2020/06/08 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にティクスさんが現れました。
ティクス > 【本日お約束です】
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にラスティアルさんが現れました。
ラスティアル > 【本日お約束です】
ラスティアル >  バフートに響き渡る音と言えば、奴隷達の悲鳴と嬌声と決まっているが、今日は違った。野太い男達の怒声が、市場の通りに立つ半人の戦士に浴びせられている。

「もう一度言うぞ! 俺は、血の旅団の一味なんかじゃない!」

 旅団の間者だ!ブチ殺せ!剣や斧を手にした者達に脅しつけられたその男には、黒光りする角が2本生えていた。
 何故このような嫌疑を掛けられているか。それは、ゾス村と山賊街道で単身暴れ回り、旅団の暗躍に乗じて略奪、窃盗を繰り返していた冒険者や、自らの待遇に不満を抱く王国兵を襲って、彼らの上前をはねつつ村の警護や街道の護衛で稼いでいたからである。

「しかも今日来たのは! 村の誘拐事件を調べていたからだ! 大体! 良いか、大体だな! 味方を不意打ちして、盗みを働くような奴らは、何をされても文句を言えないんだぞ!」

 男達と対峙する角持つ戦士は、良く言えば育ちが良さそうな、悪く言えば無闇に偉そうな態度を保っていた。反論の言葉も、抗弁というよりは叱責である。
 そういう振舞いに堪忍袋の緒が切れた連中の1人が、雄叫びと共に手斧で襲い掛かってきた。そいつを避けつつ蹴り転がし、両腕を交差させて二振りの長剣を抜き放つ。

「どうしてもやるかっ!?」

 本来なら両手構え、あるいは盾との運用を前提としている筈の剣を2本同時に構えた男が吼える。が、威勢よく剣を抜いた本人に余裕が無かった。

「面倒なことになりそうだ……」

 そう呟いたのは、弓やクロスボウを手に櫓を登る男達を見つけたからだ。本来は奴隷を監視するための場所だが、今は自身を狙い撃つ為の陣地となり得る。単身ここを生きて出るには、相当な腕が必要だろうと思われた。
 あるいは、思いがけぬ加勢が。

ティクス > 「――――何ともまぁ…耳が痛いね」

眼下から聞こえてきたのは。人として、実に正論だ。思わず、はたはたと手扇で首元辺りを扇ぐ…暑苦しい、と。

此処はバフート。天下に聞こえる奴隷市場都市。
城塞都市を占拠した盗賊団、その一員である少女が、何故こんな所に居るかといえば…
矢張りどうしても。ゾス村含め、其処彼処から連れ去られていくミレー族。その行方が気になったから。
本心はどうあれ、仮にも彼等の解放を謳っている分、城塞都市に参加するミレー族も少なくはなく…そして。
彼等もまた、戦場で敗北した場合、戻って来ない。そんな件が多々起きていた。

貴族が絡んでいる以上、皆王都に運ばれている可能性が高いのだが…九頭竜方面から、王都へと奴隷を運ぶなら。
きっと此処を経由する筈だ、と踏んだ故の。調査中だった。

人目を避けるかの如く、屋根から屋根へ、移動していた…その折に。件の声は聞こえてきたのである。
…「村の事件」、「旅団の一味」。届く単語に肩を竦め…身体が傾ぐ。前へとのめり、そして重力に従う形で、下方に落ちて――
降り立つのは。有角の戦士に対し、多勢で息巻いて取り囲もうとする男達、その一名の真上。
思う様、頭だか背中だか、踏みつけにしてやろう。

「…そうだね、知らないよ。うちの団に――そんな奴居やしない」

ぐぇ、と足元から聞こえる悲鳴はともあれ。思わぬ方角からの一手に、振り向く数名に対し。
何とも心外だ。そう言わんばかりな少女の声は。自分こそが当の旅団員だと言い切って。

ラスティアル > 「おいお前達! 一度始めればな、無傷じゃ……んっ?」

 じりじりと包囲を破れそうな位置へ動こうとしていた戦士は、突如屋根の上から降ってきた小柄な影に藍色の目を瞬かせる。風に靡く白金色の髪、血を思わせる隻眼、薄褐色の肌。小さく吐息を零し、大きく息を吸い込んで、口角を吊り上げた。

