2020/06/14 のログ
ゼナ > 立ち上がり、振り返った先の少女の何とも言えぬ笑みに小首を傾げ、続いて発せられた独り言を聞きつけてしまえばこちらも苦笑めいた表情を浮かべる事となった。
既に遠い昔の事の様にも感じられてしまうが、かつてはゼナも上級冒険者との力の隔絶に対して最早笑うしかないという様な気になった物なので、彼女の気持ちも分からなくはない。
『このまま冒険者を続けていれば、貴女もきっと同じような事が出来るようになりますよ!』なんて言葉を掛けそうになるも、後衛である彼女が、あの可愛らしい細腕とそう重そうにも見えない木の杖でオーガをあっさりと撲殺する未来は早々訪れはしないだろうと口を噤んだ。

「あ……ははは……。え、っと……と、ともかく今はあれですっ! お仲間の救助が優先ですし、は、はいっ! 行きましょうっ!」

微妙な空気をどうにかしようと無理矢理発した言葉が、気を取り直してこちらの手を取ってくれた彼女の動きとうまく重なった。
先程までは生まれたての小鹿の様に不安定だった足取りも、口にした薬草らしき葉っぱの効力なのか今ではそれなりにしっかりしていて、これなら荷物の様に小脇に抱えるなんて失礼な事をするまでもないかなと時折繋いだ手を引くサポートのみに止めて先を急ぐ。

その途中、先程己が屠ったオーガなどとは比べ物にならぬ、それこそトロルやフォレストジャイアントとでもいうべき巨大な骸を目にすれば流石のゼナも瞠目して

「お……驚きました。こんな深い場所まで入って来ているんですから、駆け出しではないと思っていましたけど、ティアフェルさんって変異種を倒せる程だったんですね……」

彼女の実力を見誤っていた事を軽く謝罪しながら、もう一匹の跡を追う。
幸い、こちらのオーガも先に倒した方と同様に邪魔な障害物を圧し折り、地面に大きな足跡を付けながら獲物を追いかけているらしく、注意深いトラッキングは必要なかった。
これならば然程の間も無くオーガに追いつく事が出来るだろう。
そこに彼女の仲間達がいるのか、それとも既に全てが終わってしまっているのかまでは分からないけれど。

ティアフェル >  見た目とのギャップ、パないわ…とそんな感想はさておいて、どういう構造になっとんのでしょうか、と少々悩まし気に、充分鍛えられてはいそうだが、その大剣を振り回すまではいきそうにないしなやかな腕や締まった細い体躯を観察して悩まし気にアホ毛が揺れた。何か云いたげながらも結局口にしなかった、というような彼女の雰囲気に少々小首を捻るが。

「そうね、無事だといんだけど――ごめん、巻き込んで。ありがとう!」

 想定外のことが起こったとは云え、オーガ討伐はこちら側で請けた依頼。それに助太刀してもらう形となり。冒険者は持ちつ持たれつなこともあろうが、感謝を口にして握った手に少し力を込め。そして、こちらの手を引っ張り気味にして走ってくれる気遣いにはちらりと口元を綻ばせ。

「いや、これはわたしも含め三人がかりだから――ほれ、よく見て? これ、刀傷――そもそもわたしのスタッフでカチ割れる相手じゃないし――」

 ナイナイ、とまるで自分がやったかと思われている様な言葉にふるふると首を振って、オーガの変異体を見下ろし、それを絶命させただろう斬傷を示して。そして、その骸が転がる地点まで辿り着くと、オーガに追われただろう痕跡をすぐさま見つけ出す彼女に従って追い。

「大っ丈夫、かな――一人は魔法で転移して逃げた可能性があるけど……もう一人、引き付けてくれてた前衛が……」

 オーガの一体は恐らく仲間の剣士が請け負ってくれた筈だ。駆けながら身を案じたが――やがて、響いてくる剣戟にぴく、と反応して、

「あそこ――!」

 追いつかれて応戦しているらしい気配が前方の岩陰から窺がえ。折れた枝葉や蹴散らされた茂みの痕跡を見てもオーガともう一人がそこを抜けたのは明らかで。

ゼナ > 「いいえ、わたしも昔は先輩方に何度も助けてもらいましたし、冒険者同士助け合うのは当然の事ですっ」

"助け合うのが当然"と口にしつつも、正しくそれを守っている冒険者が最近では随分少なくなっている事も分かっている。それでもゼナはこの様な状況で助ける事の出来る相手を見捨てて死肉漁りで利益を得たいとは思えない。
彼女は軽く言葉を交わしただけでもゼナに近しい価値観を持っている様だったし、そうした相手を助けられただけでも甘いと言われる自分の考え方が間違っていないのだと思う事が出来た。
後は彼女の仲間たちが無事にオーガの追跡から逃れる事が出来ていればいいのだけれど……。

「ふふ、分かっています。後衛さんにしてはティアフェルさんは少しお転婆な様に思えますけど、流石にその杖でモンスターを撲殺したりする程ではないんですよね?」

彼女の発言に対してからかうような言葉を投げたのは、仲間の安否が気になって気が気ではないだろう彼女の心を鎮める一助となればと思ったから。

「そう……ですね。上手く逃げてくれていればいいんですけど……………、ッ! はいっ、戦いの音です! 行きましょう!」

彼女とほぼ同じタイミングで樹海に響く剣戟に気付いたゼナは、パァッとその表情を輝かせて足を速めた。そして、オーガの暴威によって薙ぎ払われた木々が樹海の中にぽっかりと作り出した小さな広場の端の方、引き抜いた立木をブラジオンの様に振り回す人食い鬼を前にかろうじて抗い続けている剣士の姿を見る事が出来た。

