2021/11/28 のログ
■ルヴィエラ > (奴隷である以上、真っ当な扱いはされないもの
人道的な商人が全く居ないとは言わないが
其れは本当に高額で売り飛ばしたい奴隷、で在る事が殆どであるし
最悪、治療さえ可能ならば、痕に残らぬのならば、関係無い
実際に何が行われたのか、傍から見た限りでは判らぬだろう
そして、其処については此処に居る殆どの者が気にも留めていない
気にされているのは奴隷の"格"と、"金額"、この二つだけだ。
戦闘力が在るのは評価の上がる項目だ。貴人仕えならば礼儀作法にも問題はあるまい
護衛にも、同じ様に側仕えとして働かせるにも潰しが効く
だが、其れだけではここに並ぶ商品としては、聊か普通に過ぎるだろう
片や一国の王族すら並ぶことのある奴隷市場で、更なる付加価値があるとすれば、其れ以外の――)
「―――――――……成程、道理で。」
(周囲が、一気にざわついた。 魔法を扱える、では無く、魔眼持ちならば。
この場に態々引き立てられたのにも納得が行くのだろう
それを、どのように評価するかは様々だ。 優秀な護衛として見る者も
或いは、魔術や魔道具の実験体として価値を感じる者も居る筈だ
奴隷である以上、買い取られる先を選ぶ事なぞ出来る筈も無い
そして、買い取られた後の事など、売り飛ばす証人としては如何でも良い事だ。
後は、この女がどんな魔眼を持って居るのか。
そして何よりも、どれ程の値が付くのか次第、だ。)
「―――――……欲張ると、逆に損をしそうだがね…?」
(喧噪の中、そんな独り言を。 高額が付きそうな女なのは間違い無い
だが、もし売り手が欲をかき、開始の価格設定を吊り上げた場合
――場が、冷え固まる可能性も在り得る、難しい所だ)。
■名無し > 男の告げた売り文句に、空気が揺れる。
この館で売りに出される奴隷達の種類は色々な意味で多岐に渡る。
それはつまり、様々な性質の客が訪れ、様々な用途に奴隷が使われる、と言う意味だ。
先まで受けていた、ただただ不愉快なばかりの不躾な視線の種類が変わった事を感じれば、
流石に胎の底も冷える。
「――――……、……。」
口の中に広がる苦みを呑み込み、仏頂面を携えた儘、布越しに会場に居るのだろう客達を睨め付けた。
魔法で声を上げる事を制限されていなければ、間違いなく呪詛を吐き出していただろう。
ギチ、と後ろ手に握る拳に爪が食い込む。
『――この娘がどんな魔眼を持っているのか、さぞや気になっておいででしょう。
ですが、この娘を護衛にとお使いになられる事もあるかと存じます。
今この場で娘の持つ魔眼がどんなものなのか、お伝えする事は伏せさせて頂き――』
そんな己の心情などお構いなしに更に司会の男は高らかに嘯く。
『――今回はいつもとは変わった催しとしましてオークションを開催致します!――』
再びざわりと揺れる空気。
耳の早い者は今回オークションが行われる、と言う事を知って居たのだろう、余裕の表情を浮かべている。
熱気が冷めやらぬ内に、と司会が『さあまずは――ゴルドから!』と、
見目の良い性奴隷の一般的な値段よりもやや高値のスタート値を告げて。
■ルヴィエラ > (――飛び入りの己が、オークションの予定なぞ知る筈も無い
だが、凡そ推測する事は容易い事だった。 間違い無く其の方が、値は吊り上がる。
売り手の魂胆其の物は、生憎ながら見え見えでは在るが、商売としては常套手段
進行の男がやり手でも在るのだろう、動揺が収まらぬうちに、間髪入れず開始を宣言すれば
先手打った連中が早々に値を吊り上げて行く――こうなればもう、オークションに異議を唱える事も出来まい。)
