2017/10/05 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にミュレスさんが現れました。
■ミュレス > 神聖都市ヤルダバオート。この清らかなる信仰の砦に――勿論、表向きの話だが――人が列をなしていた。彼らの多くは奴隷である。みすぼらしい身なりの男女が、不安半分、期待半分といった様子で、自分達を迎え入れんとする聖職者達を見つめている。
ノーシス主教が音頭を取る、救恤策の一環であった。恵まれない社会的、経済的弱者に医療や教育を施し、更には信仰心を与えることで信徒を増やし、国内の人心を掌握して叛乱の芽を摘む。これらの試みは王城において美談とされ、貴族から少なからぬ額の寄付も為されていた。
「ようこそいらっしゃいました。……ようこそ」
聖職者の1人、アルビノの異端審問官ミュレスは、いつもと変わらぬ微笑を湛えて恵まれない人々に声を掛ける。名前を、出身を訊ね、健康を損ねているようであれば、癒しの光を当てて束の間の安らぎを提供する。頭を下げる少女に返礼した後、列に視線を移した。相変わらず、男女問わず、見目麗しい人々揃いであった。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からミュレスさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にミュレスさんが現れました。
■ミュレス > これは紛れもなく慈善事業。民の救済という一点においては偽りない。しかしながら、それ以外の目的もある。王都マグ・メールからは勿論、バフート、ダイラスなどからまでやってくる彼らの目的は、性奉仕だ。
聖職者達は彼らを「救済する」として迎えた後、王城の貴族にこの男女を宛がい、政と教の結びつきをより強めんとするのである。勿論、中には貴族だけに楽しませるのを良しとせず、自分達も奉仕を受けようと企む者もいる。というか、少なくない。
「ようこそ。ヤルダバオート神と精霊は皆様を歓迎されるでしょう。……ようこそ、祈りの地へ」
ミュレスはそう繰り返しながら、奴隷やその他恵まれない人々に微笑みかける。聖職者たちの内、幾人かは既にその本性を隠していない。太った老人が年端もいかない美少年の腕や腰を撫で回しているし、脂ぎった中年男達に色目を使う美しい女奴隷もいる。どちらも、この事業が何をもたらすのか良く分かっているようだった。
■ミュレス > 「彼らの姿を見ていると、神にお仕えしたことが決して間違いでなかったと分かります。そうではありませんか?審問官」
でっぷり太った僧侶の1人がきょとんとした幼女の頭を撫でつつ、脂下がった笑顔と共に問いかけてくる。
「はい。全く同感です、侍祭」
顔色の悪い奴隷に癒しの光を当てながら、その男にも微笑を返す。賛同を得たその男は欲望に満ちた笑顔と共に、ほっそりとした美少年を視線で示してきた。
しかし特に関心はない。確かに美しいものは好きだ。だが男には、しかもか弱い者にはそそられないのだ。
■ミュレス > 門前までやってきた馬車から、豪奢に着飾った中年男が現れた。この事業に出資した貴族の1人で、ノーシス主教にとっては重要な賓客である。
馬車の紋章を見て取った聖職者たちが小走りで男に近付き、列の中にいたミレー族の少女に向かって手招きする。猫耳と尻尾をピンと立てた少女が怯え切った表情と共に貴族へと歩み寄る。肥え太った侍祭が喉を鳴らした。
「美しい種族ですなあ、ミレー族は。アイオーンなる偽神を崇める愚昧な輩とはいえ、憐れではありませんか。どうにか救ってやりたいものです」
生唾を飲み込んだ彼の言葉に頷く。
「私も同じ気持ちです」
微笑する審問官はそう答え、再び列を為す人々に歓迎の言葉を掛ける。そう、かの先住民も、いずれは救われるべきだ。どのような形であれ。そして願わくば、自分達も正当なる者に導かれたいものだ。空を仰ぎ、笑みを深めた。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からミュレスさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にミュレスさんが現れました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」からミュレスさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート」にミュレスさんが現れました。