に伝える事に不安を抱いている様な、揺れ動く感情を灯した瞳。
「………怖い、んだ。俺は愛情を知らぬ。家族から愛情を受けていないとは決して言わぬが、それを俺は理解出来なかった。金と権力の為に女を抱く事はあっても、其処に情愛等含まれぬ。手放したくないと思っても、それが正しい事なのかも分からぬ。俺が進む茨の道に、お前を引き摺り込む事は俺の我儘では無いかと理性が囁く。
……お前の幸せが、俺と共にある事なのかも分からぬ。分からぬ、分からない。分からないんだ。だから、怖い。金で縛る契約なら良い。俺の権勢を求めて縋る連中も理解出来る。だが、情愛も思慕も、分からないままお前を縛る事が、怖い。
――……すまない。無様な事を言ったな。らしく、ない…」
零した言葉は、とても小さな声。彼女が己を慕ってくれる事への心地良さも、彼女への好意も、間違いなく己が宿した本心。
だからこそ、それにどう向き合えば良いのか分からない。貴族としての己の人生は、彼女を悲しませるのではないか。万が一にも、彼女に危害が及ぶ様な事があれば、己はどうなってしまうのか。どうすれば良いのか。
そういった未知の感情への恐れが、独白の様に彼女へと告げられる。尤も、それを彼女に告げた事そのものが己の我儘かと苦々しげな表情を浮かべた後、曖昧な笑みで彼女の頭を撫でるのだが。
■クレマンス > 「そうでなくては困ります。何方にでもそんなお顔を見せているとしたら…私は嫉妬します」
冗談めかして、やっぱりそこは本音も込み。
甘く、どこか朗らかな会話が不意に雰囲気を変えた。
もう少し奥へと踏み込んだのは己だが、思った以上に踏み込んでいたのだと知ったのは少年の表情が変わったときだった。
彼自身の内側を探り、言葉を選ぶ様はこの一晩でも見たことがない。
何度か言葉を詰まらせるところは見ても、それとも違った話し方に、聖女は言葉を挟むこともなく耳を傾けていた。
最後に弱気になった少年の手が己の頭を撫でるが、その撫で方も今までとは少し違う様に感じるほど。
すぐには言葉が出なかったが、きちんと聴いていたことを伝えたくて。
「…………そう…そうですか」
彼の髪を撫でていた手が止まる。
思考に耽ってしまった所為で、視線も天井に向かった。
やはり彼がここに来ることを事前に知らせてもらえば良かったとも思ったが、後の祭り。
家柄のこと、家業のこと、調べれば少年が自らを悪辣だと表現した実情もわかるのだろう。
育ってきた環境だけでなく、そういったあたりにも要因がある気がする。
「私を幸せにしたいと思ってくださっているのに。そうして私の為に悩み、迷い、戸惑ってくださっているのに
情愛がわからないだなんて……ギュンター様は施政以外のことには私よりも疎くていらっしゃるのですね。
―――――やっぱり私たち、共にいましょう。
お屋敷に戻れる日はかまいませんが、遠出して戻れない日は私も参ります」
彼の価値観や感覚が培われるには十数年の月日があり、一朝一夕にはそれを覆すのは難しいと思った。
だが、一晩でかなり変わったこともわかっている。
ならば言葉より態度や触れ合いが大事なことなのではと判断した聖女は、やや強引に言う。
思索の為に天井に注がれていた視線を少年に戻し、にこやかに微笑んで。
それはもはやおねだりという範囲ではなく、宣言。
――――今の彼なら断らないとも思っていた。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にイリーナさんが現れました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からクレマンスさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からギュンター・ホーレルヴァッハさんが去りました。