「――――――……商売人としては、頭が回る様だねぇ。」
(開始から暫くは、静観する。 幾ら他の性奴隷より設定金額が高めであろうと
この女の持つ付加価値に比べれば、圧倒的な安値に尽きる
金額が、瞬く間に吊り上がって行く中で、のんびりと構えながら
その間に、女が、檻の中でどのような様子かを暫し、眺めるだろう
――場合によっては、奴隷の心を折った状態で、売りに出す事も在る
抵抗する気も失せる程に"躾け"られた奴隷は、見目こそ大人しくなるものの
其れでは、付加価値としては大きく下がる物だ
如何やら、檻の中、女はそうでは無いらしいと踏む。
睨み付けた視線が、偶々こちらに向けられた折、目が合うかも知れず。)
「―――――――…… やぁやぁ、では私も混ぜてくれるかな?」
(――其の刹那に、一旦上がり止まった競値。
様子見の様に、制限時間を使って皆が値段を掲げなくなった、其の辺りで
漸く、ひょい、と隅っこから片掌を掲げ、此処に居るぞと挨拶めいて主張しては。)
「―――――……今の、1.5倍だ。」
(――余りにも、さらりと。
其れ迄吊り上がり、刻みに刻んだ金額を一気に上回る額を提示した
まるで――其れ迄熱い心理戦を繰り広げていた周囲の心を、折る様に)。
■名無し > この場に居る誰もが出せる金額から始まった競りは、一瞬の内に値段が吊り上げられていく。
どこぞの商家が入札額を告げればいずこの錬金術師が金額を重ね、と、白熱していく会場。
己を買う為の金額が積み重なって行く度、反吐が出そうになる。
強く拳を握って食い込んだ爪は、何時の間にか皮膚を突き破り、鮮血を滴らせているがそれに気付きもしない。
それ程までに、熱気の渦巻くこの場が不愉快だった。
「―――………。」
不意、己が向けていた目線の先で声が上がる。
布越しではその姿はとんと見えやしないが、場の調子を崩すような音。
先までの熱狂が鳴りを潜め、水を打った様に静まり返り――提示された額に、ぴたりと刻が止まった。
『――……ええ、っと…お客様、入札額にお間違えはないでしょうか?――』
既に女の値段はちょっとした財産の額だ。
それを一気に上げるものだから、司会の男も思わずと言った様子である。
ざわざわと少しずつ戻ってくる会場の客達の声に、先までの熱狂ぶりはない。
然し、未だ懐に余裕があるのだろう、別の客が彼のの返答を待たず、
『私はまだ出せるぞ!』だのと焦った様子で宣って。
■ルヴィエラ > (凡その心は折る事が出来た。
様子見では無く、次の手を挙げる事自体を躊躇うなら、もう降りたも同然
無論、こんな場所だ、金にだけは自信がある輩が居ても不思議は無い
案の定、まだ少なからず勝負を仕掛けて来る男が居た。 ……意地の様にしか見えないが。)
「それは勿論、嘘でまかせで混乱させるのは、オークションでは御法度。
其れくらいは弁えている心算だよ?」
(何も間違いは無いし、問題も無い。
飄々とした表情で、口元に薄っすらとした微笑すら浮かべて見せては
対抗するらしき男の方を一瞥してから、少しばかり考えた後。)
「………では、次に彼が提示する額に、1割乗せるとしよう。」
(――具体的な金額を言わなかった男の、その金額を聞く前に。
どうぞご自由に、と次の競値を促しながら、更に一言、付け足す様に申告した
例えどんな金額であっても、必ずその上値を付ける、と言う宣言
……勿論、余りにも法外な値段を男が叫ばない、と言う確証は在る
其れこそもし天文学的な数字を叫べど、男の懐にそれだけの金が無ければ嘘でしかない
オークションにおける御法度を破れば、例え競り落とせなくとも、立場を失うのは男の方
