2023/04/22 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にunkownさんが現れました。
■unkown > ――夜。
木々や葉の合間から月明りが射し込む鬱蒼とした森。
冒険者や狩人は此処に薬草や小動物を求めて彷徨う。
その森に夜風が枝葉を揺らす音や夜行性の動物達の鳴き声以外に木霊する音があった。
「コフー……コフー……コフー………。」
オークやその類にしては大きく低くい音色の呼吸音。
何より家畜臭や獣臭よりも土や草木の臭いに近い香り。
体内に燃え上がり昂ぶる何かを抑えようとしている、ようにも聞こえる呼吸を繰り返すのは1頭の魔獣である。
だが木々の枝葉の合間から射し込む月明りは決して弱くない筈なのに、魔獣の姿を見ることは難しいだろう。
何せ魔獣はその場で動かずにいる事により、体を包む長い体毛状の触手の能力を使い、周囲の風景と同化をしているのだ。
その魔獣、どこにいるかと言えば巨木に背中を預けて居眠りをしている――…呼吸音はそう聞こえるだけで、実際は魔獣の寝息であった。
それによく目を凝らせば大木の傍で小さなモヤが生まれ、ふわっとのぼっては、夜の空気に紛れて消えている、それはつまり呼吸する何かがいるという証明である。
魔獣は惰眠を貪る。
物音が気配があれば頭部を包み垂れる長い髪状の触手の合間からのぞかせている眼を大きく見開いて、惰眠を邪魔する者を探し始めるだろう。
■unkown > 魔獣は基本的に眠りを必要としない。
何せ自己進化、自己増殖をコンセプトに力が尽きるまで闘争を繰り返し、力尽きたところで魔獣を製造した者達が制圧……を想定して作られたので眠るという行為自体が情報として刻まれていない。
その筈なのに魔獣は大樹に背中を預け、四肢をだらりと脱力させて、規則正しく胸板を上下させて、瞼を深く閉じて意識を……と誰が見ても寝ている。
それこそ自己進化の過程をえて手に入れた能力。
手に入れた情報や能力を寝ている間に処理をし、傷などがあれば回復を行う、文字通りニンゲンと同じように『眠る』のだ。
「………コフー………コフー…………。」
そして寝ている間は一番無防備な状態になっているので、『隠れ身』を発動させて、体毛のように長い触手を周囲の光景に溶け込ませて姿が周囲から見えないようにしている。
ただ所詮は魔獣で吐き出した息が熱をおびて、蒸気のように立ち上り、溶け込んで消えることまでは考えていなかったようで、大樹の根元ではその湯気がのぼっては消えてを繰り返す不自然な光景が見えるだろう。
■unkown > パチッ
唐突に魔獣は重たい瞼を瞬時にあげ真っ赤に燃える炎かルビーを思わせる双眸を解放し、頭部を動かさず視線だけを左右に向けてから、上顎と下顎を口を大きくグバッと開ける。
「……カッ…フゥー…………。」
と大あくびを零しては口をガキンッと閉じ、重たい瞼もまた閉じると、再びウトウトと眠りと目覚めの淵を揺蕩う。
頭部が前後にぐらんぐらんっと揺れると『隠れ身』の効果が切れて、大樹に寄りかかる巨漢があらわとなった。
身の丈は2mをゆうに越え、全身は長い体毛にしか見えない黒く細い触手に包まれ、その髪の中から露出しているのは四肢の末端と、欠伸を零す時に開いた口と鼻先くらいである。
巨人、亜人、に見えるが魔獣に属する人造魔獣。
人の都合で人の手により造られた魔獣だ。
でも今は惰眠を貪る1匹の獣である。
獣はまた再び深い眠りにつくと共に『隠れ身』を発動させ、その巨体は大樹に周囲の風景に溶け込むように消えていくのだった。