2019/02/16 のログ
ご案内:「奴隷市場都市バフート」にリフェィエラさんが現れました。
リフェィエラ >   
バフートの中でも薄暗い活気の少ない場所、質流れ品を扱う区画の一画では
今日も当たり前のように誰かの所持品だったものが取引されている。
立ち並ぶ店は皆、陰気な雰囲気が漂っていて
無造作に並べられた檻の群れの側には呼子などの姿もあまりない。
家畜を扱う地区に似合う据えた匂いと低い騒めきに満ちている。
そんな数ある店舗の片隅、少しさびれた奴隷商の店舗の端におかれた檻の中にソレは眠っていた。
薄汚れた自身の翼に身を包み、微動だにしない姿は外からは顔すら見えず
貧相な店舗の片隅の薄汚れた羽毛の塊にしか見えないそれに興味を向ける者はいない。

『あっ♡…いぁ……ぅぅぅ、っ……あぁぁ、ぁぁ――♡……っ!』

耳につく声甲高い声にそれはうっすらと目を開いた。
薄汚れた羽毛のような塊が割れ、その中から上半身を起こす。
鎮静剤の影響で靄がかかった瞳のままゆっくりと頭を動かし
ぼうと天井を見上げた後、この音の出所を探す。

『ひ、ぉ”、ぁぎぃ♡』

見世物台の上の檻の中に端正なミレー族の女が吊るされ
獣のような声を上げながら黒い布袋を被った男二人に犯されていた。
秘裂だけでなく、後穴にも銜えこんでいる卑猥な姿が見えるよう
吊るされ、晒されているそのミレー族の女は正気を失っているかのような笑みを浮かべている。
それを見つめる観客は皆一様にフードを被ったりして顔を隠しているので表情は見えない。
……これは日常。いつも通りのデモンストレーション。
買い手の欲を煽る演出はこの場所ではさして珍しい光景ではない。

リフェィエラ >   
その檻の横に立った売り子が景気よく読み上げる声が耳に届く。
あのミレー族は元王族の家に仕えていた小間使いだったとか。
家名の失墜に伴い、担保として差し出され、結局元の場所に戻る事は無かったらしい。
……それの何処までが本当かは分からない。
確かにアレは利発そうな顔つきをしているように見える。壊れたような表情を浮かべていなければ。
申し訳程度に身に着けた服の残骸も白と黒を基調とした給仕服を彷彿とさせる。
とはいえ見た目がそれっぽければ元王族だとかどこぞの国の御姫様だったとか
そんな”オプション”がいつの間にか付けられるのは珍しくない。
売る側もああ見えて必死。購買欲を煽る為なら詐称も辞さない。
それはもはや当たり前のこととして受け止められ、それ専用の目利きなんて存在も幅を利かせる始末。

「……」

それはじっと周囲を伺った後、興味を失ったのか
緩慢な動きで身を横たえると自身を守る様に再び翼で包み込む。
与えられた鎮静剤の影響で普段から一日の大半を眠っている。
体調を崩している奴隷などによくある傾向であるそれが何日も続いた後
奴隷商は舌打ちと共に粗悪品を掴まされたと呟き
最低限の水と食料を与えて店舗の端へと放置していた。
奴隷にも一応保険がある。
最低限の条件をクリアして奴隷が死亡すれば保証金が発生するこの仕組みにのっとり
死ぬまで放置しておこうという考え。
どうせこの有様では長くはもたないだろう。
それを元に今度はもっと良い”商品”を購入しよう。
店長は自棄酒を煽りながらそう呟いたという。

「……」

そんな思惑をよそにそれは唯々眠り続け、いつしか店子にも忘れられつつある。

ご案内:「奴隷市場都市バフート」にセイン=ディバンさんが現れました。
リフェィエラ >   
自身が此処にどうやって、どういった経緯で辿り着いたのかは覚えていない。
覚えている限りでは目が覚めた時から檻の中だった。
此処が奴隷市である事、自分はその商品である事
現状について知りえたのはその程度。
聞いた話では記憶にある前の自分もずっと眠っていたらしい。
毎日鎮静剤を射ちに来る女がそう言っていた。