――だからこそ、先んじて言葉にしたのだ。
自分の懐としか、相談できぬぞ、と無言の圧を掛ける為に)。
■名無し > 目の前で繰り広げられる遣り取りに、目隠しの下で双眸を瞬かせる。
とんでもない好事家が居たものだ、等、他人事めいた感想すら浮かぶ。
提示した金額を取り消す様子の無い彼に、気を取り直したのか司会は相槌を打ち、
今度は張り合う男の方へと視線を向け。
『――さあ、では御仁はいかがなさいますか?――』
拡声魔道具で会場全体へと響く、丁寧な口調ながらも煽る声。
張り合った男も、競り合い相手の宣言を、目線での圧を受ければ
自身の分が悪いとは既に理解しているだろう。
然し、言葉を返せないまま数秒、十数秒――長い沈黙の後、小さな罵声を上げた後、
『…降りる。』と掠れた声を出した。
『――では…他にご入札をされるお客様は――…いらっしゃいませんね――』
司会の男が会場を見渡すが、更に金額を積み重ねようと言う猛者は現れぬらしい。
パンパン、と良く響く拍手を数度行い、
『――おめでとうございます! こちらの娘はお客様のものとなります――』
高らかな宣言を為せば、ドッと沸く会場。
店の従業員であろう、スーツ姿をした瘦躯の男が相手の元へと近付き、
『どうぞ此方へ』と笑顔で契約を行う応接室へと案内を申し出て。
■ルヴィエラ > (――熱に上せて判断を誤る人間は多い
勝負事ならば猶更だ、後先では無く其の瞬間の感情を優先して仕舞えば
それが、失敗や破滅を招く事になる物だ
そういう意味では、時間を置いて、自らにとって最も冷静な判断を下せた男は
思いの外、冷静で、出来た人間であったのだろう
小さく称賛して置くついでに、響いた悪態については、聞かなかった事にして置いた。)
「やれやれ、オークションで無ければすんなりと行ったのだけれどね?」
(一晩で、相当な額が動いた。 実際儲けたのは売り手だろう、が
動いた金は、巡り巡って経済を活性化させる。 そういう意味では、他の者にも商機が生まれる
場が沸くのは、そう言った意味でのお祭り騒ぎも在るのだろう
周囲へと向けて、わざとらしく其れっぽい台詞を残した後で
案内されるままに応接室へと向かえば、後は、己も勝手知ったる所だ
奴隷を買った事は、決して初めてでは無い。
手続きに必要な物など、一通りの手順については、すんなりと応じる事だろう
もし、何か特別な手順が必要になるならば、耳を傾ける筈だ
――奴隷が、契約の場に同席するか否かは、其の時によるが
果たして今回は、何方であろうか)。
■名無し > 良くも悪くも、奴隷を買う事にもオークションに参加する事にも慣れているのだろう男。
それ以上彼へと突っかかるような事もなく――とは言え、従業員に案内される姿には、
多少忌々し気な視線を送りはするのだろう。
彼が会場を後にすれば、己も檻ごとステージから撤去される。
舞台裏へと運ばれ、檻から鎖を外され、半ば引き摺り出される様にして中から出れば、
其の儘の勢いで彼と契約を対応する商人の元へと連れていかれる。
己が到着するまでの間に、売買の証明書、契約書、扱いについて、
女自身の事について等、順番に説明が為され――暫くの後、分厚い扉を叩く音が数度響く。
『入りなさい。』
内側から声を掛けられ、己の連れてきた男が扉を開き、鎖を引いて己を室内へと入れる。
未だ、目隠しも拘束具の何れもが解かれぬ儘であるのは、自身が買い取った当初に
暴れて脱走しようとした事を既に説明済みの彼には察するに容易いだろう。
不機嫌そうに揺れる尾と、露出した唇が不服そうに真一文字に結ばれているのが、
