2019/05/23 のログ
アルフレーダ > 「…………お前、年寄りのように話すのね。麗しくないわ。矯正させるべきね。」

愛くるしい少年から奏でられるに相応しい声音だというのに、其れに不相応な話し方に思わず一呼吸遅れた。
てっきり舌足らずに甘え、叩けば泣くのだろうと期待していただけに片眉がつり上がる。
出身地の教育なのだろうか。購入した後で調教しなくてはならない。
異国の装いは裸身を想像するのは難しい装いだが、この背丈に体格では何の腕力もないだろう。
そんな存在を好みに育つよう躾け、美しさだけを際立たせるために飼うのは退屈しのぎになりそうだ。
扇子という隠すものがなくなった王女の唇が、いびつに歪んで笑う。

「良いわ。その風采なら血筋もしっかりしてるのでしょ?下賤の泥水みたいな血が通った者は嫌いなの。
 お前なら見目は優れているし、恥ずかしくない出自なら散歩にも連れて行けて便利だわ。」

容貌に似合わない話し方は気になるが、あどけない仕草はペットにはちょうど良い。
王女が湯水のように使う金は民の稼いだものであり、高いと言う金額が具体的にいくらなのか聞くこともなく、狼狽している商人に目配せした。
奴隷と買い手ならともかく、この二人をあの部屋に連れて行って良いものだろうかと
躊躇いもあっただろうが、どちらも同意し乗り気であれば止めることは出来まい。
商品たちに哀切の声や異様な音が聞こえない程度離れた部屋へと、否応なしに案内させられる。

――――仮にも高額な奴隷を購入する者が使う部屋は、ベッドが備えられ、休憩するにも良い空間だった。
だがこの部屋を使う目的は様々あっても、どれもろくなものではない。
其れを示すように各道具が用意され、望みとあれば続く扉の向こうには特殊な部屋もある。
性根の腐った王女は、他者を痛め付けるくせに自分の身は汚したくないといった横柄ぶり。
部屋に入るやいなやドレスの裾を気にしながら椅子に座ると、改めて少年の容姿を観察するのである。
言わずとも視線が物語っている。とりあえずは全部見せろと。

ホウセン > 語り口に文句を付けられたのは、この小さな人外をして余り経験のないこと。
その一点だけで、横暴な態度の王女に対する興味が増したとは、口外するものではなかったが。
案内されるに任せ、部屋へと足を踏み入れる。
この我侭王女が如何なる奴隷遊びをしているのかは知らぬが、あまり気にした風もない。
折角せしめたばかりの獲物を、衆目に晒しながら弄ぶ程の剛毅さを持ち合わせていないのは、他の者を部屋に入れなかったことから察せて。
第三者の耳目があれば、妖仙とて抑制した行動をしなければならぬ所だったのに、その唯一の安全装置を自ら手放した格好。

「嗚呼、全く全く、手ずから肌を晒させる愉しみを放擲するとは勿体無い。
 一枚一枚剥ぎ取るのが悦じゃろうに。」

椅子に腰掛けた”購入者”の前、手を伸ばしても届かず、さりとて一切を漏らさず鑑賞できる間合い。
視線の意図は、内容を違えず妖仙にも伝わったが故の嘆息。
お高く留まった王女の言動に、何ら影響を及ぼさぬであろうことを承知の上で。
羽織に手を掛ける。
上等な設えではあるものの、手入れのことなど失念したように、毛足の長い絨毯が敷かれた床へと脱ぎ落とす。
次いで帯に指を掛けて解けば、静謐な空間には衣擦れの音。
着物と内掛けを袷から寛げると、なだらかな肩の線に沿って、あたかも花弁が綻ぶようにスルリと脱げ落ちる。
内側から覗いたのは、異国出身者にしては色の薄い肌。
シミや傷跡一つ無い滑らかな表皮に、体型が分かり辛い装束を通しても察せていたであろう華奢な体躯。
骨格も完成しておらず、筋肉の量もたかが知れている。
見た目の年齢相応の瑞々しさと儚さが同居した肉体を、鑑賞者の目を引くべく多少の勿体をつけて晒し、然し全てを披露するには至らない。
雪駄と足袋はそのままだったし、白く、そして硬く締め込まれた褌が残っているのだから。

「このまま全てを晒してしまっても構わぬが、折角毛色の違う儂を買うたのじゃ。
 只、肌を晒させるだけではつまらなかろう。
 少しばかり情緒を堪能しても損はないのじゃよ。
 儂の国の香でも焚いて、風情を愉しむが良策ぞ。」

ある程度は従順に。
だが、良いことを思い付いたという体裁で、脱衣を中断する。
その場にしゃがみ、脱ぎ落とした衣服から硬貨が一枚入るかどうかというサイズの紙の包みを拾い上げる。
視線は部屋の中を巡り、並べられた道具類の中に香炉を見つけると駆け寄り、包みの中身をくべるまであっという間。
勝手なことをするなとどやされそうなものだが、妖仙の厚顔さは小揺るぎもしないだろう。
程なくして、香炉から白い煙が一筋真っ直ぐに立ち上り、甘やかな香りが充満し始めて。
それが、妖仙の手により伽羅香を模して作り上げられた香薬と、気付けるだけの教養があるかどうか。
小さなシルエットが踵を返して女の元に舞い戻る頃、まともに香りを吸い続けてしまっていたのなら、仄かに身の内が熱を帯びる程度の変化があるやもしれぬ。
誰に憚ることのない密室の中、早々に人外たる本性を現して”獲物”を襲うのも容易かろうが雅量に欠ける。
斯様に碌でもないことを思案しつつ、夜は更け――

ご案内:「奴隷市場都市バフート」からアルフレーダさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からホウセンさんが去りました。