「(頭が重いです)」

鈍い頭痛と倦怠感が意識をゆっくりと眠りの淵へと鎮めていく。
この鎮静剤は亜人向けのものだ。
暴れれば檻を壊しかねないような力を振るう亜人用のお薬は
少々効き過ぎていて思考すらも奪っていく。
体格比では適量らしいので誰もまさかそれが過剰に効き過ぎているとは
夢にも思っていないらしい。

セイン=ディバン > 「……」

その男がそれに気付いたのは。
ハッキリと言えば偶然だったとしか言いようが無い。
今日買おうと思っていた物を見繕い、懐から金を取り出そうとして。
そこで、視線がやや下方に向いたから。
その時本当にたまたま、なんだか不思議な物が入ってる檻が見えたのだ。

「……?」

なんだあれは、と首をかしげながら、手にしていた商品の代金を払う男。
その購入した荷物を転送呪文で家に送ると、男は檻に近づき。
よいしょ、なんて言いながら屈んで中をじっくり覗いてみる。
……遠目に見ても近づいて見ても。
それはでっかい羽毛の塊にしか見えず。
男は店舗の中を覗き、店主に声をかけた。

「お~い。店主。
 これ何? 羽毛の卸売りでも始めたの?」

男はそう不躾に尋ねながら、檻の中を見ている。
……微かにだが。動いている様に見え。
コレも商品なのか? と首を傾げながら、興味津々。

リフェィエラ >   
『おや、旦那、それに興味がおありで?』

かけられた声に会計処理を行っていた店主がいち早く反応した。
彼からすれば上客が不良債権に興味を持ったのだ。
内心これは思わぬ商機がめぐって来たぞとという期待を隠しきれていない辺り
本当に期待していなかったのだろう。

『珍しい白翼種を仕入れたんです。
 ほら、見てくださいこの立派な翼。
 繊細かつ豊かな羽でこの大きさ!
 他じゃみられないレア種ですよ』

商人は営業用の笑顔を浮かべ
ゆっくりと檻に近づくと檻を二、三度叩く。
起こそうとの試みをよそにそれはすやすやと眠り続けており
試みが失敗した商人は僅かに苦笑を浮かべる。

『今はこの通り眠っておりますがね。
 たまに見る猛禽種の連中と違ってこいつは大人しいですよ
 暴れた事は今まで一度もありませんからね。保証します。
 ……おぃ、奥に鉤棒あったろ、もってこい』

そんなセールストークと共に店子の女に目配せし、
長い棒を持ってくるように指示して。
どうやらつついて起こすつもりらしい。

セイン=ディバン > 「そらぁ店先にこんな奇妙な物体あれば。
 興味も引かれるわなぁ」

くすくす、と苦笑しつつ店主に言う男。
相手の表情を覗いつつ、男は内心思う。
なるほど。売れなくて困ってる商品で粗雑に扱ってたか、と。

「……ほぅ。こいつぁ……。
 ハルピュイアでも、セイレンでもなさそうだな。
 ……それでこの白い翼か。こりゃあレアなんてもんじゃないな」

男は店主の言葉を聞き流しつつ、相手の姿を見る。
男の冒険者としての経験をもってしても、『これだ』と確信できる種族が思い当たらない。
もちろん、個体差もあるだろうから。その辺を看破するのはどうしても難しくなるのだが。

「ふむ……まぁ、亜人種・有翼種は昼寝大好きなタイプも多いしなぁ……。
 ……おいおい、オレが買うかもしれないんだから、手荒にはしないでくれよ?」

う~ん、と男は腕組みしつつ購入しようかどうか、迷っているような仕草。
しかし実際の所は、この謎のウィンディアに興味深々である。
詳しい種族や、生態。それに、どんな気性なのか。
知的好奇心が押さえきれず、思わずニヤケてしまっている。

「あぁ、一応最初に聞いておきたいんだが。
 この子。幾らなんだ?」

そこははっきり聞いておかなくてはな、と。
男は店主に向かってそう尋ねる。

リフェィエラ >   
『そうなんですよ。これはそこらのと違って貴重な一点物です。
 嗚呼、でも声に関しちゃセイレーンも琴を差し出す程綺麗な声をしておりやす。
 一点特化の中身はへっぽこなんて商品も人気はありやすが
 どうもスマートじゃねぇ。その点こいつは折り紙付きです。
 ほら、可愛らしい見た目をしているでしょう?』

