2022/12/14 のログ
■影時 > こういう時は酒が欲しくなるが、生憎と持ち合わせはない。
仕事中や危険地帯に踏み込むにあたり、飲酒は禁忌としている。まして、独り旅ではないのだから余計にだ。
とはいえ、気を抜いても困らない――わけがない。気を抜けない。
討伐対象の魔物の群れは掃討したとはいえ、血の匂いとは、よからぬものを招く可能性がある。
天幕を苦労しながら張る姿を眺めつつ、細い糸を要所に張り巡らせて鳴子を仕掛け、いわば結界として陣は敷いた。
糸に引っかかるものがあれば、音が鳴る。飲酒含め、油断で反応を鈍らせるわけにはいかない。
「とはいえ……ちゃんと寝てンのかね。それとも、見てないからとシケ込んでなけりゃ良いが」
天幕の中まで、わざわざ覗きに行くつもりはないが、何せ若い男女たちだ。
雨露を凌げばいいと割り切った安物ではなく、防水防音は万全など、謳い文句付きの高価な用具ではなかったか。
張られた天幕、テントのうちの幾つかは、氏素性を詮索できる位に上等なものとなれば、依頼の背景も邪推が出来る。
依頼料も、まあこれならば――と納得できる額であったのは、そのあたりの口止め料なのかもしれない。
「獣捕りの罠も、仕掛けときゃ良かったか」
自前で持ち込んだ金属のカップの中で、茶葉が混じった茶が揺れる。
羽織の下、腰の後ろに付けたままの雑嚢から小さな袋を取り出し、丸薬状に丸めた携行食を口の中に放り込む。
今回の同行者が持ち込んできた保存食はまだ余裕があるが、手は付けない。
どのみち、起きた後の食事はおそらく、簡素で済ませないほうが良いだろう。そう思えばこそ。
狩猟の余裕もあれば良かったが、是非もない。極力目を放さないほうが、面倒が少ないだろうと考える。
■影時 > 「……取り敢えず問題は、朝まで薪が保つかどうか、か。水場が近くにあるのは楽だが……」
罠で狩猟が出来た場合も含め、狩った後の次の問題は屠殺と解体である。
狩って直ぐに食べられるのなら、苦労はしない。下処理をしなければ、雑味が酷過ぎて食べられない獣も多い。
その意味では、近くに小川、清流がある場所に陣取れたのは急ぎの設営とはいえ、不幸中の幸いだった。
後は気になるとすれば、燃料の問題だろう。
数人分の煮炊きを明日朝行うとなると、朝の運動代わりに薪拾いに勤しまなければならない予感がある。
「…………やーれやれだ、ッたく。」
そう思いつつ息を吐き、指を組み、印を結ぶ。氣を巡らせ――音を抑えながら星空の下に幾つもの影を生む。
術者が纏う羽織こそ袖は通してはいないが、覆面をつけた黒装束の一群だ。
散れ、と告げれば声も音もなく駆け出し、森の夜陰へと消えてゆく。
分身たる彼らは術者の思念に従い、近隣の哨戒に当たるとともに、朝方の手間を減らすために枯れ枝を拾ってくることだろう。
夜の番の務めと責任を果たしつつ夜を明かし、一団を引率して帰途に就くために――。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」から影時さんが去りました。