2017/07/15 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 聖堂」にベアトリーチェさんが現れました。
■ベアトリーチェ > ――――初めから如何にも、変だとは思っていた。
必ず日が暮れてから訪ねること、という条件からして、あまり普通ではない。
夜の聖堂、迎え出た修道女の何処かおどおどした様子も、
暗く湿った空気の澱む下り階段、細く入り組んだ通路の果て、
此処で待つように、と案内された小部屋も、何とも陰鬱な雰囲気を宿していた。
石造りの床、壁、天井、家具調度と言えば壁に添って置かれた長持と、
部屋の中央の小さなテーブル、やけにがっしりした肘掛け椅子のみ。
其処へ座って、と促されたから座って待っているけれど、
部屋の中で唯一の椅子へ、己だけが座っている状況、というのも、
何やら落ち着かない気持ちにさせられる。
「…お相手がいらしたら、此れをお渡しして直ぐ、失礼すれば良いのですけれど」
待ち人が一人なのか、複数なのかすら不明だが、兎に角今、己の膝上にある
鍵の掛かった小箱を相手に渡してしまえば、此処に留まる理由も無い。
此の聖堂の地下が、実は怪しげな商売の巣窟である、とか。
そんな噂すら知らない身だけれど、何故だか、すこぶる居心地が悪い。
早くお使いを終わらせられないだろうか、と、閉ざされた扉をちらちらと。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート 聖堂」にウィルバーさんが現れました。
■ウィルバー > 扉が開くことはなく、突然彼女の目の前で闇が深くなる。
ほどなくして、黒のスーツに身を固めた男が姿を現す。
僕は小部屋の中の椅子に座っている修道女の顔を食い入るように、そして値踏みでもするようにまじまじと見つめた。
「へえぇ、なかなか良い娘を用意してくれるんだね。」
僕は落ち着かない様子で座っている彼女に対して、随分と上からのぞんざいな物言いをしていた。
それもそのはず、彼女は僕が大金を積んで一晩買い取ったものなのだ。
ここの地下組織の存在を突き止め、上層部を時には脅し、時には持て成すことで漸く出来たパイプだ。
ここに至るまでに相当な額の金を使っている。
「早速だけど、君の名前を教えてくれないかな。 あと、今日は何しに呼ばれているかわかっているかい?」
僕は初めから、下卑た笑みを浮かべながら彼女へと問いかける。
部屋と外を繋ぐ唯一の出入り口は僕の背中である。
この狭い部屋では他に逃げようはないのだ。
さて、どう味わおうか。
ここでは今何が起きようと誰も感知することはない。
そうなるようにお互い契約を結んでいる。
目の前の彼女がどこまで事情をしっているかは知らないが。
■ベアトリーチェ > 不意に――――目の前で深く、闇が密度を増したような気がした。
通路を辿る靴音も、扉が開け閉てされる音も聞こえなかったのに、
其の人は突然、己の視界を昏く占拠するかたちで現れる。
ぎくりと肩を強張らせ、大きく見開いた眼差しで相手を見つめ返すうちにも、
背筋に嫌な感覚が這い上がってくるのを感じる。
―――何かが、ひどくおかしい。彼が口を開くより早く頭に閃いた、
其れは弱者ゆえの直感であったかも知れない。
「……、…あの……?」
用意、とは。
首を傾げる仕草すらぎこちなくなってしまうのは、嫌な感覚が消えないからだ。
勿論、何も知らされていないけれど、何かとても厄介なことに、
己が巻き込まれつつあるような。
何よりも、彼の、此の眼差しは―――何だろう。肌が、粟立つようだ。
「――――申し訳ございません、私、多分、何も分かっていない、と思いますわ。
でも、…少なくとも、貴方がもし、見かけ通りの紳士でいらっしゃるなら、
ひとに名前を尋ねる時は、ご自分から名乗るものじゃありませんこと?」
部屋の唯一の出入り口は、彼の身体の向こう側。
けれど今や、じっと座っているべきで無いのは明らかだった。
微かな衣擦れの音を連れて椅子から立ち上がり、兎に角も表面上だけは、
穏やかな微笑を浮かべながら。
まずは相手の名を、と返す不遜さこそ、己が何も知らない、という証拠になるかと。
■ウィルバー > 「なんだ、何も聞いてないの?