折角やってきた商機を逃すわけにはいかないと
渋って見せる男にセールストークを続ける商人は
鉤棒で商品の顔が見える様に翼をかき分けついでに軽く突っついた。
相変わらず我関せずといった様子で眠り続けているそれに軽く舌打ちする。

『勿論です。冗談言っちゃいけねぇですよ旦那。
 うちの商品の扱いはご存知でしょう?
 乱暴にしないのは勿論きちんと食事も与えてますし体調だって管理してます。
 商品に疵をつけるなんざ新米だって馬鹿らしくてやらかしゃしませんよ。
 ……まぁその辺がそりが合わない連中がいる事は確かですがね』

店主はちらりと広場に目を向ける。
公開陵辱は続いており、先ほどのミレー族の代わりに
秘部や胸が露になった壊れた鎧を身に着けた女が舞台の上へとひっぱりあげられている。

『ははぁ、次は姫騎士様ですか。
 いや、大手は羽振りが良くて羨ましい事ですなぁ』

苦笑交じりで嘯いた後、笑顔のまま商人の顔に戻る。
ここからは商売の話。

『そうですねぇ……
 これほどの希少種ですから軽く200万は下らない……と言いたいところなんですが
 旦那には世話になってますからね。
 完全に権利を譲渡して120万でどうでしょう?
 旦那の事だ。限界まで値切ってくると思いますからね。
 先にギリギリの値段をお伝えしておきやしょう』

セイン=ディバン > 「へぇ。それは良い。
 声が良いってのは、それだけで武器だし利点だ。
 オレみたいに、細巻と酒で焼けた声じゃあ運よりも厄がまとわり付くからな」

う~ん、なんて悩むそぶりを見せつつも、店主の言葉をしっかりと聞く男。
微妙に曖昧なセールストーク。なるほど、冒険のパートナーとしては使えそうにないかな、などと内心計算。
しかしてちらと見えた顔は確かに。可愛らしい見た目であった。
男受けする、というよりは。多くの人に愛でられるような朗らかさを感じさせるそれだ。

「ならいいがな? ……そうなー。
 最近、この辺りでの商品の扱い、酷くないか?
 オレも家にいる奴隷共の為に服や小物なんかを買いに来るけどさ……」

店主の言葉を聞き、男が広場に視線を向ける。
即座に表情は怒りのそれに変わり、聞こえよがしな舌打ちを響かせ。

「……ただの精液便所が欲しいなら自分で獲得してこいってんだよな。
 自分は金だけ払って玩具を手に入れて満足満足、なんざ反吐が出る」

明らかな敵意を隠さぬままそういった男だが。
すぐに表情を柔らかな物にし、店主から値段を聞く。
うんうん、と頷いていた男は店主の言葉が終ったと同時に。

「買った。ついでに適当に衣服や薬、食料もくれ」

表情を真剣な物に変えそう言い指を鳴らせば。
空中から大量の金貨袋が落下してきて、店主の隣に山を築く。
120万どころか、250万は入っているであろう程の大量の金貨袋だ。
即断即決即金でのお買い上げの意思表示であった。

リフェィエラ >   
『全くですな。
 いやまぁ我々はあまり大きな声では言えないのですが
 全く嘆かわしい事です』

反吐が出ると舌打ちする男に追従するようにうんうんと頷く商人。
自身は善悪より売れるか売れないかが先に来る商人であり
その手段に関しては効果的であるか否かの違いしかないと思ってはいるが、
個人的にああいう連中が好きになれないのもまた確かだ。
……最も連中は大手なので耳に入らない程度にしたいところと
商人は内心で呟きつつ手早く書類をまとめていく。

『かしこまりました旦那。
 いやいや、良い商売が出来て嬉しく思います。
 今度一杯如何ですかな』

いくら希少な有翼種とはいえ
保険で降りるのはせいぜい80程度。
売値は最初200オーバーで付けていたが100を超えれば御の字である。
それでも一般的な奴隷に比べれば高い買い物であることは確か。
商人は内心小躍りしながら買い手の気が変わらないうちに
手早く手続きを進めるよう店子に指示をする。