今の己に出来る最大限の反抗である。
■ルヴィエラ > (表には出さぬ情報。 其れもまた、購入者への付加価値。
恐らくはこの段になって、より詳しく其の素性を知る事と為るのだろう
暫くは交渉事を取りまとめ、必要な契約書へと署名を行う
ルヴィエラ――其の名を、或いは目の前の商人は知らぬかも知れぬ
己が名よりもむしろ、自らの運営する娼館の方が、名の通りが良いのは間違いがない
無論、この段になって、値段交渉でごねる事もすまい。)
「―――――……おっと、お出ましの様だ。
……御機嫌よう、相変わらず物々しい拘束だが、随分とやんちゃをしたかな?」
(扉を叩く音。 遅れてようやくーー遠巻きに、では無く。
改めて対面する、女の姿を、静かに上から下まで、観察する様に視線を揺らした後で
いまだ、拘束を解かれる様子の無い相手に、いったい何をしたのだと、そう笑い
もし、其の段になって、売買が成立を確定させているのなら。
商人へ、後はもう、此方に所有権は移ったのだな、と確認してから。
上体を屈ませ、覗き込む、相手の顔。
其の上で――引き結ばれた唇に、そ、と人差し指で触れてみようと)。
■名無し > 契約の流れは彼からの質問が無ければ、スムーズに進む。
無論、質疑があれば嘘偽りなく答えるだろう。
奴隷商にとって、目の前の彼はとんでもない上客であるのだから。
商人の座るソファよりやや離れた位置に立たされた儘、じ、と身動ぎひとつしない。
彼の言葉に己が答えるより早く『随分とじゃじゃ馬な娘でしてね、大変でした。』等、
軽やかな声で契約の対応をする男が答えた。
「――――………。」
暴れて当然だろうとでも言わんばかり、鼻で笑うように呼気を逃がし、
距離を縮める男の方へと顔の正面を緩く向けた。
目隠しに隔たれ周囲が見えずとも、空気の動きで周りの様相は大体分かる。
己の所有者となった男は、随分と身長が高いようだ。
視線の向けられる位置が高い。
商人が彼の問いに、声なく頷きで返し――指を伸ばすのに『あ、』と
声を上げるのが早いか、己が口を開けるのが早いか。
触れようとした人差し指へ、問答無用で噛み付こうとした瞬間、
バチッ、と己の背を打つ衝撃に無音の苦鳴を喉から逃がした。
「―――――ッ」
主人に逆らう事を許さぬ隷属の紋から走る痛みに背を撓らせ、その場に膝立に頽れる。
その存在をすっかり失念していたのは間違いなく己だけだろう。
契約書や扱いに関する文書には書かれているし、商人の男は己の考えなしな行動に頭を押さえる始末だ。
■ルヴィエラ > (――成程、こうやって。
従業員、或いは商人本人に、暴れ、抗おうとしたのだろう
隷属紋の効力により、痛みによって其の動きを封じられた女を見下ろし
凡そ理解したと、此処までにも随分と手を焼いたであろう、其の抵抗の様子を想起しながら
改めて、唇に触れようとして居た其の指先で、背の隷属紋へと軽く触れながら。)
「確かに、お転婆なのは良く判った。 ……納得行かぬ事ばかりだろう。
だが、君が如何なる出自であろうと、今は奴隷で、私が主人だ。」
(――宣言し、宣告する事で。 隷属紋による主人の認識が、己へと書き換わる。
奴隷商人が独自に刻んだのだろう其の呪いによって、痛みで其の行動を制する事は容易かろう、が
敢えて言葉で、落ち着くように促せば。 さて、すんなりと引き渡しの手続きを終え
実際に自らが提示した金額を、契約と言う形で後日、支払う事を確約するだろう
今この場で、一気に払えぬ訳では無い。 だが、純粋に――金額が、大き過ぎるのだ。)
「……さて、それでは、問題が無ければ連れても良いかな?
