2017/08/27 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 教会」にエルバートさんが現れました。
■エルバート > くたびれた礼拝堂の壁面には、小さいながらに見事な趣向のステンドグラスが施されている。
淡い月光がガラスを通り抜けて足元に映す模様は美しく、昼間よりもこの部屋を幾らか立派に見せていた。
祭壇の前で膝をついた男は胸元のロザリオを両手に持つと、そのまま指を組んで祈りのポーズを取った。
「天にまします我らの父よ――」
祭服を身にまとい、すらすらと主祷の言葉を述べる姿は敬虔な神官そのものだったが、抑揚のない声の通り、祈りには何の感情も込められてはいなかった。
「我らが人に赦す如く、我らの罪を……」
そこまで言ってつい、口端から嘲るような笑みが漏れる。
この街に、この国に蔓延る不浄の精神。本当に神が居るのなら赦されるはずがないだろう。
理想郷の名を持つこの国に、今や神も救いもないということを男は十分理解していた。
何せこの男自身、その不浄の只中に身を置き、欲望のまま色を貪る穢れた人間そのものだからだ。
祈りを中断した男は膝を折ったまま、蝋燭に照らされた祭壇をぼんやりと見つめる。
■エルバート > この場所に派遣されて過ごした一日は退屈そのものだった。
こんな寂れた教会に勤める聖職者さえも色に狂っているとは思わなかったのだろう、
供物を捧げに来た街娘や、お忍びで懺悔に来たらしい淑女の姿もあったが、男が何かするより先に他の神官たちが声を掛け、
ある者はこの場で恥辱を受け、またある者は別の部屋へと連れ込まれて行ってしまった。
誰かと競わねばならないほど女に困っていたわけではなかったが、そんな風にただの会話も出来ないとなるとまるで面白みがない。
「私を慰めて下さるのは主のみ、というわけですか。贅沢なことですね」
祭壇の奥に備えられた神像を見上げ小さく笑うと、男は静かな所作で立ち上がった。
神官としての勤めは果たしたのだ。そろそろ自室へ戻っても良いのだが、と軽く思案を巡らせる。
■エルバート > しばらく思索に耽っていた男は、やがて室内の燭台の明かりをひとつひとつ丁寧に消していき、
最後の火が消えたのを確認すると、そっと礼拝堂を後にした。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 教会」からエルバートさんが去りました。