『……お、やっと起きたか。
 お前をお買い上げになられた慈悲深い旦那様にご挨拶しろ。
 すみませんね、どうも眠るとなかなか目が覚めないようで……
 それ以外は気性良し器量よしの上物なんですがねぇ』

何度かつつかれてやっと目が覚めたのか
もぞりと翼が動くとソレはゆっくりと身を起こした。
ぼうっとした表情のままその瞳が開かれ蒼色の瞳が檻の前の男たちを映す。
曇っている頭でゆっくりと言葉を飲み込むと恐らく主人になるであろう男へと向き直った。

「ぅ……」

薬の影響に加えて長らく声を出していなかったからだろう。
言葉を思い出す様に暫く口をパクパクとさせると
ゆっくりと両手の指先を揃え頭を下げる東洋式のお辞儀をする。

「リフェィエラ……と申します。
 下賤なる、身ながら……今後御身の、御側にて、お仕えさせ、て、いただきます。
 どうぞよろしく、お願いいたします」

僅かに掠れながらも深みのある甘い声がその喉から零れた。
まさかここまで喋るとも思っていなかったのだろう。
言わせた商人すらその言葉を聞いて驚いていた。

セイン=ディバン > 「アンタんところの商品管理に関しちゃ信頼してるしな。
 冗談。ビジネス相手とはいえ、男と飲む趣味は無いんだよ。
 その売り上げで従業員ちゃんと一緒に酒でも飲んでしっぽりしてろ」

当然、相手がある程度価格に関して考えて値段設定をしていたのも男は知っている。
だがそれだからこそ、上乗せして金を払うというのは男にとって重要なことだった。
金払いがいい、というのは評判に繋がる。
更に言えば、贔屓にすれば商店の店主というのは多少なりともサービスをしてくれる側面もあるのだ。

「ははは、可愛いじゃないか。寝る子は育つ、なんて東じゃ言うらしいからな」

ゆったりと起きる相手を見ながら、笑顔を浮かべる男。
改めて見ても、やはり可愛らしい。
男として、性的な目で見てしまいつつも、愛でたい、という思いも湧きあがる。
不思議な魅力の有る子であった。

「へぇ。東式の礼か。なかなか堂に入ってるなぁ。
 ……オレはセイン。セイン=ディバン。冒険者だ。
 まずはゆっくりと話がしたいな。リフェのことも知りたいし。
 ……店主。荷物や食料なんかは、家に送っておいてくれ。
 このまま、この子だけは貰っていくぜ」

うん、とにこやかな笑顔で相手に言いつつ、店主にカギよこせ、と手を差し出す男。
ついでに、この辺でメシが美味くてそういった目的の部屋を備え付けてる酒場なんてあったか? と尋ねつつ。
男は相手には笑顔を向け続けよう。

リフェィエラ >   
『ご信頼いただけているというのは嬉しい限りですな。
 商人は信用が無ければ成り立ちませんからなぁ。
 ……はは、それは残念ですな
 でしたら店子にでも振舞ってやりましょう
 あいつらはそりゃぁ喜ぶでしょう』

良い買い物をしてくれたし次は色を付けようと
ある意味掌で転がされるようなことを考えながら商人が笑う。
遅れてサイン用の書類と鍵を持ってきた店子の手からそれを預かり自ら顧客に渡した。
こういう細かい物を直接わたす事が商人には大事な事なのだ。

『場所はいつもの場所ですね。おぃお前、馬車呼んで来い。襲撃対策もしっかりな。
 ふむ、そうですなぁ……
 宿なら……ああ、うちの経営する部屋なんかどうですか?
 温泉付き個室なんてそう持っている宿はありませんからねぇ。
 料理の味も冒険者お墨付きでさぁ。
 お礼代わりに値段も勉強させていただきやす』

ついでに自分の宿をプッシュ。
この町では珍しく冒険者を客の主体にした宿は
一般の町民が利用するには少々高い宿だが
値段に見合うだけのサービスがあると自負している。
むしろ商人の本業は此方が主だ。

