2018/12/03 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にアザレアさんが現れました。
アザレア > ―――――何処からか、乱れた靴音と怒声が聞こえる。

どちらも一人分ではない、ということだけは分かるけれど、
何人居るのか、近くに居るのか、遠くに居るのか、
石造りの細い通路は無駄に天井が高く、反響し過ぎていて掴めない。
ただ、ひとつだけ、はっきりしていることは。

「……早、く……外に、出な、きゃ……また、」

また、酷い目に遭わされてしまう――――ということ、だけ。

胸元を大きく引き裂かれた修道衣の前を片手で掻き合わせ、もう一方の手を壁について身を支え、
ふらつく足を叱咤して、引き摺るような歩調で通路を辿る。

咄嗟に殴り倒してきた『客』が気づいて追って来ているのか、
奴隷の逃亡に気づいた誰かが、捕まえようと追って来ているのか。
どちらにしたって、見つかれば碌なことにはならないだろう。
靴も無い素足で、冷たい床を踏み締め―――――何処かにある筈の、地上へ続く階段を目指す。
其処に居るかも知れない見張りのことは、未だ、考えないことにして。

アザレア > 幾度と無く繰り返されている、ささやかな逃走劇。
残念ながら、結末はいつだって、大して変わらないのだけれど。

今日は未だ、果てを迎えるには少し間がある様子。
奴隷娘の危うい綱渡りは、未だ、暫く続くものと―――――。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からアザレアさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にアザレアさんが現れました。
アザレア > ―――――どうやら少しの間、意識を失っていたらしい。

何処かから忌々しい花の名を呼ぶ声が聞こえて、ビク、と肩を震わせ目を開けた。
急場凌ぎの隠れ場所として蹲っていた、幾つもの箱が積み重なった物陰。
小柄な身体は箱の陰にすっぽり隠れられるけれど、此処は袋小路である。
ずっと此処に隠れていたのでは、見つかった時に逃げ場が無い。
ならば、――――石の床に手をつき、膝をつき、震える腰に動け、と命じる。
蒼白い顔を強張らせ、大きな瞳をきょろきょろと蠢かせて、周囲の気配を探りながら。

「……逃げ、なきゃ」

もはや呪いの言葉のように、其ればかり口の中で繰り返す。

ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にダグラスさんが現れました。
ダグラス > 久しぶりに得意先のところに顔を出し、商談していればどうやら抱えの奴隷が逃げ出したのだということを聞き。
初めは関わるつもりはなかったが相手の司祭からそれなりの報酬を渡されては贔屓の顧客でもある相手だ。
仕事として受けるほかなく、仕方なしといった雰囲気を出しながら追加条件とともに仕事を承諾し。

「やれやれ、面倒な仕事だ」

略奪や戦闘であればなれたものだが人探しは専門外だ。
とはいえ相手は子供、逃げるにしてもその手口は稚拙なようで。
そこかしこに残った証拠から後を追えば地下の一角で子供の声が聞こえ。
耳を澄ませてその場所に向かえばあたりを窺う少女の姿を見つけ。
愚かにも自ら袋小路へと迷い込んだ様子の相手に対し、対面からわざと足音を立てて近づき。

「こんなところで何してるんだ。神父がお待ちかねだぞ?」

手に持ったランタンで姿を照らしながら低い声で問いかけ。

アザレア > 周囲の石壁に反響し、何処から、どの程度の距離から聞こえてくるのか、
判然としなかった物音たちの中で、ただひとつ。
はっきりと此方へ近づいて来る足音に、浮かせかけていた腰も、身体も凍り付く。

「っ、―――――……!」

揺れるランタンの光が男の姿をくっきりと浮かばせ、其の口から紡がれる『神父』のひと言が、
凍えた肌を更に、ざわりと粟立たせた。

大人しく捕まる方が、きっとずっと賢い。
けれど、其の『神父』がどんな無体を強いてきたか、忘れたくとも忘れられない娘は、
考えるよりも先に物陰から飛び出した。
屈強な相手の脇を擦り抜けることが叶えば、逃走を続けられる。
―――――ただ、足許はふらつき、縺れており、捕えるのはきっと、ひどく容易い筈。