嗚呼、それと、声に関しては。 今、外して仕舞って構わないよ。」
(――沈黙したままでは、不満も溜まろう、と。 そう告げた後で。
もし、女を連れて行く事が叶うならば、其の時は、今宵は、階上の宿泊施設を使う事を申請しよう
此の侭外に連れ出すよりは、其の方が、何よりも――”御話し”し易かろう、と)。
■名無し > 掌大程の大きさしか無い割に、性能が良く、高威力だ。
痕跡も残らず、死にもしないが、その衝撃は立って受け止められる程優しくは無い。
一拍遅れて戻ってきた呼吸を、肺を震わせながら幾度か繰り返していれば、
今しがた痛みを受けた箇所へと触れられ、思わず肩が小さく跳ねた。
「―――……、ッ…」
悔しい。情けない。――喉の奥がひりつく感覚は、久方振りだ。
然し、圧を孕まない男の声に、過剰な害意を向け続ける程、愚かでもない。
最後に一度、喉の奥で呻き染みた音を響かせては
後ろ手に拘束された姿の儘、器用に立ち上がる。
『ええ、問題ございませんよ。』
彼の言葉に商人がにこやかに返せば、己を連れてきた男へと目配せを為し、
濁った赤色をした小さな魔石を砕かせる。
瞬間、己の喉元が一瞬だけ淡く光り、すぐに先までと変わらぬ首へと戻る。
そうして彼へと他の拘束具を解除する魔石やら鍵やら一式を契約書を
纏め入れた箱に入れて手渡せば、宿の手配を進め別の案内人をつけ、
宿の中でも質の良い部屋へと案内する事だろう。
■ルヴィエラ > (女から声の術式が取り外されれば、其れを確かに見守り
其れでも、声を放つか否かに関しては、きっと、女次第には変わるまい
立ち上がった其の姿が、問題無く歩けるのを確かめてから
主人らしく、奴隷らしく、用意された部屋へと赴くまでの間
恐らくは好奇の視線へと多少なりとも晒されるだろう女に
奴隷とは、こういう立場なのだと言う事を、改めて教えよう
此れ迄にも、其れこそ嫌と言う程分かっては居ただろう、が。)
「――――解除して、自由になれると言う訳では無いよ。
今この光景は、何らかの選択の結果でしかない。 私にとってもそう。
……ともあれ…少し、御話しをしようじゃないか。」
(暫し経つ。 部屋へと案内され、其処でようやく、女にとっては件の商人たちから
即ち、奴隷商人に携わる者たちから、離れる事になるのだろう
代わりに、己と言う主人の存在は居るが。 其れは致し方あるまい。
扉が閉ざされ、他の誰の眼も介在せぬ場所で、ようやく一息を付いたなら。
――大きな伸びと、大きな吐息と共に、部屋の中、椅子の上に、腰掛けて。)
「―――――では、改めて名乗ろう。 私はルヴィエラ、正式に、君の主人となった者だ。
嗚呼、寛きたまえよ、其の恰好では少々窮屈かも知れないがね。」
(――鍵の入った箱を、テーブルの上へと乗せては、女へと向かい、隣の椅子へ座る事を促す。
さて、女が応じるか。 そして、其の段になって一緒に、女の様子を改めて伺おう
奴隷となったからの扱いも在る、衰弱具合、体調の良し悪し、睡眠の有無
体力的な消耗がもしあったのなら、其の時は――一旦、寝かせよう、なぞと)。
■名無し > 矢鱈と厳重に拘束を施されている奴隷と分かる姿の女が、店の従業員を伴い
身なりの良い男と連れ立ち歩いていれば否応なしに視線は集まる。
既に遠い地となってしまった母国でも、主に侍っていた時にも能々視線を向けられてはいたが、
その時とは明らかに異なる種の色は、酷く居心地が悪い。
それを露わにしはしないが。
やがて部屋へと辿り着き、従業員の男が簡単に部屋の説明をなし、
お辞儀をして出ていくのを布越しに横目に追ったのも束の間の事。
掛けられた言葉に、目隠しの下で眼を瞬かせた。
「――――……、」
自由になる事を諦めた訳ではない。が、それが今叶うとは流石に思っていない。
ふ、と浅く呼吸を逃がしては、名乗られた男の名を口の中で幾度か転がし馴染ませる。
己の新たな主――と、納得して受け入れる事を今すぐに出来るか、と言われれば否だ。
滅多矢鱈と反抗するつもりもないが――促され、ほんの一瞬困惑した様子を見せたものの
静かな足取りで声の方へと向かい、こつ、と膝下に椅子の縁が当たった所で身を返して浅く腰かけた。
「――――……私、を…如何使うつもり、だ。」
やや間を開けての第一声がそれ。
遠慮もせず促される儘腰掛けはしたが、奴隷に対する扱いとしては、違和がある。
多少疲労はあるが、受けた折檻とは名ばかりの暴力は昨夜の内に治癒されているし、
睡眠も元々何処ででも寝られる。もとい、寝られる様に訓練済みだ。
無論、気を張り詰めっぱなしではあるので、自身が気付いていない不調はあるのやもしれないのだが。
■ルヴィエラ > (そう言えば――視界も封じられて居たか。
布の下、黒の目隠しの存在に気付けば、相手が椅子に座った後で
するりと、其の目隠しが外されるのが分かるだろう
視界を開放すると言う事が、魔眼を持つと言う相手にとって如何言う事か
其の力の内容によっては、寧ろ、手足を拘束を解くに等しい"自由"かも知れないが
当然――そんな事は、判って居ての事、だ。)
「―――――……私は娼館の主でね。 ファタールと言うのだが。」
(――如何、使うのか。 この言葉に対して、自らの正体を明かす。
それが、其の儘女への答えと為る訳では無い、間を置かずに唇を開けば。)
「館の護衛として働くのも、或いは給仕として働くのも悪くは無い
礼節を弁えて居るのなら、貴族相手の接客として働く事も出来るだろう?