ティアフェル > 「そっか――ゼナっていい娘だねっ」

 せめて顔見知りの関係ならまだしも、見ず知らずの冒険者を助ける為に森の中を掛けてくれる存在は貴重だ。ふっ、と心地よい風を受けた時のようにさっぱりした笑みを浮かべながら口にして。
 こういう実力があって気持ちのいい冒険者がいると思うと棄てたもんじゃないし、やっていける、と云う気になる。
 ダンジョンでちょうど欲しいアイテムを手に入れたような心地で助っ人を連れて仲間の元へ逸り。

「ティア、でいーよ。そのまま呼んで? わたしも勝手にそうしちゃってるし。っへへ、実はやっちゃってる。雑魚くらいならこれでじゅーぶん」

 殴打武器では決してない、スタッフ。気遣うように投げられた揶揄。スタッフを軽く振って悪戯めかしたように口端を上げた。さすがにオーガなど強敵にはまったく歯が立たないがゴブリンだのスケルトンだの雑魚は充分沈められる。

「間に合いはしたみたい、ね――ごめん、悪いけどお願いゼナ! 剣の錆にしちゃってー!」

 逃走痕を辿れば行きついた交戦状態の現場。逃げ切れずに応戦している剣士はすでに負傷していて、剣を握っていない左手を垂れさせ、立木を振り回すオーガに防戦一方となってしまっていた。そのオーガはちょうどこちらに背を向けており、迫っている二人には気づいてないようで。先ほど真っ向からオーガを瞬殺した彼女であれば、斬り伏せるのは容易かろう――

ゼナ > "いい娘"なんて誉め言葉に一瞬驚いた様に蒼瞳を丸くしたゼナは、『やっぱりティアフェルさんって年上っぽい』なんて何となく思いつつ表情を綻ばせて言葉を返す。

「ティアフェルさん……えっと、それじゃあティアさんも、いい娘―――ええと……いい人だと思います。そんなティアフェルさんを助ける事が出来てよかったです」

雑魚相手の場合は"やっちゃってる"という言葉には、再び双眸を見開いた後にくすりと笑って「ティアさんってば、思ってた以上にお転婆さんだったんですね?」なんて言葉を続ける事となった。
そうして追いついたオーガの背の向こう側に、辛うじて命を繋ぎ止めていた剣士の姿を見つけて安堵したゼナは

「はいっ、お任せください! ティアさんはあの人の治療を! ――――はぁぁぁぁああ……ッ!」

快活な声音を返すと繋いでいた手を解いて巨剣を両手で握りしめ、オーガの注意をひきつけるべく気合の声と共に駆け出していく。

――――彼女の仲間はかなり善戦していたらしく、そのオーガの身体にはいくつもの傷が刻まれていた。そんなオーガがゼナの相手になるはずもなく、いともあっさりと討伐され、半ば以上死を覚悟していた剣士もまた、優秀な治癒術師のおかげで一命をとりとめる。
その後、樹海から脱出する間の護衛を請け負ったゼナは彼女たちに言うのである。

「――――そうですね、お礼をして下さるというのでしたら、王都で出会った時にでも美味しいご飯をお腹いっぱい食べさせてください。言っておきますけど、わたし、かなり食べますからその時のためにしっかり稼いでおいてくださいね?」

その言葉が冗談でもなんでもなかった事を彼女が知るのは、まだ少し先の話。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からゼナさんが去りました。
ティアフェル > 「さんもつけなくっていーのに。――でもま、ありがと! わたし今日は厄日と思ったけどやっぱツイてるよ」

 に、と彼女の綻んだ表情に晴れやかな笑みを返して、駆けまわっていたせいでまた呼吸を乱しつつも告げて。お転婆、という控えめな表現にはは、と軽く笑い返すにとどめた。ただの暴力女とは世間の評価である。

「任せた! ――大丈夫、こっちへ…!」

 頼れる女流剣士にオーガを一任して、負傷している剣士へと合図して、摩耗しきった魔力がまだ余り戻っていないので、とにかくできる範囲での回復を施し。
 そして、一瞬で手負いとは云えオーガを軽々と屠った彼女の姿に驚愕する剣士と、

「いえーい、さすっがー!」

 判っていた結果を目の当たりにして、お気楽にハイタッチでもしようかというヒーラー。今日は人生の瀬戸際に立ったかと思ったが――彼女のお蔭で無事に生還叶い。
 お礼の食事、という剣にはもちろん快く肯いたし、今回オーガ討伐に協力してもらったので報酬の分け前も戻ってちゃんとお渡しするが、相当食うとの自己申告にちょっと不安になって。

「あの、手作りとかじゃ……だめ……?」

 外食よりも作った方が圧倒的にお得。ちょっとセコイ交渉をしたのだった。

 ――途中で別れた魔法使いはやはり転送術で先に帰還しており、いの一番に逃げやがった盾持ちは――途中で迷っているところを見つけて、王都に戻った後で吊し上げを食らわせましたという。そんなオチ。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からティアフェルさんが去りました。