2021/04/13 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」に影時さんが現れました。
影時 > 特段の仕事も何もない時も――街の外を闊歩すると云うのは、よくあることだ。

空は晴れ、心地の良い風が吹き、草木が芽吹き出す頃合いとなれば部屋に籠るも惜しい。
山菜などのような糧や薬草のような仕事のタネを求める以外に、山野に赴く理由は幾らでもある。

「もう少し歩けば、見えてくるとかナンとかいう話だったが、……さて、どうだかなァ」

此の時分と気温の移ろいを考えれば、故郷であれば遅咲きの花の類も見れたことだろう。
発端は、席を置く冒険者ギルドで小耳に挟んだ山中の花の名所なるものだ。
興が乗れば、この身は実に軽い。最低限の荷物と酒瓶を携え、文字通りの物見遊山の風情で街道から離れる。

今見上げる場所は木々は次第に深くなってきたが、酷く険しいという感想はまだない。
何せ、ベテランではなく駆け出し達が口にしていた話だ。
万一の逃げ道となる街道から離れ過ぎない範囲と考えれば、目的地に至るまでの道のりはそう遠くないだろう。

刻限は昼を過ぎたくらいか。枝葉の合間から覗く僅かな光を確かめつつ、周囲に目を凝らす。
遊び半分の動機ではあるものの、移動については注意を払う。

影時 > このような散策で、拾い物となる事柄に出会う――というのは期待が過ぎる。
奇貨の類は大事で代えがたいものだが、自然のありように目を向けるのは生業として重要だ。

「時節からして、だろうな。目覚めの一食でも探してたンかねこりゃ」

この辺りの高低差と起伏であると、身を隠すに良い窪みの類も進む中で目につく。
そうした窪みや洞と仮の寝床として獣が冬眠し、冬を越すということも大いにあるだろう。
今、手を付ける苔むした樹の幹に明瞭に残る爪痕を鑑みる。
形状と残る位置を思えば、大型の獣というのは想像に難くない。
夜露ではなくとも、湿り気がある地面を鑑みれば、探せば足跡の類も見えるだろう。

――帰りに麓の村に情報を流しておくか。

そう心に決める。この辺りを回る狩人がどれだけ射るかに寄るが、もう少し調べておけば警戒の材料になるだろう。
一旦足を止め、注意深く見回したうえで斜面を危なげなく踏み越える。
周辺の地勢を考えれば、この辺りは尾根に近い。超え切れば次は険しい下りが待つ。だが、この足を止める由縁には足らない。

影時 > 斜面と斜面の繋がりという頂点を踏み越えてゆけば、風が吹く。
太陽の光に照らされ、山の稜線に沿って吹き上がる風だ。
体温を奪う冷たさこそあるけれども、息吹めいて温かく思うのは季節が移ろった証だろう。故に――、

「……お。」

見上げれば光の強さに眇めるその目に、小さなものが見える。その形と色はとても小さいが、花弁のように見えた。
其れが何処から至ったかどうかを確かめるなら、下を眺めるといい。
このあたりは斜面に囲まれた窪地らしい。皿の底のような窪地に、泉や池と思しい陽光の照り返しが見える。
その照り返しの輝きに負けず、目を引く色がある。淡い桃や桜色というのは、葉の緑以上によく映える。

「なァるほど。この位置から眺めてああも見えるとなりゃ、今が見頃だろうなぁ」

山歩きに慣れていないものが下るにも、この辺りは険しい。
帰りを憂うならば遠くから眺めて思いを馳せるにも、丁度良いだろう。きっとそれが面倒がない。
だが、己は違う。風の強さと道の険しさに憂うことも惑うことなく、斜面に足を踏み入れる。
最初は歩みの速度が、次第に斜面の険しさも加えた勢いの疾走に変わってゆく。吹上の風を縫って、地に下ってゆく。

影時 > 「――は、ッ、はァ!!!」

景気よく駆けていれば、叫びはしなくとも快哉めいた声は出る。
勢いが付き過ぎて止まれない? そんなことはない。
緩急目まぐるしい動きの制御ができないなら、抜け忍でも忍者は遣っていられない。

倒木を飛び越え、足を踏み抜きそうな窪みを跨ぎ、その姿は風のような勢いを得ながら、放った声以上を残さずに駆け下り。


「……上から眺めてみた点で薄々思っていたが、こりゃァ思っていた以上だな」

至る場所の形容は、そう多くない。
清らかな水を湛えた泉水が点在し、自生した桜のような木々が茂る場所は桃源郷ならぬ桜源郷とも言える。
つくづく、己には詩情が足らない。もとより、荒事ばかりで生きた身と云えばそれは言い訳か。
だが、斯様な場所はきっと貴重なものだ。珍しい草花を金銭目的に探し求めるというのは、風情がない。
稼ぐために、わざわざ遠出をしたわけではない。
花があるという。その風情を探し求めるために、此処に至ったのだ。