困った教会だね。」
どうやら目の前の彼女は己の運命について何も知らされていないようだ。
金色の瞳は彼女の表情の変化を捉えていく。
なるほど、今日はこういう女を楽しめと言うことか。
頭の中で状況を整理していると、ごもっともな指摘を受ける。
「ああ、ごめんね。 僕の名はウィルバー。
可愛そうな君に事情も分かる様にお話ししてあげると、君の身柄を
当分の間買い上げた男って言えばわかるかな?」
微笑みを浮かべている彼女に対し、僕も愛想レベルの笑みを向ける。
だが、僕の瞳は徐々にだが、輝きを増していく。
それと同時に、彼女に自覚症状がでるかは分からないが、この狭い部屋の中で
魔力を放っていく。
僕に対してのみ、性的な興奮を覚えるようになる魔力を。
僕の背にある扉に向けられた視線から、この娘の考えていることは明らかだ。
僕は一歩ずつ、それこそ獲物を追い詰めるように彼女の元へと近づいていく。
「ここまで言えばもうこれからどうなるか、わかるよね?」
■ベアトリーチェ > 困った、などという表現では軽過ぎるというものだ。
――――金色の瞳をもつ人を見るのは初めてでは無い、けれど此れは。
口調はごく軽い癖に、己を見据える眼差しのいろは、あまりにも鮮烈に過ぎる。
見つめ返しているだけで、ドクン、ドクン、心臓が早鐘のように打ち乱れて―――
立ち眩みのような軽い眩暈が、彼の名を聞いた瞬間に、まず、一度。
「ウィルバー、さま……私は、ベアトリーチェ、と申します。
早速ですけれど、私、どなたとも…そんなお約束、した覚えがございません、わ」
礼儀として己の名を、告げた途端にまた、一度。
先刻よりも強い眩暈に、視野がぐっと狭まるような錯覚を覚える。
今や何か入っているのかすら疑わしい小箱を胸元に抱える、
両手の指先が小刻みに震え始めていた。
其れも此れも、彼の瞳の金色が、あまりにも美しく輝いているからだ。
――――其の眼差しに籠る力は知らなかったが、何故か、そう確信していた。
一歩、近づく彼から距離を取ろうと後退れば、立ち上がったばかりの椅子にぶつかり、
よろめいて再び、座面に腰を沈めてしまうことになる。
仰のく角度で見返した瞳は、一層、禍々しく煌めいて見えて。
「―――ぃ、…ゃ……。
ち、かづか、ないで…どうか、……彼方へ、行って……。
そ、のような、こと、……許される、筈が、……」
無い、と言い切る余力も残されておらず、せめてもの抵抗として、
弱々しく左右へ頭を振ってみせる。
■ウィルバー > 耳は彼女の心拍数の上昇を拾う。
どうやら、僕は恐れられているようだ。
彼女を見つめる僕の口の端は伸び、久々に訪れた心躍る状況に下腹部には熱が灯り出す。
「ベアトリーチェか、結構なお名前じゃないの。
どこか良いお家のご出身かな?
そんなこと言われても、君が身を寄せている先と交渉して決まったことだからね。
文句があるなら終わってからでも教会に言いに行きなよ。」
彼女が大事そうに抱えている小箱は、存在すら聞かされていなかった。
だが、それはさほど重要ではない。
大事なのはこれから彼女の身も心も僕の物であると言うことだ。
鈍い光を放つ双眸で彼女を見つめ続け、時間が経つにつれて魔力の量も増えていく。
「おや、僕が近付いたら何か問題でも?
それとも、僕みたいな男と愛を育むのは嫌いかな?」
二つの翡翠が僕を不安そうに見上げてくる。
僕はそれに僕の中では優しく問いかける。
まずは彼女が僕の物になった事を形に示してあげようと、
僕は腰を屈め顔を近づける。
左右に顔を振っている彼女の唇を奪おうと。