2018/10/06 のログ
■ジーヴァ > 上下に首を振る少女にジーヴァは頷き、再びギルドメンバーと意見を交わす。
先程よりも短く終わったそれは、どこか明るい雰囲気に満ちている。
ジーヴァもニヤリと笑って、少女へもう一つの片手を差し出した。
「決まりだ。――我らはアルマゲスト、星々へ至る道を探す者なり。
汝、この手を取りて我らが同志となるや?」
急すぎるぞ、と後ろのメンバーから聞こえてきた野次に
興を削がれたのか、舌打ちすると再び少女に向き直る。
「つまりだ……あんたはだいぶ疲れてるし、腹も減ってる。
おまけにその首輪のおかげでまともに戦えない。それなら、俺たちのギルドに来ないか?って話だ。
……ああほら、水だ」
メンバーの一人が慌てて渡してきた水筒を差し出す。
中には魔術で作られた新鮮な真水が詰められ、ほどよく暖められている。
■ニア > 突然のお誘い───
それは彼女に躊躇いと戸惑いを与え、沈黙を作る。
やつれた体は弱々しくだが震えているようで、
眼前に差し出された手を恐る恐る見つめていた。
「……っ、私…は…………っ、盗賊……だ、よ?」
今じゃ世間を賑わせていた大盗賊も王国軍によって処刑されたというデマが流れてはいるが、
これでも自分は盗賊で、やらなければならないことだってまだ残っている。
それを投げ捨て、彼らとともになる。
というのは、少し図々しい判断かもしれないが……
「…………あり、が……と……」
今にも倒れそうな体を支えるので精一杯な彼女は、水を受け取り
それを一気に飲み干したのだ。
確かに、解放された今、行く宛てなんてなくて…
頼れる人の元にも帰れない。
それなら、少しの間だけでも……
そんな思いで、ゆっくりと、その細い手を伸ばした
■ジーヴァ > 絞り出すように、しかし少女ははっきりと答えた。
自らの意思を示し、感謝を言えたのだ。
次は、こちらが示す番だ。ジーヴァがそのか細い手を握りしめ、優しく導いて路地の奥へと向かう。
そこにあるのは壁に刻まれた転移の魔術が刻まれた魔術陣。通称転移紋と呼ばれるそれは
この地方のどこかに隠されたアルマゲストのアジトへつながる唯一の入り口であり、出口だ。
「それじゃあ後始末、頼んだぜ。あっちの作戦も上手くいったみてえだしな
……いきなり走るんじゃねえぞ、ゆっくりと歩けよ」
転移の魔術詠唱文に魔力を流し込み、魔術陣を起動する。
転移紋独特の低い唸り声のような音が響き、複数人がこちらへと慌ただしく走ってくる足音が聞こえた。
ジーヴァは少しでも力を入れれば折れてしまいそうな、少女の手を握りしめ、
しかし急かすことはなく、二人合わせて開かれた陣の向こうへと飛び込んでいく。
■ニア > 久し振りに感じる優しい手の感触。
それまで苦しみから解放された実感が沸かず、何かに怯えるような様子だった彼女も、この時ばかりは瞳から大粒の涙を零した。
声を上げることはなく、静かに…
そして、光が消えていた瞳には微かに灯が灯り、重く感じていた体は少しだけ軽く感じた。
目の前に広がる魔法陣。
背後から聞こえる追手の足音。
それでも不安は微塵も感じず、彼に言われた通りゆっくりとした足取りで、共に魔法陣へと進んでいく。
この先に何があるのかはわからなかったが、不思議と恐怖も感じず、安心感さえ感じる彼の手を、離すことはなく────
■ジーヴァ > 二人が転移した先でまず最初に見るのは、周囲に浮かぶランタンに照らされて浮かぶ、
翼を生やし、牙をむき出しにして笑う悪魔の姿をした石像だろう。
巨人族ほども大きいそれは、二人を見て訝しそうに見つめ、石造りの口を開いた。
『汝の星と名前は?』
「三つ星のジーヴァだ。こちらのお嬢さんは……新人。
そういや名前、聞いてなかったな?」
構わない、と石像は手を振って、二人を奥へと送り出す。
そこに広がるのは宙に浮かぶ無数のランタンに照らされた巨大洞窟と、それを埋め尽くすようにある巨大な書庫。
そして右からはなんとも形容しがたい、腐った玉子と焼き上げた砂糖菓子を混ぜたような奇妙な匂いが漂ってくる。
「とりあえずは……メシ食わねえとな。
服も必要だろうし、倉庫に行くか」
ローブを被せているとはいえ布切れのまま。
このままでは外に出しづらいだろうと、手を引いて左へ向かう。
そこにあるのはメンバーが集めた保存食や変装用の服、果ては怪しげな武器まで揃ったごちゃ混ぜの倉庫だ。
着替えもあるだろうし、とジーヴァは彼女を倉庫の中に入れて、自分は外で待つ。
「ローブは返してくれよ!結構気に入ってんだからな」
結構似合っていたけどよ、と付け加えて。彼はしばし、物思いに耽ることにした。
■ニア > 転移した先でまず目に入ったのは恐怖を象ったような悍ましい気配を感じる巨大な石像。
何処からともなく聞こえる声に少々驚いたが大した反応はせず、大人しく彼の後ろを付いていく。
「…………私、は…ニア……」
恐らくここで初めて明かされた彼の名。
それに倣うように彼女も深く呼吸を繰り返しながら自分の名を告げた。
