2017/11/08 のログ
■ホウセン > 暑さの盛りでは、いっそ鬱陶しいまでに蛾なり羽虫なりを誘引していたランプに、今は纏わり付く何物も存在しない。
売り込み真っ最中の元女戦士の他に、店主が意図して言及していなかったり、或いは奴隷の価値が分からないせいで埋もれた”掘り出し物”がないか、店の奥に視線を向ける。
昼間と同じような明るさをといった努力はしていないようで、奥に行けば行く程に闇は濃くなる。
それでも何者かが動く気配だけは伝わり、衣擦れの音であったり、逃亡防止用と思しき手錠や首輪に連なる鎖の音が可聴域すれすれの大きさで鼓膜を震わせる。
「生憎と一から仕込むだけの暇が惜しゅて惜しゅて。
なればこそ、既に完成しておる奴隷を買いたいというのが人情じゃろう?
無論、儂の色に染める程度の”手直し”ぐらいは吝かではありゃせんがな。
翻せば、儂の眼鏡に叶う仕上がり具合ならば、値段に多少色を付けても善い…と思っておるのじゃ。」
値切り交渉は凡そ平行線に近い。
妖仙も強欲なら、奴隷商人も強欲のようだ。
割増料金というカードをチラつかせ、店主側から絶好の提案が転がり出てこないものかとのカマかけ。
だが、双方にとって不幸なことに、この店には妖仙の好みに合いそうな奴隷の取り扱いはないらしい。
お手上げだとの店主のジェスチャーに応えるよう、薄っぺらい肩を竦めて見せる。
「是も巡り合わせの一つじゃ。
儂が市場を巡り終わる頃に、まだ売れずに残っておるようなら買うぞ。
…無論、お主が多少の割引をしてくれるのならば…じゃがのぅ?」
斯様な我侭を言い置き、その店の前を離れる。
果たして一周するのにどれだけの時間を要するか分からぬ所だが、焦る気配もなくふらりふらりと人の波に紛れて――
ご案内:「奴隷市場都市バフート」からホウセンさんが去りました。