もし、何か特技が在るのならば、其れを生かさぬ手は無い
――勿論、娼館であるからには、娼婦として働く道も在るがね。」
(――使い方は、必ずしも一つだけでは無い。
只一口に娼館と言えど、其の業務は多岐に渡る。
高級娼館である己が店ならば猶更だ、客を持て成す為の人員は多いに越した事はない
女が持つ特技の、果たして何をどう生かそうか。 非常に贅沢な悩みだと、そう微笑んで呟けば。
テーブルに用意されて居たグラスに、シェンヤンでも見かけたろう
茶葉を煎じ、煮出して冷ましたものを注ぎ、相手へと差し出す
――其の瞬間、腕を戒めていた枷が、ぱきん、と音立てて外れるだろう
鍵は、使われて居ない。 まるで、氷が砕けたかの様に。)
「……余り飲んで居ないのだろう? 声が酷い。
折角の美しい声だと言うのに、ね」。
■名無し > 奴隷商に売り払われる前から、魔眼を警戒した者達の手で閉ざされ続けていた視界だ。
目隠しが外され、入り込む久方振りの明かりは酷く眩しい。
暫くの間、目を開けられずに瞑っていたが、瞼越しの明かりに慣れ始めれば
緩々と開いて見え方の具合を確認。
幸いにも著しく視力が落ち込む、と言う事はなかったらしい。
光の加減で赤味を帯びる碧眼を幾度か瞬かせては、困惑の色が濃く滲む表情を相手へと差し向けた。
迂闊、すぎやしないだろうか。
言葉が語るより、余程雄弁な面だろう。
然し、何を行うでもなく、怪訝な表情を向けた儘、問いに答えるよう紡がれる相手の言葉に耳を傾ける。
娼館の主と聞けば、成程、と納得もする。
男の身形や佇まいから推測するに、少なくとも下町等にあるような娼館では無いだろう。
頭で考える内に告げられる『礼節』やら『貴族』やらと言ったワードに、
ああ、と一人相槌を打ち――流石に、娼婦と言う単語には鼻白む。
「――――…贅沢、な、ことだ。」
ちょっとした財産と変わらぬ値で買った魔眼持ちの使い道としては、間違いなく贅沢だろう。
それだけの高級娼婦を扱い、そう言った客層向けの館であると言う事なのかもしれないが。
とは言え、買われた身としてはそうは思っても自由にはならぬだろうとも、
幾らか落ち着き始めた頭で容易に分かる。
故郷では下級とは言え武人として主に仕えていた事を思えば、受け入れがたくもある。
視界の端で茶の準備を為す男に、多少の居心地の悪さを覚えつつも、
碌に身動きなければ大人しくその動きを眺め――差し出されたグラスに、取れぬ、と
告げようとした矢先、何かが割れる音と軽くなる腕に、はつり、と瞳が瞬いた。
鋼鉄製、それも己の様な種を封じるために作られた戒めを意図も簡単に
破壊――と言うよりは、ほんの軽い力で崩す相手に、流石に驚きを隠せなかった。
「……とんでも、ない な」
呆れ交じりに呟き、だからあんなにも簡単に目隠しを解いたのか、と理解する。
これでは己の魔眼など効きはしないだろう。
グラスを受け取り緩やかに口へと運び。
■ルヴィエラ > 「――――何、其れだけの価値が在ると思って居るよ。
それに…、……懐刀とは、抜かずに済むのが一番だろう?」
(其れが、相手にとっての魔眼であったとして。
そんなものを使う機会が来ないのならば、其れが一番平和的で宜しい
漸く視界を開いた相手の瞳に、己が瞳が映るなら
其の時には、魔眼への恐怖なども感じさせる事なく、穏やかに笑みを向けるだろう
相手がグラスを受け取るのを見てから、己の分をグラスに注ぐ