手を振り、歓迎するかのような行動を取る石像の横を通り過ぎ
宙に浮かぶランタンに目を奪われながら奥へと進む。
見たこともない幻想的な光景に瞬きを繰り返し、中から漂う奇妙な香りに表情は歪む。
「……あり、がと……」
相変わらず弱々しい声で礼を告げ、引かれるまま倉庫と呼ばれる空間へ姿を消す。
勝手に物色するのは気が引けたが、何分物が多いため
自身に合った下着やら衣服やらを選ぶには少し時間がかかった。
彼女はなるべく地味なものをと思ったのだが、どれも装飾やら肌の露出が多いものやらで溢れ返っており、
とりあえずということで、薄紫色のフリルドレスを選んだ。
下着も比較的地味で無地なものをちゃんと着用している。
一人着替えながら、大分落ち着く時間は与えてもらえたらしい。
喋れるくらいには落ち着きを取り戻し、借りていたローブを手に、倉庫から顔を覗かせた。
「……これ、ありがとう…」
フラフラとした足取りでジーヴァの元へと歩き、ローブを手渡した。
■ジーヴァ > ひょこっと顔を出したニアからローブを受け取り、
フリルのついたドレス姿にジーヴァは思わず口笛を鳴らす。
身体こそやせ細っているものの、可憐と呼ぶに相応しい出で立ちだ。
「服のセンスはいいな、そんなもん用意する奴がここにいるとは思わなかった。
着たら露出狂になるローブとか平気で置いていくからな、引っかからなかったのは凄いぜ」
辛いものしか食べられなくなるフォークを拾ってしまったときの話を持ち出し、
周りをうろつくガーゴイルに命じて食事を持ってこさせ、薄く切ったチーズとハムを挟んだ白パンを渡す。
一見すると普通のパンで、匂いもパンだ。だがジーヴァは自分の分を嗅ぎ、少しだけ食べ、安全を確認してから一気に貪った。
「……悪いがこれしか出せねえんだ、料理担当のガーゴイルがこれを気に入ったらしくてな。
それと、ここにあるメシの中には幻術で正体を隠してるやつもいる。気を付けな」
ニアにそう言いながらもあっという間に二つ目にかぶりつき、かなり腹を空かしていたことが分かる。
ガーゴイルたちもそれを分かっているのか、ニアには小さめに丁寧に切ったものを、ジーヴァには大きく雑に切ったものを渡していく。
■ニア > 「…どうしてそんなものばっか集めてるの?
……そもそも、貴方たちは一体なんなの……?」
服のセンスは、どうだろうか。
たまたまそこにあって着やすそうなもの、目立たないものを選んだらこうなっただけで、年柄年中タンクトップとハーフパンツで過ごしている彼女にファッションセンスなんてない気もするが…
「……美味しい」
手渡された白パン。
チーズとハムが挟まっているだけだというのに、こんなにも美味に感じるのは
1カ月間、残飯しか与えてもらえなかったからだろうか。
小さめに切り分けられたサンドをあっという間に頬張り、食した彼女は大きく安堵の息を吐いた。
■ジーヴァ > 自分たちについての質問に、ジーヴァは頭に手をやり、しばし考える。
そうして食いかけの白パンを前に熟考を重ね、やがて思いついたようにニアの方を向く。
「俺たちはアルマゲスト。魔術は知識であり、ならば全ての知識は全ての魔術である――
初代ギルドマスターのその言葉に従ってあらゆる知識をこの大書庫に納める、魔術師ギルドさ。
といってもやることは魔術絡みのあらゆるものの強盗か交渉による入手、あるいは知識の実践だ。
お前がやってたこととあまり変わらないよ」
そして銀色に煌く錫杖で入り口を示し、次に実験場を示す。
これから分かることは、道の分岐。人生の分かれ道だ。
「さて、落ち着いたところで……ホントに俺たちについてくるかい?
確かにその首輪が付いたままじゃ魔力が封じられたまんまだし危ないけどよ……あの転移紋くぐれば王都にすぐ帰れるぜ?」
彼女がどちらを選ぶかはさておき――ジーヴァはこの夜を忘れることはないだろう。
魔力を封じられた奴隷にも関わらず、素養のある者なら一目で分かるほど膨大な魔力を秘めた彼女と出会ったこの夜を。
■ニア > 「……ギルド…
…盗賊まがいな魔術師たちのギルドってことね……」
彼の言葉を聞いて納得した。
彼が自信をあの場から救い出したのは自分が龍人としての魔力を秘めているから。
それでも自分を助けてくれたことに変わりはなく……
指差された実験場へ目をやり、ジーヴァの言葉に耳を貸した。
「……遠慮する。
…私は、私の力で生きていく……
少しの間だけど世話になったわね……
また、どこかで会ったら、よろしく……」
可憐な微笑みを彼へ向ける。
もしこの人にもう1度で会えたら、しっかりとお礼をしなければ…
そして、今日助けてくれたこの人のことを忘れてはならないのだと────
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からニアさんが去りました。
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からジーヴァさんが去りました。