セイン=ディバン > 「そりゃあコッチもだ。冒険者が信頼失ったらお終いだからな。
 逆に聞きたいんだけど、中年冒険者と酒飲みたいかよ……?
 あぁ、そうしてやんな。特別手当、みたいな感じでさ」

相手には苦笑を向けつつ、男は手の平をひらひらと振る。
この店主はこのバフートで商売するにはちょっと人が良すぎる気がするな、と思いつつ。
男は書類を預かり、さらさらとサインをし、書類と引き換えにカギを預かった。

「……いいね。今日はその宿で一泊しようかな。
 ……よしっ、と。オッケー、リフェちゃん。
 ついてきな。まずはのんびりお話でもしようぜ」

店主から聞いた店について記憶を洗う。
なるほど、確かに。あの宿なら間違いないな、と男は考え。
檻の鍵を手早く開けると、中の少女に向かって手を差し出す。
もしも相手がそれを不要とするなら、男はただ先導するように歩くし。
相手が何の疑いも無く手に触れるのなら、優しくその手を引き、宿へ向かうだろう。

リフェィエラ >   
『これでも元冒険者の端くれですからなぁ私も。
 中堅若手熟練者と酒のつまみには事欠きませんて。
 年甲斐もなく血が躍ると言いますか……
 その分目利きには苦労しちょりますが。
 はは、いやいやつまらん話を聞かせましたなぁ
 鍵は此方です。一等良い部屋ですぜ。
 サービスが必要なら呼び鈴を使ってくだせぇ』

商談がまとまった上機嫌さそのままに宿屋の鍵を渡す。
弱った商品を渡す事には少々懸念があるが
報告で聞いていたように今にも死にそうと言う風には見えない。
思っていた以上に元気そうだし問題はないだろうと一瞥する。

「冒険者……」

視線の先のそれは告げられた言葉をぼんやりと反復しながらゆっくりと立ち上がる。
これから主人になる人の事は確りと覚えなければいけないと鈍った頭で考えつつ
頭に走る鈍痛を抑え込み、カシャンと鍵が落ちる音を聞く。
長らく拘束され続けていたためあまり力が入らない体を起こし
覚束ない足取りながら久し振りに檻の外へと足を出す。
差し出された腕に一瞬戸惑うとゆっくりとその手を握りしめた。

「……はぃ」

そう一言言うとしずしずと男に付き従うように手を引かれて歩き出す。
言葉は少ないがもう少し薬が抜ければ言葉も出てくるだろう。
今は新しいご主人様についていく事に必死。

『またのお越しをー!』

その後ろ姿を見送ってお辞儀をしながら
あれはもしかして元々ああいうタイプなのではないかと商人の胸を疑惑が走る。
いやいや、手元に来た時はもっと元気だったと聞いている。
杞憂に過ぎないだろうと思いつつも複雑な感情が商人の胸の中で燻ぶっていた。
残念ながらその瞬間にも
まさか鎮静剤が効き過ぎていたなど気が付くことは無く。

『……もしかして安く売りすぎたかねぇ。
 おい、何やってるんだ。まだ店は閉まってないぞ。
 給料分は働け。飲み会はそのあとだ』

後姿を見送りながら小さく呟くも
売れた商品についてあれこれ言ってもしょうがない。
即座に切り替えると店子に発破をかけつつ店の奥へと商人は戻っていく。

セイン=ディバン > 「ん。だっけか? 引退して一国一城の主、ってことか。
 ……そうだなぁ。そういうことなら、まぁ、今度飲むとしよう。
 あぁ、何から何までスマンね」

相手の経歴に驚いたような表情になりつつ、男はカギを受け取り。
宿でのめくるめく……かどうかはまだ分からないが。
この少女との会話を楽しみにしていたが。

「……ん」

檻の鍵を開け、自由にしてあげた相手が触れた手。
その感触に、男は微かに眉を吊り上げる。
力の入っていない手、足取り、言葉。
なるほどそういうことか、と気付き。
男は、ゆっくりゆっくりと歩き出す。
宿までの道のりを、少女を庇うようにしながら。
あまり相手に負担をかけないようにして無事宿へとたどり着いたのなら。
受付に事情を説明し、すぐに部屋へと移動。
料理はすぐに部屋に持ってきてくれ、と言いつつ。
店主から預かった鍵で部屋へと入れば。

