2019/05/22 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にアルフレーダさんが現れました。
■アルフレーダ > 広い屋敷を使い、現在行われているのは貴族・王族・その他金満家を相手にした奴隷市。
質は悪いが安価に手に入る奴隷が並ぶ大通りとは違い、彼らでなくては購入出来ない金額になっている。
悪趣味極まりない空間に相応しい王女が、いた。
比較的きちんとした身なりを強いられた奴隷たちを品定めしながら、ゆっくり歩いている。
口元を隠すように扇子を広げ、其の表情は不明瞭なところもあるが
目を細めたり、歪な笑みを浮かべたりしているのは何となく分かるものだろうか。
『いかがですか?』
「珍しい種が欲しいのよね。男でも女でも良いんだけど、華奢な方が良いわ。無駄な力はなくて良し。」
玩具を求めている王女の希望は、美しく弱々しい生き物。
躾をして強がられるより泣いて縋られた方が興奮するためだ。
希望を聞いた奴隷商人は一際高額で、其れに見合った美しい顔立ちの少年を紹介する。
『こちらはいかがでしょう?』
「……ミレーは要らないの。私の好みくらい把握しといてくれない?」
一瞬にして殺伐とした空気になる。
王女のミレー嫌いを知らなかったのか知っていて忘れたのか、商人は頭を下げ、慌てて他の奴隷を探し始めた。
其の様子を冷たい態度で眺めて待つ王女の圧力を感じながら。
奴隷商も気苦労があるようだ。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > バフートに顔を出すことは間々ある妖仙。
安価な市で掘り出し物を探す楽しみもあるけれど、高価格帯の奴隷は鑑賞しているだけでも愉しめる。
相応の年数を寝かせた酒を飲み比べるが如く。
最大公約数的な見目麗しさの中に、それぞれの個性を見出すのだ。
この手の会も慣れたもので、何かと売り込みの五月蝿い付き添いは笑顔で謝絶し、気侭に一人で屋敷のあちらこちらに出没している。
その身軽さとは対照的に会の主催者を引き連れた王女がいる部屋に足を踏み入れたのは、偶然の産物。
「ぬ。
いやはや、どれもこれも目移りして仕方ない所じゃなぁ。」
感嘆ともぼやきとも聞こえる声は、未だに変声期を迎えていない高い響き。
没落貴族の娘という触れ込みの奴隷の前で、細っこい腕を組んで思案顔。
黒い髪と黒い瞳。
肌の色は王国民には中々見ぬ色合い。
昨今目にする機会は増えただろうが、北方帝国辺境部に由来を持つ装束に袖を通した、見るからに異国情緒に溢れた少年の姿。
次の”商品”に河岸を変えようと足を踏み出したところで、他の客人の存在に気付いたらしい。
女の顔は知っている。
遠目には見たことがある。
素性を察し、一応の礼として軽い会釈をする”珍しい種”は、それこそ高級奴隷に引けをとらぬ人形めいて整った顔立ちをしていた。
■アルフレーダ > 会釈に気付いたというのは、王女も其の少年を見ていたからだ。
扇子に隠した唇から漏れた感嘆の声は、不機嫌なものではなかった。
背丈は客どころか奴隷にすら埋もれてしまいそうに見えたが、異国めいた麗姿の少年は目立つ。
帝国も東国も見分けの付かない王女には、具体的に彼の種族や出身が分かるわけではなかったが、
公主の件で近頃よく見るようになった帝国の者を思い出しても、愛嬌と麗しさという点では抜きん出ている。
「ねぇ、あれはいくらなの?」
『……はい?』
次の候補を突き出そうかとしていた奴隷商に、王女は尋ねた。
何のことかと怪訝な顔をした彼に示すため、閉じた扇子をひょいと異国の少年へと向ける。
途端に商人は青くなり、しどろもどろに客人であることを説明する。
当然王女とて奴隷と其れを見繕いに来た者の違いくらいは分かっているが、
欲しいものは全て与えられてきた環境から、だから何だといった態度であった。
「役に立たないわね。」
吐き捨て、王女は鮮やかなピンクのドレスを靡かせ、ヒールの音を高く響かせながら少年に近付く。
会釈をした礼儀正しい彼に挨拶をするためではなく、寧ろ奴隷という商品を見る態度と何ら変わりない。
強いて言えば品定め、そして観察である。
「……ふぅん。毛並みも良いし、ペットには適してるわね。」
そんな失礼過ぎる言葉が少年に届くかどうか、という距離にまで近付くと立ち止まった。
■ホウセン > 有力王家に連なる王女にして、国の要職にある女のこと。
その風聞は、耳元で大声を上げられるが如く、否応なしに妖仙の手元にも届いている。
市井から、或いは取引先である有力貴族や軍人から。
彼らの評価は、判で押したように共通項が見られ、曰く”関係性を持って良いことはない”し、”関係がなくても面倒ごとを放り投げてくる災厄”とのこと。
扇子が己を指した事と、供回りの奴隷商の顔色から凡その事態は見当がついてしまった。
確かに難儀する者も多かろうと、納得した心地。
「いやはや、殿下の眼鏡に適うとは、儂も中々捨てたものではないようじゃ。
嗚呼、然し、さりとて。
愛玩動物に成り下がれと申し付けられるのは、無体に過ぎようというもの。」
値踏みの声は、耳に届いている。
尻尾を巻いて厄介ごとから逃げるのではなく、しゃんと背筋を伸ばして、幾許か開いていた距離を、短躯ならではの狭い歩幅で詰める。
さして声を張らずとも、会話には支障の無い距離。
王女と羽振りの良い商人。
上客同士の接触に、きっと運営者側は顔色を変えるどころか顔色を失っている。
何事かと、様子を伺う外野の視線もチラホラ。
「――儂は高いが、構わぬかのぅ?」
触らぬ神に祟りなしとはよく言うものの、その選択をするには、天邪鬼過ぎたし、悪食過ぎた。
おまけに言うのなら、外務卿という立場は、手駒にすれば役に立つだろうという算段もある。
声色に僅かな挑発の色を溶かし込み、その言葉が毒々しくならぬよう愛嬌で中和する為、小首を傾げる仕草を添える。
王女が我を通すなら、主催者達によって、奴隷を”試す”為に用意されている部屋に案内されることだろう。