2021/11/08 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にポーリーンさんが現れました。
ポーリーン > 夜を迎えてなお、異様な熱気に包まれた奴隷市場の中心部。
広場に設えられた仮設舞台の上で、ミレーの特徴著しい娘が、
卑猥な見世物に供され、か細い啼き声を上げている。
恐らく、この見世物は随分前から行われているのだろう、
いかに人間よりも頑健だと言われている種族の者でも、疲労の影は色濃い。

濁声で囃し立てている男たちの背後、遠巻きにその様子を眺めながら、
黒衣の女はごく僅か、不快げに眉根を寄せていた。

「ああいうことには、もう少し、緩急をつけるべきだと思うわ。
 あんなにぐったりしているのでは、誰も、あの子を買いたがらないじゃないの」

ときにはこうした場所で、見どころのありそうな娘を身請けすることもある。
だから女の眼差しは、買い手として、商品を見る者のそれだった。
とは言え、今、舞台にあげられている娘は――――あまり、女の好みではない。
せめてもう少し、活きの良いものでなければ、と思う。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」にファビオさんが現れました。
ファビオ > 「――左様で御座いますね。
 どうやら、今回の趣向はあちらの御方には少々刺激が強過ぎたご様子で。」

女性の言葉にそう返事を返したのは、彼女と同様にやや遠巻きに舞台の様子を眺めて居た男の姿。
一歩、女性の方へと歩みを寄せてから、軽く頭を下げて会釈をして見せて。

「しかし、ご覧の通り舞台は盛況で御座いますし、此処で彼女を下げてしまっては彼らの熱気も冷めてしまうというもの。
 せめて、代役がご用意出来れば良いのですが――貴女の方に、何方か伝手は御座いますか?」

別段、舞台に立つのは奴隷で無くとも構わない。
報酬を目当てに身体を売る者、そうした趣味を有した者――
舞台の上で疲労困憊の色を見せた娘に代わって、
今宵此の場を盛り上げてくれるのであれば誰でも歓迎する旨を付け加え、
男は傍らの女性へとそう尋ねかけてみた。

ポーリーン > 独り言のつもりだったけれど、存外、大きな声が出ていたらしい。
返事が来るとは思わず、やや虚を衝かれたような表情で、
女は声のした方へ視線を向けた。
頭を下げる男につられ、こちらもごく軽く頭を下げて。

「刺激が強過ぎる、というより、長く責め過ぎたのじゃないかしら。
 せめて、少し間を取ってあげれば……ミレーの子なら、きっとすぐ回復するのに」

溜め息交じりに、今度は男を明確な話し相手として。
物言いから推察するに、この男は興行主側の人物なのだろう。
しかし、それにしても―――

「代役―――――?」

突然そんな質問をされて、女は大いに面食らう。
生憎と最小限の荷物しか持たず、王都から訪れた身だ。
その荷物自体、今宵の宿に置いて来てしまっている。
勿論、都合良く奴隷を引き連れている筈も無く、
意味も無く己の右側、左側と、素早く視線を巡らせてから肩を竦め。

「残念ですけれど、今は御覧の通り、持ち合わせが無いの。
 どこか、その辺りのお店から、買いつけていらしたらどうかしら?」

ファビオ > 軽く頭を下げて会釈を差し向けた後、女性の視線が此方へと向くのを見て取れば、
男の表情は一見人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、今一度丁寧に一礼して見せて。

「嗚呼、申し遅れました。私の名はファビオ、と申します。
 不肖ながら、魔道具商として本日の舞台で用いる小道具の類を提供させていただいております。
 ――えぇ。ですので、彼女が回復するまでの代役を必要としておりまして。」

突然の男の質問に、面食らった様子の女性を見て。
当然の反応であろうと胸の内では思いつつも、男は言葉を続ける。

「左様で御座いましたか。これは大変失礼を。
 では――貴女自身は如何でしょうか?
 無論、謝礼は弾ませていただくつもりで御座いますが……。」

変わらず、人当たりの良さそうな笑みを浮かべながら。
冗談とも本気ともつかぬ物言いでそう尋ねかけると共に、
少しずつ、その足をステージの方へと促そうとするだろうか。

ポーリーン > 一見しただけで警戒心を抱かせるような、怪しげな風体ではない。
しかし、このような街で愛想良く微笑みかけてくる男、というだけで、
充分に怪しむべきである、と、女は己自身の事など棚上げして思う。
勿論、内心を悟らせるようなへまはしないが。