「よし、リフェ。楽にしてくれ。
 あと、これ飲んで。浄化儀式済みの水だ。
 すぐにメシが届くから、がんがん食ってくれ」

相手に楽にするように言いつつ、水を差し出す男。
その表情は笑顔ではなくなっていたが、優しい雰囲気をかもし出している。
この男にしては珍しい表情ともいえる。

「多分、薬が効きすぎてんだな?
 とにかく液体飲んで、メシ食って。ガンガン汗かいて薬を排出するのが一番だ」

そうすれば、この子の本来の振る舞いが見れるな、と。
男はそう考えつつ、冒険者装備一式を外し、床へと置く。

リフェィエラ >   
此方を慮るような視線に自分が薬害にやられている事に
やっと気が付いてもらえたことに気が付き小さく安堵の息を零した。
そのまま庇うように宿へと連れていかれる。
こんなに人らしく扱われた事を思い出せず、
申し訳ないという思いが先に立つ。

「すみませ、ん」

部屋につくなり口をついて出たのは謝罪の言葉。
鎮静用の薬に限らず、昔からやたら薬に弱い傾向がある。
ヒト用のものですらそうなのだから亜人用ともなれば効果はてきめんだ。
頑丈なものが多い亜人を取り扱う界隈での事、
鎮静剤を飲ませない方がどうかしていると言われるくらいなのだから
あの店がそうしたこと自体は自然な行動なのだけれど
中々それに気がついてもらえないのは厳しいものがあった。
あの倦怠感の中、起きている事は酷く大変だ。

「……いただき、ます」

床や寝具を汚さないよう立ったまま水を受け取る。
水差しのまま飲んでしまいたい衝動に駆られるが
教育を施されているものとしてそれはよろしくない。
何よりも下品なふるまいをすれば主人に嫌われてしまうかもしれない。
僅かに震える手で、ゆっくりと杯に口をつける。

「んく……ん……」

薬の入っていない水なんて記憶の限りでは飲んだ覚えがない。
何時もの生温いそれとは違う、苦みの無い冷たい水が
喉を通り過ぎていく感触が酷く気持ちよい。
こんなにも水とは美味しかったのかと思う。
冷たい感触に靄がかった思考が僅かに晴れる。

「……っ」

やはり急いてしまっていたのか
口の端から僅かに零れる水を指先で拭う。
同時にほろりと目元から一滴雫が頬を伝った。

セイン=ディバン > 中堅所とはいえ、これでも現役冒険者。
薬毒中毒などについては熟知しているし。
それに対しての知識もしっかりと蓄えてはいる。

「……あん? 何がだ?
 謝るようなことないだろ?」

いきなり謝られたので、相手に振り返りながら首をかしげる男。
たかだか宿と水と食料程度で感謝されてもなぁ、と。
男はどこか的を外したことを考えている。
この男にとっては、奴隷に施しをしたりするのは普通のことだし。
体調管理も、雇用主として当然と思っているのだ。

「あぁ、どうぞ。慌てずにな?」

相手が水を受け取ったのを確認し、男は宿の室内設備を確認する。
温泉宿ということもあり、寝具は東の国の「フトン」。
映像を映す水晶放送と、いわゆる「ウチユ」と言われる浴室にトイレ。
なるほど、いい宿だ、と思いつつ。男は浴室に入り、服を着替える。
少女が水を飲んでいる中、着流しに着替えた男はほぅ、と息を吐きリラックスモードだが。

「あらら、慌てんなって言ったろ~?
 ……ん。泣いてんのか?」

相手が微かに水を零したのを笑いつつ見ていたが。
相手が涙を流したのを見れば、近くに座り込み、相手のことを抱きしめ。
その頬を流れる涙を、ちろり、と舌で舐め取る。

「安心しな。何もキミにヒデェことはする気はねぇからさ。
 ……まぁ、奴隷として買ったから、セックスくらいは付き合ってもらうかもだけど。
 基本的には、オレの家で自由に過ごしてもらっていい。
 メイド仕事を手伝うなら、給料も出す。
 食事は毎日タダで食わせるし、メイド仕事しないで自由気ままに暮らしててもいい。
 少なくとも、殴ったりとか、無駄に傷つけたりはしないつもりだからさ」

