2023/07/23 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にエリビオさんが現れました。
■エリビオ > 夜の帳も落ちて薄闇の中に悪徳が栄える奴隷市場。
そこに足を踏み入れたのは単なる気紛れ。
素性を知られまいと仮面をつけて出歩くは、どこかで見知った者ばかり。
好奇と憐憫の眼眸を投げかけるはどれも麗しき種族ばかり。
「まるで人間の見世物市だ」
薄暗い室内を囲む品定め客、それを遠く薄暗い資材の木箱に腰を下ろして毒づくは、林檎を齧る少年。
そろそろ帰ろうかと、ぽん、と軽い足並みで降りた矢先に目についたのは金髪の少女。
好奇心かそれとも憐憫か。憂うように鉄檻の外を眺めゆくその姿を見遣るうちに、いつの間にか歩み寄り。
「良かったら食べる?気晴らしにはなるよ」
相手が目についたのはまず、牢屋の隙間から差し出された瑞々しい紅い林檎。
続いてその手の主たる少年が中腰の姿勢で首を傾げる姿だろう。
■プラセル > 朝も昼も夜も明るいこの場所では、時間の感覚は酷く曖昧。
睡眠時間すら疎らなのだから、当然と言えば当然だろう。
伏し気味の眼は無感動に景色を眺め――――不意、立ち止まる脚に視線が移る。
緩やかに持ち上がった双眸が瑞々しい紅玉を捉えて瞬きを落とし、
それから、その向こう側にいる黒衣を纏う青年へと移った。
「――――……ありがとう。
でも……ごめんなさい。 勝手にものを頂くと、怒られてしまうの。」
クッションへと沈ませていた上肢を浮かせ、ふる、と頭を左右に揺らす。
訥々とした、どこか拙い音で紡げば、申し訳なさそうに顔を伏せ。
■エリビオ > 「そう。余計なことしちゃったね。」
差し出した林檎は少年の腰袋の中へ。
用件が終わった後もまだ去らないのは。
「何か俺に出来ることあるかい?
さっきから君を見てたらすっごく辛そうでさ。
他の奴隷も同じなんだろうけれど。
まるで消えちゃいそうな感じだから。」
眺める先は炯々と明かり輝く広々とした館。
幾つも並びゆく鳥籠の中で一際目についた有翼人の少女に。
せめて仮初の楽しい一時でも与えたいと思ったまでのこと。
黒瞳は不躾に相手を見ることはせず、閉じ込める鳥籠の頂上に誂えられた烏の細工に見定めた。
■プラセル > 彼の言葉に、再び頭が揺れる。
余計な事などではない、とまでは口に出来なかった。
ここに来てからの生活で消耗しがちな心身で、元より重めの唇が殊更鈍くなってしまっている。
潜めるような吐息を逃がしたのも束の間のこと。
次いで聞こえた言葉に、青を縁取る金色が忙しなく動く。
彼にできること――辛そう――――消えちゃいそう。
頭の中で巡って、けれど、思考が纏まらず、仄かに眉尻が下がる。
「――――……あなた、やさしくて、……ひどいひと、なのね。」
責めるでもない、穏やかな声音が落ちた。
色の乗り難い表情の上に、困ったような、諦念混じりの微笑みが浮かび。
■エリビオ > 「……。」
別に困らせるつもりはない。語らうも良し、買うも良し。
言葉数少ないが故に相手の意思が確かめるための言葉の交流だった。
その答えに対する酷いとの物言いにはそよがせる笑みに微かに固いものを浮かべ。
「傷つけちゃったみたいだね。
それじゃお詫びに俺がなにかするよ。
春夏秋冬、好きな季節は何か教えてくれるかな。」
粗末な腰の革包みから、それに見合わぬ磨き抜かれた甲虫のごとき鉄笛を取り出す。
「それもわからないなら。俺が決める。」
■プラセル > 何かを気軽に欲する事は出来ず、欲した所で、無為になるのだと、そう、この身には叩き込まれている。
一時平穏を得たとて、簡単に崩れ去るものだと言うことも、知っている。
然し、己の事情など知るはずもない人に向ける言葉ではなかったと、
その表情が僅かに質を変えた事で、今更気付く。
「――――あ、」
弾かれたよに肩が跳ねる。
謝罪の言葉を口にしかけて、鼓膜を柔らかく揺らす台詞に、はく、と唇が震えた。
優しいひとの、優しい問いかけと、力強さを覚える言葉。
そうして、想起したのは、この熱帯夜でも鮮明に思い出せる――冬山の冷たい空気。
二度三度と震えた唇が知らず、穏やかな弧を浮かせ。
「……いいえ。
わたし、冬がすきよ。」
■エリビオ > 相手の思惟など知る力も由もない。
ただ、向けられた笑みを含んだ答えには
「冬ね。俺も好きな季節だ。」