影時 > 「風流好みの大名の類なら、酒よりも茶でももって来させンだろうが」

この地勢だと、薪木を拾って火を焚くのは躊躇う。
水は見た処だと綺麗であるが、飲用に足るかどうかはしっかりと調べなければ、不安がある。
花を咲かせる樹を切り倒して火を焚け、となればいよいよ以て本末転倒甚だしい。

靴先に触れる草や苔を見れば、わざわざ踏み入る人の類は居ないのか少ないのだろう。
踏み荒らされる、という形容の出来る痕跡は今いるあたりでは見当たらない。
敷物の類はない訳ではないが、見事と云える自生の具合だ。故に地面に直に座るのは躊躇う。

「倒木は……ああ、あるわな。あるなら、有難ぇ」

だから、腰掛け代わりになるスポットの有無と云うのは気になる処だ。
年月を経て枯れ、横倒しとなった樹を見つければ片手拝みを捧げ、失礼と断りながらその幹の上にひらりと飛び上がろう。
左腰に佩いた太刀を外し、立てかけるように肩に凭れさせながら座して一息。
僅かに香ってくる匂いは記憶の中にある桜とも、桃とも似て、少し何処か違う。似たような形質のものかもしれない。

だが、それでも見事と云える咲きぶりだ。もう少し足を運びやすい土地柄となればと、そう惜しむくらいに。

影時 > 強い風が吹けば、それだけで花弁が舞って水に浮かぶ。
咲き誇れば後は散るのみ。その惜しさを心に思えつつ、もう一つ腰に吊るした荷物を降ろす。
右腰に吊るしたのは、酒瓶だ。
陶製の籠が施された其れの栓を抜き、腰裏の物入れに入れた小さな盃を出す。

「地と水の精霊、そして神に先にまずは一献」

ぐい呑み程度の盃に透明な酒を注ぎ、倒木の上で平たい場所を見計らって置く。
信仰というには厚くないとしても、土地が違えども良き風景に遇えば感謝の念も湧く。
口に合えばいいと願いながら、自分は酒瓶に直で口をつける。

ツマミの類が欲しくなる強さの味と強さだが、今の肴はこの風景だけで十分だ。事足りる。

影時 > 「帰ったら、商会にも場所を伝えておくかねェ。」

懇意にしている商会が、珍しい風景に商機を見いだすかどうかは、判断次第だ。
しかし、地を歩くのではなく、空を行けるというのはその一つだけで大きな強みとなる。
気づけば長く空を飛ぶものと縁がある身となれば、痛いほどによく実感できる。
仕事次第にもよるが、また魔族の国の処まで飛んで探索しに行くのも良いだろう。

こういう場所となれば、独自の種や珍しい草木がある可能性はあるが――ああ、其れは駄目だ。

つい先ほど酒を捧げたばかりだ。
そういった損得勘定は駄目だ。風情がない。薬草などはあるかもしれないが、どちらかと云えば綺麗な風景を求める方がこの地にはらしい。

は、と。酒精の香る息で苦笑を滲ませつつ、瓶を呷る。それだけで穏やかに時間が過ぎる。
今はそれだけでお腹一杯で事足りる。酒瓶を干した後は気づけば夕刻。盃もまた、精霊が呑んだかの如く乾いて――。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」から影時さんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にエレイさんが現れました。
エレイ > 「~♪」

夜。
森の奥のちょっとした広場になった場所で、ピーヒョロロとヘタクソな口笛を奏でつつ
焚き火をしている金髪の男が一人。
パチパチと音を立てる焚き火の側には、串を通された魚が2、3匹立てられ炙られていて。
その焼き上がりを待ちながら、頬杖突いて暇そうな目で燃え盛る焚き火をボケーッと眺めている。

「本当は肉が良かったのだが……ちょうどいい獲物が居なかった以上は仕方がないという顔になる」

口笛の合間にポツリ、そんな事を独りごちる。

何が出てくるか判ったものではない森の奥にあって、男は緊張感の欠片も纏っていない。
焚き火だの口笛だの焼き魚だの、自分の存在を周囲に露骨にアピールしている状態にも関わらず、である。
むしろなんか面白いモンの一つでも飛び出して来たりせんかなぁ、と雑に期待してすらいたりもする。