2020/09/08 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にマオさんが現れました。
マオ > 「――…………っぷはぁー!」

街道から少し離れた場所に位置する森の中。
青々と茂る草木の間に揺蕩う、澄んだ沼。そこから飛沫と共に顔を出した人影。
月明かりが差込めば、照らされた人影が小さな少女である事がわかる。
雑に伸ばした白の長髪、大きな灰の瞳、山岳部族を思わせる入れ墨の入った額。
白い素肌を水着代わりに白帯で覆った開放的な姿。

「は――……最高。やっぱ、暑い日ってこれに限るわよね」

ざばりと水から上がれば、
体躯に見合わぬ豊満な乳房がたっぷりと揺れ、月夜の下にきらきらと美しい水滴が舞った。

沼で水浴びを行う少女はその名をマオと言い、冒険者の端くれと言える旅人だ。
山岳で育ち、今も尚野性的な野宿暮らしを続ける少女が今夜の寝床に選んだのはこの沼地だった。
水は綺麗で美味い魚が獲れ、空気の淀みも無く、月夜も明るく見渡しの効くこの場所は、
彼女にとっては非常に都合の良い環境だ。今行っていた行水も沼底の安全を確認する為のもので、
危険な生物や魔物等の繁殖が無いかをざっと確認し、一息入れたというところ。

四肢と胸元、股間に白帯を巻いただけの無防備な姿。けれども、潜水にはこれが便利で。
そんな格好のまま手頃な岩の上に腰かけると、近くに生っていた林檎の様な果実を毟り、一口。

「…………っ! ンまっ! なによこれ美味しいじゃない! 市場で買うのが馬鹿らしくなってくるわっ」

嬉しい偶然の発見に瞳を輝かせ、果実を一口。二口。ゴクリと嚥下し、ぺろり。唇を舐める。


月明かりがあるとはいえ夜の森は暗く、少女の偵察も万全では無い。
故に、目の届かない何処かに何某かの驚異が潜んでいる可能性は十分に在る。
もっとも、果実に舌鼓を打つ今の少女の頭には、そんな考慮は欠片も残っていないのだが――

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にロブームさんが現れました。
ロブーム > 「ふむ……。成程、報告通りの肢体、そして気持ちのいい野生っぷりよ」

ふと。
本当にふと、その黒いローブの男は現れた。
幾ら偵察が万全ではなかったとはいえ、それでも普通なら気付くであろう筈の沼地の近くの茂みに、まるで降って湧いたかの様に唐突に。
男は、そのまま堂々と茂みからマオに近づき、話しかける。

「こんばんわ、お嬢さん。私はロブームと言う者だ」

その声は以外にも朗々としたものだったが、さりとてその風体は明らかに怪しいもの。
金色の眼の意匠の入った黒いローブ――邪神の信奉者とて、今どきはもう少し自らを偽るだろう。

「君の名前を訊かせては来れないかな?お嬢さん」

マオ > 「――…………うん?」

いつの間にか、視界の中に見た事の無い男が立っていた。
丸々と肥えた肥満体の男。その顔は脂ぎっている様に輝いて見える。
矢鱈と豪奢なローブを纏い、どう見ても胡散臭い――どころではないその妖し過ぎる容貌を前に、
みるみる内に顔を顰め、うんざりとした表情を浮かべて果実を齧り尽くした少女は、男を一瞥して――

「……この暑い夜に良くンな外套羽織ってられるわねあんた。汗、凄いわよ?」

男が自ら名乗ったからか、少女は男を無視する事はしない。
怪訝そうな顔で横目にその風体をジロジロと訝しげに見上げながら――

「あー……え? あたしの名前? マオよ。姓は無い。只のマオね。
 生憎だけど此処、今夜はあたしの縄張りよ。寝床探しなら回れ右。
 あぁでも、そのすんごい汗……水浴びでもして落として行く位は許したげるケド」

男へ向けて人差し指をクルクルと回し、「何処かへ去れ」とのジェスチャー。
会話こそなりたっているものの、男の容姿があまりに醜悪で妖しいものだから、
一秒でも早く去ってくれ、と、質問には答えつつも全身から"嫌"オーラを出して男を牽制していた。

ロブーム > 「おっと!確かにお嬢さんの前に出るのに、この格好は不適だったかな。うむ、私もこれは暑苦しいと思うのだが、仕事柄ね。仕方ないのだよ」

確かに、ロブームの格好は暑苦しい――何せ黒くて全身を覆うローブだ。
尤も、普通の人間と違い、ローブの下は真っ裸なので、彼女が思うよりも体感温度が高いわけではないが――その分、汗の匂いはより感じるはずで。

しかし、そんな彼女の嫌悪感に、男はまるで頓着しない。
どころか、寧ろ何処か嬉しそうな笑みまで浮かべて。

「おお、実にお優しい。この様な姿の私に、心配して汗を流しても良いなどと言ってくれるとは。
大抵、こういう時は問答無用で追い出されるのだがね……とはいえ」

そこで、男は魔力を放出する。
その風体に合致するような、黒くて禍々しく、何よりも泥沼の様に泥濘んだ魔力。
魔力を全く感じる事が出来ない人間でも、その魔力が持つ雰囲気だけで、不快感を催すだろう――増して、魔力を感じることが出来るなら。
彼が放出する魔力は、とてつもない邪悪性を帯びていることがすぐに解る。

「私は君に用があって来たのだよ。マオ。
君のその心地の良い性格、悪魔にとって実に堕とし甲斐がありそうでね……。
何ならば、私のペットにしてやっても良いと、そう思えるほどに」

ロブームの太い舌が、蛇のように唇を舐める。
その眼は欲望にギラギラと光っており、今の言が嘘ではないことを如実に示していた。
ロブームの手には、いつの間にか杖が握られている。
捻れた蛇が絡みついた、独特の意匠を持つ杖だ――。

「さあ、どうするかね?逃げるのも有りだとも。勿論、逃げられるのであれば、だが……」

マオ > 「仕事柄、ねぇ……苦労してんのね、あんた」

男の言葉に、そんな短い言葉を返す。それが少女の性分だった。
――それが。そんな性分が、今宵も禍を呼び込んでしまったのだろうか。
一目散にその場を去っていたなら、何かが違っていたかもしれない。

「…………っ!?」

嬉しそうな笑みすら浮かべた男の言葉聴く最中、少女の背筋にぞわりと冷たい怖気が走る。
魔力の放出。黒く、禍々しく、沼よりも混沌と汚濁した、異質な力。
全身が生理的嫌悪感と不快感以て警鐘鳴らし、座していた少女をすぐ様その場に起立させた。

「は…………? あたしに用事?
 堕とす……ペ、ット……? ちょっと、何言ってくれてンのよ、あんた。……。
 あぁ……仕事、って……そういうこと。合点がいったわ。悪魔だなんてね!」

いつの間にか杖を握り、唇をその太い舌で舐め、瞳をギラつかせる男。様子を違えた男に対し、少女は――

男の言葉への返答よりも先に、小さな身体が動いていた。
握り固めた拳を大きく引き絞り、弾丸の様な疾速で以て男へと跳び掛かり――

「そンじゃあ……こっちの"仕事"も紹介しなきゃ、ねッッ!!」

返答代わりの拳による打突を、その油ぎった頬へ目掛けて見舞うのであった――