そのまま、相手の背中を軽く叩き、落ち着かせようと。
抱きしめた相手の体は……凄く柔らかくて、何より翼のふわふわ具合は最高だった。
自然と、着流しの中で息子が溌剌になるが、微かに腰を引いて、相手の体に当たらないようにする男。

リフェィエラ >   
「私、は奴隷ですか…ら」

未だ呂律が回っていない為少し途切れ途切れに言葉を吐き出す。
自分達はあの晒し者にされていた女たちと同様に
使い潰されても当然なのだから
こんな風に丁寧に扱われる事に慣れていない。
むしろ気を使わせてしまっているのではないかと酷く不安になる。

「御召し、物、が……」

汚れてしまうと少し慌てる。
着替えたばかりの服を汚してしまうのは忍びない。
東洋式の部屋を利用する客は綺麗好きが多い。
それを表す様に部屋の中は徹底的に掃除されており
ウチユのお湯なども澄み切っている。
対して自分は薄汚れた一奴隷。
いくら奴隷の扱いが良い店とは言え
保安上の理由から水浴びはなかなかできない。
いくら代謝を抑えられるとは言え、今の自分は綺麗とは言い難い。

「……仰せ、のまま…に」

くたりと力を抜き躰を任せる。元より自分は所持品。
伽の相手を時折するだけで良いというのは破格の条件と言える。
勿論それに居座るつもりはないけれどそんな提案を奴隷相手にするなんて……
まだ気が早いかもしれないけれど、幸運だったと自分でも思う。

セイン=ディバン > 「そうかもしれないが、奴隷だから、ってのが。
 直結で自分を卑下することに繋がるのは問題だな」

まずはその考え方を改めないとなぁ、と内心唸る男。
分かるのだが、それじゃあ生き苦しいだろうに、と思う。
だがまぁ、これに関しては時間をかけて互いの考えを理解していくしかないのかもしれないな、と思い。

「ん……あぁ、気にしなくていい。
 そもそもそれを言えば、冒険者なんて仕事をしてるんだ。
 汚れたり怪我したり、なんてのは日常茶飯でね」

くすくすと笑いつつ、相手の涙を舐め終え。頭を撫で撫でと撫でてやる男。
そこで考える。なるほど、風呂にも入ってもらわなくては、と。
何せ女の子。体をキレイにしたいっていうのは当然あるだろうなぁ、と。

「……あ~、あとその堅苦しい喋り方はやめてもらっていいか?
 適度に、でいいよ。適度に。
 そこまでガッチガチだと、コッチが居心地悪ぃわ」

相手が体から力を抜いたのを感じ取れば、男はひょい、と相手を持ち上げるのだが。
その軽さたるや、幼子の体重、いやさそれ以上に軽かった。
そのまま相手をお姫様抱っこの形で運搬し、浴室脇の脱衣所へと。

「……汗かくなら、風呂が一番だからな。
 体、きれいにしてやるから。さっぱりするといい。
 ほれ。服脱ぎ脱ぎしましょうね~」

相手にそう言いながら、男も服を脱いでいく。
まだ薬が抜け切っていない以上、一人で入浴は危険すぎる。
……男は気付いていないが。もしかしたら、ここまで抱きかかえて運んできたときに、勃起した男のバケモノサイズのペニスが、相手に触れてしまっていたかもしれない。
いや、どちらにせよ。男が脱衣すれば、恐ろしいサイズのペニスが露になるのだが。

リフェィエラ >   
「すみま……せん」

やはり口をついて出るのは謝罪の言葉。
自分らしくないけれど奴隷の日が長かったからか若干卑屈に性格が寄っている気がする。
そんな自分の頭を、汚れる事を厭わず撫でる温かさに
僅かにまた涙が浮かぶのを必死にこらえる。
ああ……この人は暖かい。