「ご丁寧に、ファビオ様、わたくしは―――――…」

つられて名乗ろうとした唇が、空を食んで噤まれる。
こんな時刻に独り歩きをし、こんな見世物を眺めるような女にも、
いちおうの警戒心というものが存在したらしい。
けれど同時に、うずうずと―――女の悪癖が、刺激されるような。
男の職業を聞いた瞬間から、ピンクの双眸がひどく楽しげに煌めいていた。
目立たぬ黒衣の胸元へ、豊かな曲線を描く隆起の谷間辺りへ、無意識に右手を宛がいつつ、

「――――― まさ、か。
 わたくし、……わたくし、奴隷ではありませんのよ?
 何故、わたくしがそんな………、」

見世物に、だなんて。
そう呟く唇は、不機嫌そうに引き結ばれるものの。
舞台の上で啜り泣く娘の声を掻き消す、下卑た囃し声が鼓膜を打ち、
女の双眸はまた、好奇の光を放って、揺れる。

「それに、………わたくし、あの子のように、若くも、ありませんし。
 見世物なら、やはり、……愛らしい、乙女のほうが」

そんな言い訳を並べ始めた、女には明らかな隙がある。
海千山千の男なら、容易くつけ入り、操れるであろう、隙が。

ファビオ > 穏やかに微笑みながら誘いの言葉を投げ掛ける白シャツにネクタイ姿の男。
名乗りを返そうとした女性の唇が不意に噤まれるのを見て取れば、
訝るように一瞬瞳を丸くするものの、すぐさまその表情を元に戻して。

「嗚呼、失礼――
 この様な場所で突然このような提案をしてしまい、
 警戒するなと言う方が無理な話で御座います。」

それでも、密やかにその双眸を楽しげに輝かせた彼女の様を知ってか知らずか、
少しずつ、少しずつその足をステージの方へと促しながら、
反論する女性の言の葉に重ねるように、囁くように男は言葉を返してゆく。

「何も、舞台に立つ資格があるのは奴隷ばかりでは御座いません?
 一時の好奇心や快楽を求めて自ら舞台に立つ方も少なくありませんし、
 それに――貴女のようなお美しいご婦人であればきっと、
 今の彼女以上に観客も喜んでいただけると、私は確信しておりますよ……?」

言い訳のように並べられる彼女の言葉をひとつひとつ打ち消してゆくように、
甘く誘惑するような男の囁きが彼女の耳元を擽ってゆく。
そうしている間に、男が促す足はステージに上がる階段へと掛からんとしていて。
彼女が本気で其れを望んでいないので在れば、引き返す事は容易い。
しかし男の囁きは其れを許すまいとするかのように、
女性の隙へと付け入り彼女を舞台の上へ続く階段を昇らせてゆこうとし―――

ポーリーン > そもそも、怪しいところの無い者が、おいそれと足を踏み入れる街ではない。
この女にしても、つまりはひとを買いに来たのだから―――

けれども。

「いえ、ごめんなさい、………でも、本当に、わたくし」

相手が見た通りの人物であれば、失礼なのは女のほうである。
だが、やはり、どう考えても、こんな街で、こんな場面で、舞台に上がるなどというのは、
まともな人間のやることではない、筈だ。
―――――しかし、女は、己をまともだと思うほど図々しくはない。
それに何よりも、この女は【知らない事】に滅法弱いのだ。

知りたい、と思う。
とても強く、女の好奇心が刺激されていた。
躊躇う素振りで、女の足はじりじりと、男の導くままに動き出している。
舞台を注視していた男たちの中の、一人、二人、こちらを何事かと見遣ってしまう位、
いつの間にか、随分、舞台に近づいていた。

「それは、……そうかも、知れません、けれど。
 わたくし、決して……そんな、はしたない女で、は―――…」

迷っているのが、ありありと知れる面持ち、眼差し。
口籠りがちになっているのも、女の心が揺らいでいる所為だ。
美しい、なぞという世辞を、真に受けた訳でも無いけれど―――

「―――――――――― あ 」

いけない、と思ったときには、女は舞台へ続く階段に、その一歩を刻んでしまっていた。
そこへひとたび足を掛けてしまえば、退路は完全に断たれる。
数多の男たちが浴びせる、熱を孕んだ好奇の目に背中を押され、
女は舞台の上へ、新しい【見世物】として、引きあげられてしまうことに―――――。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からポーリーンさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からファビオさんが去りました。