そうして、其れを口元に運び、香りと風味を愉しみ乍ら。)
「ふふ、主としての威厳とやらを、少しばかり、だ
兎も角、君は私に買われた。 其の上で、どう生きるかに関しては、急いで考えずとも良い
君の希望が在れば、最大限汲み取ろう。 勿論、私からの要望もまた、最大限聞いて貰う事にはなるが
其れは、御互いに尊重し合えば良い。」
(――己が娼館がどんな場所か、どんな空気なのか。 一般的に女が想起する其れ、とは
間違い無く外れた、特殊な場である事は間違いない、が
其れは、言葉で説明するよりも先に、実際に赴いた後で感じ取って貰う方が早い
――暫し、其れ以上の言葉は無く。 女が、グラスをテーブルに置くか
或いは其の全てを飲み干すまでは、静かに。 ただ、何もせぬ時間を過ごす。
否、正確には、主たる己は、奴隷たる女を眺めて居たろうか。)
「―――……何か、気になる事は在るかな?」
■名無し > 男の言葉を受け止めながら、グラスから香る慣れた茶葉の匂いを吸い込む。
あんなにも飲んでいたのにも関わらず、既に懐かしさすら覚える。
舌の上に広がる芳香に仄かに双眸を眇めて暫し味わいつつ、
続けられる言葉に、ちら、と横目に視線を流す。
「奴隷――と、言うには…随分と良い待遇なのだな」
自身の所有権が他者にあると言う事に変わりは無いが、己の知る奴隷の扱いとは
天と地ほどの差がある。
無論、それが履行されるのであれば、ではあるが。
流石に何も無い内から男の事を心の底から信頼する事も、極端に疑う事も出来ぬ。
然し、零した言葉は嫌味や皮肉の類ではなく、思った儘を口にしただけのもの。
じっくりと時間をかけ、久方振りのまともな水分を干す頃には、
喉のいがらっぽさは随分とましになっているのだろう。
ふ、と一息を吐き、
「お前を――いや、貴方を何と呼べば良い」
■ルヴィエラ > 「それは、買った人物が決める事だ。
必ずしも同じような待遇を強いらねばならない理由は無いのでね
……まぁ、其れでも奴隷には変わらぬよ。
私の館を一歩出れば、君の権利は何一つ保証されないだろう。」
(少なくとも、今のままでは。 ――そう続け、グラスの中身を飲み干した。
テーブルに空のグラスを乗せ、改めて相手に向き直る
納得出来ずとも良い、自らの置かれた現実さえ直視出来るなら。)
「好きな様に呼ぶと言い。 特段決めては居ないのでね。
まぁ、便宜上父と呼ばれる事が多いが…、……呼んで貰えるのならば、名でも?」
(先に告げた名がある。 主、と呼ぶ事が躊躇われるなら
名で呼ばれた所で、特段に問題は無い。 ――寧ろ。
そこで、己が呼び名を問うてくれることに、己としては意味がある。
満足そうに、口元へと弧を描いて。)
「――奴隷として、立場を受け入れ、私の元に来る事を理解したなら。
私の館で働くと言う証を、一度刻ませて貰う。 …其の背の様にね。
だが、其の背の紋様と違い、苦痛で従わせるためのものでは無いがね。」
(そうして――凡そを相手が理解したなら。後は。
只の奴隷から、己を主とする奴隷、其の証を其の身に刻む。
相手に、己が前まで近寄る事を求めては、椅子の背凭れから、僅かに背を浮かせた。
僅かに手招き、そして、招く為に掲げた片掌を、抵抗なくば
其の胸元から、下胎に掛けて、緩やかに撫ぜ降ろし、押し付けるだろう
掌の熱を、他者の温度を、感じさせる様に)。
■名無し > 男の言葉は尤もだ。
