2022/10/11 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にミューさんが現れました。
■ミュー > 森の中、やや開けた場所で。月明かりに照らされた川べりの、立ち並ぶ木々の傍らで、空気が静かに揺れて。
景色の一部がぐにゃりと歪むと、渦のような震動の中からうっすらとぼやけた少女の姿が浮かび上がる。それはふわりと河原の小石の上へ降り立ち、次第にその姿をはっきりとした形へ色濃くさせて。
「……門の改良は、たぶん、良いのでしょう。以前に比べて目立たなくなった――と、思うのだけれど。どう見えているのか……は自信がないのですよね。以前のものはもっと、たぶん……青く光っていた?……今度は、光りはしないようにした、つもりなのだけれど」
背後で小さくなり、やがて消えていく渦。空気の揺れが静まれば、何事もなかったかのように自然の音だけが聞こえている。
どこからか、いわば転移門のようなもので現れたらしい少女の姿は、何やらその門自体の見た目などを気にしてあれこれ考えているようであったが、その実、当の本人は視覚でものを見ていない。だからこそ――目立っていた、と言うのに気づくまでに随分とかかったのであったが。
■ミュー > 「音は……殆ど無かったから、ひとまず、これで。――ああ、外の空気が落ち着く……」
軽く背伸びをしながら、自然の中の空気をゆっくりと吸う。ずっと閉所にこもってあれこれ細かい難題に向かい続けていたらしく、ずっとそんな日が続くと自分が形の上では生き物だと言うこと――たぶん、生きているはずである感覚が曖昧になってしまう。思い立って外へ出てみると、呼吸で身体を抜ける空気の違いがはっきりと分かるような気もするし、川の水音や虫の音、時折風に揺られてざわめく木の葉の気配も新鮮にすら感じてくる。
「少し、ゆっくりと。していきましょう……ね」
周囲を見渡す、と言うよりは身体ごとゆっくりと向きを変えるようにしながら、動き出す前の暫しの間。それからややあって、近くの木の根本までふわふわと歩き出す。伸ばした指先で、しっかりとした木の感触を確かめてから、それに寄り掛かるようにそっと地面に腰を下ろして。
薄茶色の肩掛け鞄を開くと、中から分厚い本のようなものを一冊。それを膝の上に開くが、その中は全てただ真っ白なだけのページが続く。時折、そんな何もないページを読んでいるかのように考えこみ、ページをめくり。そしてまた何か考えているような様子であった。
■ミュー > 白く細い指先を、時折そっと空白のページの上に伸ばすと、するすると何か文字をなぞるように動かして。一瞬、なぞった指先から濡れたような淡い光が紙の上に残るけれど、それはすぐにじわりと消えて行く。
「あ。メニュー……どうします、か……って、ううん」
ふと、めくった先の相変わらず白紙にしか見えないページ、そこで何かを思い出したようにぽつりと声を漏らして。それまで人形のように無表情だった姿が、くす、と小さく笑顔に変わる。他人との数少ない関わりの中で、思い出せばほんのり温い気がする間柄はもっと少ない。心の中で、よく似た顔の愛らしい姉妹のことを思い浮かべながら、人間らしい部分のことをあれこれ考える。
「お店に――置いてあるもののことは、私よりもあの子達の方が……細かく、把握していると思うし……全て任せてしまって良いと思うのだけれど。ふふ、気を遣って真面目に聞いてくれているのね、きっと」
街に存在する、自らの小さな店のこと。その事を考えている間は、自分の心が人間らしいように思える。紙の上に、この事は二人に自由に作ってもらう、と指先で書き込むようになぞって行く。やはり一瞬光が残るだけで、それはまた白紙のページに見えるだけではあるけれど。
■ミュー > 「これは……手紙にして、届けてもらう――いえ、日が出てから会いに行きましょう。暫く街の様子を、確認していませんでしたから。それも兼ねて」
いつもは、やりとりを伝書鳩――の魔法、で済ませてしまうことも多い。時々は自分で出向かなければわからないこともある。のも確かだけれど、それ以上に寂しがられるし、たぶん、自分でもなんとなく寂しいと言う感情があるのだろうと思う。
「ああ、何かもっと趣味を見つけて、なんてことも……言われていたけれど。見つからないままだから……そのことは、怒られそう。魔道具を作るのが趣味みたいなもの……と思ったのだけれど。それは趣味とは違うって言われたものね」
もっと、人間らしいと言うのか、正確には……女の子らしい趣味を見つけて、と言う意味なのだと頭では理解できるし、それも好意的な意味でのことだとわかるのだけれど。自分がもう――ひと、としては何歳なのかすら覚えていないような生き方で、ひとらしくするのは難しいと言うか……やり方を忘れてしまって久しいと言うか。だからこそ人間をもっと観察したい気持ちはある。会いに行ける相手がいるのなら、会いに行くほうがずっと良い。
「忘れずに、鳩で済ませず足を運ぶこと。……も、書いておきましょうか」
■ミュー > 「……うん、戻って……少し眠ってみましょうか。最後に眠ったのはいつだったかしら――それも平気なのだけれど、寝なきゃ駄目ですよって言われたものね。二人も今は寝ているでしょうから」
睡眠も、なんなら食事すら不要ではあるのだけれど。食事に関してはなんとなく、それらしく食べてみることを続けてみていても、寝る、の方に関してはどうしても忘れがちになる。後できっとまた、ちゃんと寝てますか?なんて言われるのが想像できてしまうし、一応眠ってみたほうが良いのだろう、なんて考え方をしながら。ふふ、とまた笑みをこぼして。
広げていた本をそっと閉じると、肩掛け鞄にしまい込み。ゆっくりと立ち上がれば、数言なにか呼びかけるような、ささやき声で魔法の言葉を紡ぐ。先刻現れた空気の歪みが再び正面へ現れ始めると、少し周囲を気にするようなそぶりの後で、その中へふわりと踏み込んで。
揺れる景色とともに少女の姿が薄れて行き、やがて完全に姿を消せば、後にはまた静かな光景だけが残る。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からミューさんが去りました。