2019/03/29 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にナインさんが現れました。
ナイン > (――いつぞやも訪れたこの店は。もう長い事、此の地に居を構えている。
歴史と呼べる程には深くもなかろうが。年月の積み重ねは、それだけで、一種の財だ。
取り分け商売に関わるなら。地元や其処の民との繋がり、他店に先んじる根回し、張り巡らせる目や耳等。
長く住まい、早く始めて、得られる物は非常に多い。

この店も。お陰で、他に比べて。商品一個一個の質が良い。
目利きの腕も確かだが。仕入れの際から他店には無い、融通を利かせられる故に。

そんな店だからこそ、足を運ぶ。
今なら。此の数日に於いてならと。間違いなかろう目算が有る故に。)

 先日来だ、また邪魔するよ。
 ――――…そう。話が早くて、助かる。

(常より早いサイクルで、足を踏み入れた客の顔に。店主はしたり顔で頷き、とある品を薦めてくる。
――それは。つい数日前、入荷されたばかりだという、王都からの奴隷。

より詳しく言うのなら。魔導機械云々の事後処理にて。
真偽はともあれ、他国と通じた疑いを掛けられた結果、此の地に迄堕とされた――貴族。即ち、嘗ての同胞だった。)

ナイン > (無論。王家派と、反対派。例え、貴族という立ち位置こそ等しくも。立場は真逆に他ならなかった者達だ。
だからと言って。敗者を嬲りに来た訳ではない。
零落れた者達を、憐れみ頭を下げるつもりもない。
あくまでも。少女は、実利の為に。――自らの血筋家柄と。国家の為に動くだけ。

やがて連れて来られたのは、歳も近い一人の少女だった。
清潔な、決して安くない衣を与えられ。きちんとした身形に整えられて。れっきとした…高級品の体。

が。推し着せられた装いが。まるで人形のようだ、という印象を抱かせるのは。
姿勢を正して対面に座した、彼女の貌に。そして瞳に。
大凡、情動を思わす色や光が存在していない為。
この店に仕入れられる迄の、奴隷市場に連れ込まれた際に。或いは王都にて囚われたその時に。
極僅かな内に、彼女がどれだけの物を奪われたか。壊されたか。想像に難くない。
――誰しも。破れれば、こうなるのだ。明日は我が身の少女の姿に、そっと息を吐いてから。改めて向き直そうか。)

 ――――お久しぶりです。――家の、お嬢様。

ナイン > (きっと。反応は無い。有っても薄い。
彼女に、己の言葉が届くのかなど判らない。それでも。)

 貴女を買い取りに来た。…とはいえ、私の奴隷にするつもりはないけれど。
 ――例え堕ちても。堕とされても。貴女の血は変わらない。
 貴女を手に入れたいと。…願わくばその血が欲しいと。私は、そういう者達との仲介に来た。
 とある辺境伯が、貴女を手に入れたいからと。私に、買い付けを頼んで来てな?

 貴女が、もう一度我を取り戻すなら。失せた誇りを望むなら。
 …初めは奴隷だ。女として――それ以下の牝として、扱われる事も有るだろう。
 けれど、掴んでみせろ。彼の者の心を得て、妻でも妾でも良い、その血を繋げ。
 名を変えようと、貴女の血を、絶やさせない為に…もう一度、此の国に根付かす為に。

(それは。取引、と言って良いだろう。
この侭ならば、奴隷として。使い潰され、掠れ消えるだけであろう、彼女の血統を。
此の世に残し、此の国から忘れさせない為に。
…奴隷に迄堕ちてからの、それを。政略結婚と、呼んでも良いのかは怪しいが。

――結局彼女からの返答は無い。失われたその表情を、取り戻すには到らない。
だが、彼女が商品であり、己が買い付けに来た以上。契約は速やかに履行される。
令嬢へのエスコートめいた、丁重な所作にて。店の者達によって、彼女は奥へ。
今以上にめかし込まれ。壊れた内面と裏腹、外見だけは姫君を思わせて…彼の地の伯へと。速やかに送り出されるだろう。)