2022/08/30 のログ
クチナシ > 「――ん?」

ゆらり。と、自身の影が揺れた。何もしていないのに、である。
それはつまり、なにかおかしなことがあるということに他ならない。
即座にその松明に呪符を貼り付け、念じる。それと共に松明は、まるで鳥のようにふわりと中空を舞う。
自身の魔力を宿した武器を操作する。――よくある魔法を呪符に練り込み、貼り付けたものと共に動かす呪術を利用し、自身の手を自由にすれば――。

「………… ――しっ!!」

踏み込み、一閃。呪符を仕込んだ刀による居合が、空を切り裂いた。
同時に「どすんっ!!」と音が響く。そもそも、この居合に切断能力はない。呪いを乗せた不可視の刃が敵を切り裂いた瞬間、とんでもない重量やデバフを押し付けるだけ。

――音の元へ歩み寄れば、其処にいるのは。
闇の中に溶けてしまいそうな墨染のような毛皮と、対象的にぎらぎらとした輝きを宿す瞳を持つ、黒い獣。
居合の刃によって足を射たれ、其処から足を動かすことの出来ない相手は、まな板の鯉も同然。

「はは。貴様かぁ。……まぁ、人を襲ったのは悪かったな。取り敢えず、自分の金になってもらうぞ。」

――太刀を一閃。その首を軽々と跳ねた。

刃に飛び散る鮮血を軽く払ってから、死骸に貼り付けるのは転移の札。これを明日にでもギルドに持っていけば報告完了だ。

「――さぁて。無事、魔物退治は完了、と。
 後は……被害者のひとりやふたりいないか、念のため確認、だな。」

――後は、文字通りの後始末、状況確認。
ふわふわと揺れ続ける松明を光源に、この獣に襲われた人がいないか。はたまた呑気に眠っている人や、ここに迷い込んだ冒険者などが居ないかを、確認すべく歩を進めて。

クチナシ > 「――よし。幸い、今日は被害者はいなかったようだな。」

数十分。時間を掛けた見回り。
闇の中に自分以外の気配もなければ、血の跡も、なにかが襲われた痕跡も、――目を覆うような惨状もない。
それはいいことだ。折角の夜。そういったものを発見して気分が滅入る。なんてことは勘弁願いたい。

「――まぁ、この月夜の下で、晩酌にでも付き合ってくれるものがいたらよかったが。其れは、高望みかな。」

ちら、ちら。と燃える松明の炎。そして、そんな自分を照らす月光。
自然地帯。その名の通り、緑生い茂る其処に月明かりを阻むものはなく、今はとても美しい月が――自分を見下ろしている。
ゆるりと、普段は閉じられている瞼を開き、碧々とした眼を使って空を仰ぐ。

「――酒のひとつでも、持ってくればよかったなぁ。」

そう、独り言ち。
草履が草花を踏みしめる音を響かせながら、小柄な体躯は闇の中へと消えていく。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からクチナシさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にトーラスさんが現れました。
トーラス > 王都近郊の森林を奔る川の畔。
水遊場などにも水をもたらす川は王都の民や近隣村落の住民の重要な水源で憩いの場ともなる。
そして、水を求めるのは生物として必要不可欠な事であり、何も人間に限った専売特許ではない。
森に住まう動物達も飲み水を求めて集まり、中には人に害する存在も発生し得る。

「――――……、そんな魔物を退治してくれ、とは、何とも業腹な事だなぁ」

水辺から少し離れた繁みの中、川からは見えぬ場所に張られた天幕にて、
中年冒険者の男性が、独り言ちて、嘆息めいた吐息を吐き洩らす。
ギルドに寄せられた依頼は、近隣住民が水浴びや飲み水に利用する川にて、
魔物が現れて遭遇したために退治して欲しいとの事。

だったら、場所を変えれば良いのでは、と思うものの、未だ実質的な被害は蒙っていないらしい。
その為、この場所を利用する者達は後を絶たず、要するに安心が買いたいとの話で。
魔物と言っても水場で周囲を害さないという生物の暗黙の了解を貫いている中、
自分勝手な人間のエゴに辟易しながら、天幕の中で川辺の様子を窺い覗き見る。
はてさて、川に現れるのは咽喉を乾かした魔物か、それとも、涼を求める人間か、と。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からトーラスさんが去りました。