「ぁ……」

ひょいと抱えられ、浴槽の横に降ろされると服を解かれた。
申し訳程度に巻いていた布は簡単に解け、パサリと足元に広がった。
同様に着衣を脱ぎ露になる主人の備える物に自然と視線が向くが‥‥
ハッと正気を取り戻す様に幾つかの感情に支配されている頭を僅かに振ると
未だ薬に支配された体を無理やり動かし一糸まとわぬ姿のまま
”正座”と呼ばれる座り方で今の主人を正面に迎える。

「旦那…様、先に、お伝えするべきことが……あります
 これだけ、は伝えさせて…ください。
 ご指示、と、あれば口調も、改めさせて……いただきますので」

だからこそその優しさに甘えないようにしなければいけない。
宛がわれている凶悪なまでの強直は気が付かずにいられる大きさではない。
きっとこのまま身を任せればなし崩しに都合よい立場で居られるだろう。
それで有耶無耶にしてはいけないと思い声を振り絞る。

「私の記憶は…数日…しかもちません。
 きっと、ご迷惑、を、おかけする事に、…なります。
 不都合であれば、返却して……いただいくべき、かもしれません
 私の、都合で旦那様に…損をさせる訳にはまいりません」

あの店長がきいたら眉をしかめるだろう。
比較的良心的な対応だったと思うけれど
もしかしたら扱いも悪くなるかもしれない。

「けれど……けれど、もし、お側でお仕えする事を…――赦して頂けるのであれば
 もしも、務めさせて…いただけるので…あれば、リフェィエラは、幸せ者に…ございます」

こんな提案はしたくない。
もし愛想をつかされてしまえばそれまで。また薬漬けの日々に戻る事になるのだから。
――それでも優しくしてくれた人に辛い思いをさせたくない。
人によっては真面目過ぎると笑われるかもしれないけれど
これだけは主従の間柄としてはっきりとしておかなければならないと思う。
気負わせないように務めて冷静に作った声色の代わりに
翼がばさりと不安にわななくよう様に揺れた。

「……返事は、あとで、聞かせてください…ね」

そして始めてふわりと柔らかな笑みを浮かべ、僅かに砕けた口調で告げる。
はちきれんばかりに天を衝くそれを沈めて冷静になったあとに
答えを貰うのがフェアだと思うから今は答えを急かさないつもり。

セイン=ディバン > 「……はぁ」

繰り返される謝罪に、男がため息を吐く。
なるほど。こいつは手こずりそうだな、と思いつつ。
多少卑屈かもしれないが。逆に言えばそこさえ直せば。
魅力的な良い子じゃないか、と笑う男であった。

「……お? セイザ?」

相手を脱衣所に降ろしたとき、相手が裸身を晒すことになり。
同時に、男も脱衣したので全裸となるのだが。
瞬間、相手が正座という座り方をして自分の方を見たので。
男は、首を傾げ相手を見る。

「……あぁ、うん。
 言ってみ?」

なにやら真剣な話か? と男は相手に向き直り。
一度、手近にあった布を腰に巻き息子を隠す。
そのまま同じく正座をし、相手の言葉を待つ男。

「……ふ、ん? そりゃあ……。
 呪いか? あるいは、魔術的な反抗阻止の策?
 ……まぁいいさ。何にせよ、別段オレは気にしない」

相手から語られた言葉に、男は興味深そうに質問を重ねるが。
そこで一度咳払いをし、言葉を切る。
相手にとって、それがどれだけ辛いことなのか。
考え不足故の不躾な質問だったな、と。

「あぁ、別に構わんぞ? 仕事なんて筋肉が覚えるもんだしな。
 それに、リフェみたいに可愛い子を手放すなんざ。
 『悪喰』なんて呼ばれてる女好きの名が廃るさ」

あっさり、あるいはあっけらかん、という様子で。
手放すものか、と語る男。そこにウソはなく。
完全に、本意しか語っていなかった。
返事をあとで? そんな必要があるか。
そう言いつつ、男は相手の手を引き……。
まずは、相手の体をキレイにしてやろう、と。
相手を浴室の中へと導くのであった……。

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