そも、自身の所有権を失った時点でこの身の権利など皆無に等しい。
身の安全を守る、と言う事にしたって抜け道はあれども制約が存在するのだ。
「成程…?」
父、との言葉に、思わず首を捻る。
中性的な容姿も相まって、見た目からでは年齢も想像し難い。
そも、あれだけの能力があれば、見た目など好きに弄る事が出来そうではあるが。
彼の事を、主、と呼ぶのは流石に受け入れられそうにない。
政争の末に、死んでしまったか、自分と同じように奴隷の身へと
墜ちてしまっているだろう、幼い頃から主と呼び慕った人。
それを、そう簡単に忘れ去る事も、他者を挿げ替えるほど老成出来てはいないのだ。
ほんの刹那、遠くへと放たれた意識は瞬く間の間に戻り、告げられる言葉に呼気を逃がす。
「――……ルヴィエラ様のご随意に。」
自分の意志で来いと、そう言われているのだろう――そう受け取った。
赤の混じる碧眼を僅かに眇め、立ち上がれば傍ら、彼の眼前へと立つ。
上から下へ、と撫で下ろされる掌から与えられる熱が、薄い布越しに瞬く間に伝わる。
■ルヴィエラ > 「……私は為り替わる心算もなければ、追い出す心算も無い。
その心に残る記憶は、大切ならば持ち続けたって構わぬよ。
全てを捨てて私に使えるのではなく、ありのままの、今の君で仕えてくれれば。」
(それで、良い。
前の主の存在を、相手の中から抹消する気は毛頭無いのだ。
ならば、女が最も納得できる形で、己が存在を認めて貰おう
例え、呼び名の問題で有ったとて、日常で意識する物だ
結局、素直に己が名を読んだ相手に、それでいいと頷き、了承しては
――掌を、するりと貫頭衣の布地、其の内側へと滑らせ、地肌へと触れて。)
「―――……私は、何と呼べば良いかな?」
(――ふと、そんな事を問いかけた。
奴隷である以上、名を呼ぶ、と言う必要が必ずしも無いのやも知れぬ
だが、相手が己に呼び名を問うたのだ。 同じように、己もまた相手に、名を問うてから
――掌に伝わせる魔力、ずるりと、女の胎の奥に何かが這入りこむ様な感覚を与えると共に
其の下胎に、ゆっくりと、絡み合い円を描く二匹の黒蛇の紋様が、描き出され始める
もし女が魔力を感じ取れる類で有れば、自らの胎の奥に。 厳密には、其の子宮に。
黒い魔力が纏わり付き、絡みついて、染み入るのが感じられるだろう
肌の上と同じ様に、其の子宮にもまた紋様が、呪いが、刻まれて行く、実感
――そしてそれは、女の身に、囚われた其の器官に、無視出来ぬ鮮烈な疼きとなって襲い来る筈
紋様が侵食し、刻まれ進む度に、掌の熱とは異なる、重い重い蔓延る様な熱が
自らの内側から溢れ出して灯り、感覚を染め上げて行く。
其れが、快楽であると。 果たして女は、知る身だろうか。)
■名無し > 様々な事を受け入れ、昇華をする間も無く、己の主人である権利すらも失い、
冷静を取り繕うだけの理性が残っているのは僥倖なのだろう。
それが不幸であったのかもしれない、とも思いはするが。
「――……。」
男の静かな言葉は、圧が薄いからだろうか、耳によく響く。
困ったよに、仄かに眉宇を寄せて口を閉ざした。
――次に口を開いたのは、彼へと名を告げる時か、はたまた問い掛けへと答える時か。
然程間を開けずに答えは分かるのだろう。
【継続】>両者退室
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