「いや、まあ、まだそうじゃないってだけだ。お前みたいな良い女を守る為なら、入団も吝かじゃない。どうかな。俺、入れそう?」

 左右の切っ先を下げ、肩を竦めた有角の男はそう言って、やや角度をつけ少女に笑いかけた。当然、やっぱりそうじゃねえかクソ野郎が!と背後から襲われる。
 しかし、戦士はそれを待っていた。わざと隙を作り、最初に倒すべき1人を引き寄せたのだ。笑みを保ったまま身体を回転させ、双剣が唸りを上げる。鋼色の渦に巻き込まれた男が、突進の勢いはそのまま、角持つ戦士の足元に転がった。少し遅れて、血の尾を引く手と足が落ちる。
 絶叫が上がり、怒号で掻き消され、乱戦が始まった。地上の男達と、櫓に上がった飛び道具持ち。彼らの狙いが一斉にぶれる。腹立たしい男が先か、突如現れた少女が先か。

「有難う! でも、隠れてな!」

 肩越しに振り返って少女に告げ、戦士は駆け出した。色とりどりのテントや、性奴隷用の見世物小屋の合間を抜け、敵を攪乱する。櫓に上がった者達も、当然ながら駆け回る方を得物で追うだろう。

ティクス > 一秒。二秒。多分、その位の時間位なら。誰もが対応し倦ねて、隙が生じていたと思う。
ぐり。実に容赦なく、踏み台とした男の背中に、踵を捻り込んでおき。完全に意識が失せた事を確認しつつ…追われていた彼へと振り返れば。

「実はその辺。…後で、詳しく聞きたい…ね。…って、あぁっ、もう――」

その辺イコールどの辺かを、はっきりと言い切れなかったのは。
一瞬呆気に取られたらしい男達が。直ぐに、数瞬前よりも殊更に色めき立って。
てんでばらばらに叫びつつ、二人に増えた獲物に対し、飛び掛かってきた為だった。
既に彼へと肉薄寸前だった者達は、此方に構わず前進し…一名が、悲鳴を上げた。
血と肉が切り飛ばされて転げ落ちる光景に。これまた一瞬で構わない、男達がたじろいでくれるなら。

「…ん…よし。じゃぁ其処、宜しく――!」

するりと、男達の間を縫って駆け出した。
包囲を潜り抜けられた男達が、慌てて振り返るのを尻目。此方を狙う櫓の方へと駆けていく。
露天の天幕、家屋の庇、そういった障害を適宜活用しつつ。)

当たり難いとはいえ、それでも、めくら滅法此方に向かい、矢が飛んでくるのだが。
それはそれで、少女を追おうとする男数名にとっては、駆け寄る邪魔にもなるのだろうし。

「お株を奪われるってのは、何ていうか、癪だし…」

そうやって、着々と櫓へ向かいつつ。外套の中で得物を探り。

ラスティアル >  分厚い革鎧を纏い、2本の長剣を振るい、クロスボウを背負っていることを考えれば、角持つ戦士の動きは聊か機敏に過ぎると言えるだろう。カウンターに上がって檻の上へ飛び移り、悲鳴を上げる性奴隷が繋がれた柱の合間を抜ける。
 軽業じみた数々の動きは何の為か。当然、1対多数の定石にもちこむ為だ。一目散に逃げた戦士を追いかける敵達の足並みは揃わない。突出した敵に斬りつけ、下がらせ、少しずつ数と士気を削いでいく……のだが。

「っとぉ!」

 赤く濡れた切っ先を引いた戦士が飛び退る。その足元にクロスボウの太矢が突き立った。そう、この作戦、上方から撃ち下ろされると真価を発揮しない。といって、走り回る程に櫓からは遠ざかってしまう。さもなければ狙い撃ちだ。

「どうした! 来いよ! 来いッ!!」

 不意に現れた少女に思いを馳せつつ、笑顔で声を張り上げる。どうして自分の前に現れてくれたかは分からない。とにかくあの登場が隙を作ったのだ。
 なら、助けてくれた人間を助けなければならない。少しでも目立ち、囮になろうと。

ティクス > 標的が二人になった。必然、剣や斧を振るう者も、櫓から矢を撃つ者も、半々に分断される。
それだけでお互い、大分楽になると思いたい。
…何やら色々訳有りのようでもあり。知りたい情報にも繋がるかもしれない。といった打算的な理由ではあれ。共闘するには充分だ。

背後から響くのは。先程の彼の、敵を引き付ける為なのだろう大声と。それに対する男達の怒号。
は、と小さく笑いつつ。足を止める事の無いまま、ごく軽い手付きで、後方へと何かを放れば。
途端。こちらを追っていた男達が。悲鳴を上げ、足並みを乱す。
彼等の足元へ放り込まれたのは、出がけに森で拾ってきた、固い殻を持つ水草の実だ。
何処か遠い国ではこうして。敵の足を潰す為に使われているという、お墨付き。

