2022/09/16 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にジェイドさんが現れました。
ジェイド > ――――――声が聞こえる。

とても遠いところから、あるいは、驚くほど近くから。
けれどその声はただの『音』であり、意味はよくわからなかった。

奴隷市場の片隅、少年少女をメインに取り揃えた店の店頭。
並んだ檻のひとつに押し込まれ、打ち捨てられた人形のように、
手足を投げ出して座っているのは、ドレス姿の少女、と見せかけた少年。
細い首に填められた首輪は白く華奢で、右足首に嵌まる鉄枷とは好対照。
そちらは黒光りのする鉄球と少年の足首とを、太い鎖でつないでいるものだった。

薬を使われ、自らの意思を奪われ微睡む少年の頭上で、
檻の中をちらちらと覗き見ながら、二人の人物が交わす言葉はつまり、
この少年の売買交渉だったのだが―――少年はまだ、気づかない。理解出来ない。
捕まる際に派手な抵抗を示しかけたため、普通の倍も薬を盛られた結果、
目をあけているのに目覚めていない、生きた人形同然の有り様なのだった。

ジェイド > ――――――どうやら、交渉は難航しているらしい。

買い手の側が価格に難色を示しているのか、
売り手の側がどうにかして、価格を吊り上げようとしているのか。
何も知らず、何も気づかず、ドレス姿の少年はぼんやりと、
格子の間から見える雑踏の様子を瞳に映していた。

呼吸はしている、目も開いている。
けれど反応らしい反応を示さないまま、それこそ人形のように、
どこかの誰かに売られて行く運命か。
あるいは逃亡を企て、必死に抗う獲物を求める買い手がつけば、
なかば刈り取られたも同然の意識を、無理矢理引き戻す薬などを、
追加で投与されたりもする、のかも知れなかった。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」にガザさんが現れました。
ガザ > 「だーかーらー……これだけ払うって言ってんでしょ~」

そう、檻の前で言うのは、優男風の青年。相対する奴隷商人に、やや突っかかる様に言葉をかける。

「しかし、こいつは上物も上物……もーすこし、色を付けていただけたらと」

そう、ニヤニヤとでっぷりした顔で値段を吊り上げようとしている。
このやり取りが、既に30分は続いているだろうか?
しびれを切らした青年は。

「あーもう。金払うって言ってんのに……聞かないお前が悪いんだぞ?」
『隷属せよ』

ガザの、「人心掌握」が奴隷商人を襲い。

「じゃ、これだけ払うから……こいつ、買うね~」
「ハイ。オカイアゲアリガトウゴザイマス」

そう言って、奴隷の足枷の鍵と……首枷を手渡され。
それを、青年は、囚われのお姫様の首へと。

「やったー。ちょ~ど、ペットが欲しかったんだよね~」

と言いつつ…囚われの青年を……

ジェイド > 交渉が成立――――――した、と言えるのだろうか。
売り物である少年が正気であれば、そのやりとりの唐突な妥結に、
怪訝そうな表情のひとつも浮かべてみせただろう。
しかし幸か不幸か、今の少年は人形同然。

操られたようにぎこちなく動く商人の手で、檻の鍵があけられる。
キイ、と開かれた格子状の扉、視界に入り込む買い手の男。
その手が首筋へ伸ばされ、触れてきても――――少年は瞬きもせず、わずかに俯くのみ。
両手は自由に動く筈だけれど、からだの両脇へだらりと垂れたまま。

「―――――― ぺ、 っと ………?」

それが自分自身を差す言葉だとも気づかず、細く呟く声。
ボンネット帽を被った頭が緩く傾げられ、

「ぺっ、と、――――――…」

無駄に繰り返すばかりの、少女とも少年ともつかない声。
首枷を填める手に抗うでもなく、商人もまた、機械的に。
正気を取り戻す薬を使うか、そのまま『使う』か、それだけを問うた。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からガザさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からジェイドさんが去りました。