穏やかな微笑を浮かべ、瞼を閉じ、使い込まれた艷やかな笛の銅に長い指を添えていく。
横に構えた鉄笛に薄く開いた唇を近づけて……彫刻になってしまったかの如く何かを待った。
「……」
やがて鉄笛自体が謳いだしたように魔法めいた気配が館の広間じゅうに漲る。
少年と鉄笛はニ頭の蝶が互いに互いの周りをもつれ絡み合うように曲へ誘う。
楽の音が刻むは冬――
高い音色は透徹とした空気を醸し出し、小刻みに刻む律動はしんしんと降る粉雪。
やがて全てを豊かな音色は圧倒する冬の嵐を産み。
長い長い余韻を持って命育む春を思わす穏やかな楽の音に。
様々な転調をもって少女を楽しませようとした。
■プラセル > ただでさえ目立つサイズと形をした檻。
その前に留まる人の姿があれば、往来の視線もざわつきも集中する。
野次馬に騒いでいた客達はだったものの、次第に周囲は音を潜め始め――高く澄んだ音が響いた。
「―――――――…………。」
先程想起した、冬の気配が濃くなる。
真っ直ぐに張られた細い糸の様な、鋭くて済んだ冬の朝の景色が。
軽やかで、けれど、全てを白に覆い隠していく細やかな雪の情景が。
目を閉じずとも、一歩先すら見えない深い冬の山の痛みが目に浮かぶ。
無意識の内、音に合わせて震わす羽根は擦れ合って、微風めいた音を奏でていた。
それも、訪れた柔らかな春の音に、次第に静まっていくのだろう。
■エリビオ > 「ふぅ……。」
大きく息を履いて鉄笛を革袋の中に仕舞い込む。
相手の表情は……やはり読めない、だから。
「少しは楽しんでくれたかな?
ひどいひと、なんて言葉はこれで取り消してほしいけれど。」
軽口を叩いてから辺りの異変に気づく。
奴隷市場での急な音楽。さても他の客の迷惑になっただろう。
笑みを取り繕う奴隷商人が購入を促してくるのに眉を下げ。
「あー、俺はちょっと冷やかしにきただけで……。」
何かを言おうとする唇は金髪の少女を見て閉ざし。
再び中腰になって檻越しに向かい合い。
「どうする……って聞いたらひどいひとなんだよね。
君が嫌じゃなければ一晩分くらいは買うお金はあるけれど。」
■プラセル > 耳へと残る、冬と春の余韻に伏しがちな眼が淡く瞬く。
ほう、と吐息を吐き出して、それから、柔らかく表情を崩した。
崩したとは言っても、常の表情からすれば、微々たるものではあるが。
「……言いすぎたわ。 ごめんなさい。
それから――――……素敵な冬と春を、ありがとう。」
開いた唇から零す音も、先より幾分か柔らかい。
往来の騒がしさが戻るのと共に、近付いてくる足音に視線が鈍く移ろった。
浮かべていた表情も、既にいつもと変わらぬ、抑揚の薄いものだ。
商品を、と相手へと勧める店主を見れば、
申し訳なさそうな色の滲む眼が再び相手へと向けられ、目が合う。
鼓膜を震わせるその声に、きょとん、と何処か抜けたような表情を浮かべ、
「いやじゃないけれど……、」
それから、困ったように眉尻を下げた。
相手の迷惑になっているのではないだろうか。
その事の方が、今の己には気がかりで。
■エリビオ > 「どういたしまして。」
鈴鳴るかの笑い声を響かせつつ。隣にいる商人に目も配らず金貨袋を差し出した。
「いやじゃないなら行こうよ。
きっと、こんなところでただ眺めてるだけよりも楽しいはずさ」
重い重い開場音を響かせて。
軽い軽い足取りで檻の中に入った少年がそっと手を差し出す。
「俺の名前はエリビオ。
君の名前を教えてよ。」
薄く首を傾げつつ。抵抗がないならば手を繋いで奴隷市場を去っていく。
■プラセル > 機嫌良さそうな表情で金貨袋を受け取る奴隷商人。
魔法で手早く中身を確認すれば、檻籠へと取り付けられている錠を開けた。
広くはないが、狭すぎもしない鉄の檻の中の景色が変わる。
外で引き摺り出されるのを待つのではなく、
中へと踏み入り掌を差し出してくれる姿は、酷く新鮮だ。
「――――プラセルよ。」
淡く、柔らかく、仄かに眦を撓らせながら名前を口にして、己の掌をそうっと重ねる。
緩やかな挙動で立ち上がれば、一緒になって歩いて歩いていくのだろう―――。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からエリビオさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からプラセルさんが去りました。