そうして追撃の手が緩んだ所で。降り来る矢を躱し、積まれた木箱の影へと飛び込んで。

「―――― ッ。 …雑、だな。本業は、こうやって撃つんだ…よ?」

勿論。狙撃手として…ではない。何をされても文句の言えない、盗賊としての戦い方だ。
木箱を盾に少女の撃ったクロスボウは。狙撃手達の頭上を越えて、櫓の天井に突き刺さる。
逸れた狙いに、男達の上げた笑い声が――ぼぅん、と。爆ぜる様な音に掻き消されれば。
途端、彼等は悲鳴を上げる。咳き込みながら櫓の上でのたうち回る。

少女にとっては毎度お馴染みの、香辛料満載の煙玉が。矢と共に打ち込まれた結果だった。

…効果を確認しつつ、ちらり、背後へ目を向けて。彼の戦況も確認しようか。

ラスティアル > 「まず、あの射手を封じなければ……あっ?」

 剣を両手に威勢良く叫んでいた男が、小さく独りごちる。どうにか射角を読まなければ、とか、同士討ちを誘って飛んでくる矢弾を減らさなければ、とか、色々考えていた後衛、すなわち櫓にいた連中が、気付けば大混乱に陥っていた。
 白い煙が立ち込める中、クロスボウや弓を取り落としてのたうち回っている。そして、自分を追いかけた連中も、想像していたよりずっと少なかった。此方に背中を向け、足元の何かを蹴ったり、靴裏から何かを取ったりと忙しい。

「あれえ?」

 血を流さずには逃げおおせられまい。そう覚悟していた戦士は、気の抜けた声を上げつつ、繰り出された槍の柄を手にした男ごと斬り裂いた。「分断し征服する」という戦術が余りにも決まり過ぎ、攻勢がすっかり鈍ってしまった。のだが。

「ッ……おい! さっきの可愛い子!」

 一糸乱れぬ規則正しい金属音を聞いた男は、舌打ちしつつ少女へ呼び掛ける。藍色の瞳が捉えたのは、バフートを守護する王国軍。制式武具で揃えた彼ら相手では、少しばかり機転をきかせた程度では太刀打ちできない。おまけに幾らでも増援が来る。

「潮時だ!」

 勝ち誇る暇もない。自分独りならどうとでも言い抜けるが、正真正銘の旅団員が一緒ではそうもいくまい。結局、言いがかり通り「血の旅団一味」のようになってしまった自分自身に苦笑しつつ、戦士は逃げを打った。
 行く先は南部の出口。山賊街道に出て、行方をくらまそうという腹心算だった。

ティクス > 正直。猪突猛進、血の気に任せて突っ走ってくる手合いで助かった…と思う。
これで、数の優位を投げ出す事なく維持し続けて。
きちんとセオリーに乗っ取った各個撃破を狙ってきたりする相手なら、もっと手間取っていただろう。
櫓で爆ぜた粉塵は、煙幕というよりも催涙性の刺激物。大の男でも、涙を流さずにはいられない代物だ。
たっぷり数分はマトモに此方を狙えまい。なら、取って返して彼を援護すべきか…と思いきや。

「 …? …って、あぁ……成る程、ね…」

丁度、向こうの方から声を掛けてきた。明らかに此方が優勢なのだが、それでも、潮時というのは何故か。
…首を傾げきるよりも先に、直ぐ、少女にも理解出来た。
ひしめき合うように近付いて来る、金属質の重い足音達。紛れもなく、重武装の兵士達だ。
それを相手取るのは確かに、こちらも遠慮したい。今のたうち回っている冒険者崩れ共なら兎も角。
今後村に駐留したり、城塞へと攻めてくるかもしれない兵士達に。顔を覚えられるのは真っ平だ。

「――聞こえる?半刻後、南口で、待ってる…!」

此方からも、彼の方へ声を届ければ。
直ぐに、細い裏路地へと身を翻す。
その道自体も移動する事なく、途中で壁を蹴り、再び建物の上へと、姿を消す事になるだろう。

…約束通りの頃合いに。彼と合流出来たなら、一先ず、街を後とする事になるのだろうか――。

ラスティアル >  逃げると決めたなら一目散。幾度も単身で多数を相手取ってきた戦士にとって、足の速さと決断の速さは生命線だった。

「……ああ!」

 背中に受けた声は、意外であり嬉しくもあり。追いつけない、追いつきたくない敵らの罵声に笑みを浮かべて奴隷たちのテントへ飛び込み、追手の目をくらましつつバフートを後にした。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からティクスさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からラスティアルさんが去りました。