2019/09/21 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にジンライさんが現れました。
ジンライ > 熱を孕んだ空気が鎮座していた季節が流れ、肌から体温を奪う風が吹く夕暮れ。
奴隷市場の中でも一際大きな規模の競売上の屋上で、ひとり手すりに凭れて暮れ行く街を眺める男が一人。
吹く風は男の半纏の裾を僅かに揺らし、口に咥えている煙草の煙は先端の紅の傍から灰ごと攫われていく。

「良い季節ンなったなァ………」

口の端で呟きを漏らす。
その鋭い目つきはしかし、半分くらい瞼が落ちて、視線もぼんやりと都市の屋根を滑っているだけだ。
文字通り、黄昏に黄昏れているのは実は季節の移ろいを満喫しているわけではなく、時間を持て余しているから。

新しい商品のために王都から徒党を組んで出向いてきたが、自分の仕事は主に行き帰りの途上。
『仕入れ』は己の仕事ではないから、ここでの滞在期間中は暇で仕様がない。
せめて幾何かでも金があれば、賭場だの酒場だの、刀剣でも探しに町をうろつくこともあったのだろうが

「……うめェ仕事、無ェかなァ………」

伝手の無い国に来て、ソッチの仕事はサッパリだ。
何気ない視線を投げている屋根屋根の向こうの山脈のほうへ、黒い鳥影が飛んでいく。

ジンライ > こういう時、たまーに
足を洗ってカタギになったら、綺麗な定期収入があるかもしれない、とか思ってしまう。
今は悲しいかな子飼いの身。
おまけに連日娼館勤め。
女の香水の匂いが服にしみついて、そのたびに煙で燻したくなる。
元は女嫌いではないが、過ぎたるは猶及ばざるが如し、今となってはそのテの女は少し、食傷気味だ。

残念ながらそのテの女以外とお近づきになる機会などなく、お陰でめっきりご無沙汰。
それでも欲求不満にならないのは、叔父貴からやたらと危険な場所に放り込まれることが多く、その度に満身創痍になって

『命あっての物種だなァ』

なんて殊勝な事を考えさせられるからだ。
…もしかしたら、それさえも叔父貴の手の内だったりするんだろうか……

ジンライ > 切りの無い思考を打ち切って、視線を暮れなずむ街の路地に落とす。
もしかして、どっかの御大尽が暴漢かなんかに襲われたりしていて、それを助けたりして謝礼にあずかれやしないかと。

「――――まァ、無エよなァ…」

大体、『奴隷市場都市』なんて名前からして物騒な場所へ何の備えもなく来るやつも居ないだろうし、襲う方だって相手がそこそこの身分だとすれば、アシが付きやすいことから避けるだろう。

とは思いつつも。
一種博打の気分で以て、手すりからやや身を乗り出して路地に視線を渡していく。

ジンライ > 上から覗く路地ももう暗がりに沈む頃になって。

どお…んと建物を揺らすような鈍い銅鑼の音が鳴り響いて来る。

男は小さく舌打ちをした後口の端からすっかり短くなった煙草を取ると、鉄製の手すりへときっちり押し付ける。更に石の床へと落として踏みつければ、夜陰の中ではもう殆ど見分けがつかないくらいに。
次に強い風でも吹けば、どこかへと吹き散らされてしまうだろう。

それを横目に、はぁーと気乗りのしないため息をつきながら背後へと踵を返す。

「――やめだ、辛気くせェ」

呟けば、しゃんと背筋を伸ばしてぱん、と半纏の襟を正すが
それでも首を傾げがりがりと後頭部を掻きながら、階下への階段がのぞく扉へと姿を消した。

茜から紺色に染まる屋上には、煙草の匂いだけが遺る。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からジンライさんが去りました。