2020/06/13 のログ
■オグルゴブリン > 狩りであるからして、空振りと言う事もあるだろう。
特に今夜はイキの良い獲物以外は見逃していたと言う事もあり、多少苛立ちながらの帰路となる。
途中どうでも良い小動物に吹き矢を打ち込み、その効能を確かめながら今宵のオグルゴブリンの狩りは終わるのであった。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からオグルゴブリンさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 青く深く暗い樹海の奥で――
っはあ!っはあ!っはあ!っはあ!
追い詰められたように酷く乱れた呼吸。地を蹴る足音は強く速く。
滲んだ汗を散らす表情は歪んで崩れて、唇を噛み締めていなければ潤み出す瞳から滂沱が散ってしまいそうになっていた。
必死に走って、駆けて――やがて木の根に脚を取られ縺れ転げる足。
「あっ――!」
ずさあ、と前のめりに倒れて膝を擦り、咄嗟についた掌から出血したが、それでもよろけながらも立ち上がって、また駆けだそうとする足は、止まると死んでしまうかのように焦燥に塗れていた。
「嘘でしょ……嘘でしょ…っ…こんなっ……」
うわ言の様に思わず零れる声が零れた。
後ろを振り返ることさえ恐ろしくてできない。見てしまったら、もしも最悪の光景があれば、もう走れなくなってしまう。
故にひたすら、昼なお鬱蒼と暗く、夕刻を迎えた今は血の様に赤い斜陽の薄く差し込む森闇の中をただただわき目もふらずに駆け抜けた。
■ティアフェル > ――事の発端は数刻前。
オーガ退治に訪れた冒険者たちの前に、事前情報とは相違した異様な体躯のオーガにエンカウントしたところから始まる。
亜種なのか変異したものなのかは不明だが――通常のオーガの倍ほどのあろう体格と異常な膂力を有した、全員が初めて目の当たりにするような風体にまず、タンカー役の盾持ちがそのガタイのいい見た目からは考えられないような細い悲鳴を上げ、いの一番に逃げ出した。
残った剣士、魔術師、癒術師は善戦し、それを討伐したものの――後発に現れたオーガ二頭を相手にする余力は残っておらず、唯一の前衛たる剣士は後衛2人を庇って対峙するのは不可能と判断し、散開して離脱する指示を下した。
それ程に、後衛二人は魔力を摩耗させていたし、前衛は体力を消耗させていた。
このままでは全滅する。せめてバラバラに散開すれば、誰かは生き残れる可能性も上がる。こうなってしまってはとかく己の身を最優先に行動するしかない。
例え誰かが襲われた悲鳴を聞こうとも、振り切って逃げるしかない。
木擦れに混じり、どこか遠くで悲鳴が木霊した気がした。一瞬、背に冷たい汗を伝わせ脚が止まる―――かぶりを振って駆け出そうとするが、もう、脚が限界を迎えがくがくと震えて走ってくれない。震えたまま、両足を引き摺るように前に進み。
荒く乱れた呼吸にうわ言が混じった。
「やだ……やだ、やだ…っ…」
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にゼナさんが現れました。
■ゼナ > 森の中というのは存外にうるさい物だ。
夏を迎えつつある強い日差しに葉々が茂り、動物たちも活発に動き回るこの時期ならば尚更だ。それでも、気配を消す事もなく、今にも転んでしまいそうな程に不安定な足音を響かせる相手の接近には随分前から気付いていた。
こちらを獲物と見立てて襲い掛かろうとするモンスターといった気配ではなく、むしろ何かに追い立てられて必死で逃げ惑う誰かの立てる足音。
それが直前に遠く響いた悲鳴の様な声音と共に途切れた事が気になって、そちらに足を向けたのは、ゼナが見目にそぐわぬ剣力を有しているからこその余裕――――も、無いではないが、どちらかといえば第六感とでもいうべき危険完治がそれほど強い反応を示していなかったからだ。
そんなわけで身の丈と対して変わらぬ刃身と自身の体重を軽く凌駕する重量を有する巨大剣を引き抜いて小走りにそちらに駆けていく。
聞くものが聞けば無駄のない見事な走法だと分かるだろうが、別に気配を殺しているわけでもない。そのため小枝をへし折り茂みを突っ切り颶風を伴い駆ける音は、その場にとどまっているらしき逃亡者には新たな獣が逆方向から迫って来ている様にも思えるかも知れない。
とはいえ、今はそれを気にするよりも一刻も早くその場に向かった方が良いだろうという判断が、2階建ての建物くらいの小高い場所から地面を蹴って――――………ッドドン!
巨剣含みの重量が、カタパルトから射出された岩塊の如く地面にへたり込んだ少女の眼前に着地を決める事となった。
■ティアフェル > 生命の息吹に溢れ、濃い緑の香りが立ち込める森林の中をもう駆け出す余力も削られて、呼吸を乱し汗を滴らせ表情を歪め、ただ立ち止まる訳には行かないと震える足取りで進みゆくさなかに――、
「っ…?! な、に……?」
森の住人とはまた異なるような少々騒がしいような力強い躍動を感じさせるような……そんな何かが移動する音に気付いて、びく、とまた思わず足を止め。
未だ何が近づいてくるのか判らない距離、ただ速く強く重さを感じる自然のものとは思えない不自然な足音に見張った目に不安と焦燥を宿らせて。
「ひっ――…!?」
迫って来るそれが、一息に距離を詰めてくる跳躍の気配に反射的に硬直し、さらに瞳を大きく見開いたまま、突如目の前に現出した女流剣士の姿に悲鳴を押し殺したように息を飲んで口元を抑え。
「なっ……、だ、れ……?」
我ながら間抜けな誰何が無意識に零れたが――後方で遠く響く生木を裂くような生生しい音に振り返って。素早く顔を戻すと対面した彼女の様相を瞬時に認識し、
「あなた、冒険者…?! この、この先に、オーガが……! わたし達じゃもう倒せないの…! お願い、このままじゃ誰か死んじゃう……、助けて…!」
■ゼナ > 着地の衝撃のほとんどは折り曲げた下肢で吸収しているものの、それでも巨大剣と合わせて100kgを超える重量物が疾駆の勢いも合わせて高所から落ちて来たのだ。
当然、枯れ葉が土埃と共にぶわっとぶわっと膨れ上がり、しばしの間落下物の正体を少女の視線から隠す事となるだろう。そんな天然の目隠しの中、しなやかな挙動で膝を伸ばして立ち上がるのは、健康的に日に焼けた小麦肌を朱金の鱗鎧でぴっちりと覆った戦士娘。
タイトなラインのミニ丈から大胆に覗く太腿はむちむちと肉付きが良く、立ち上がるという挙動だけでも弾力性たっぷりに揺れる双乳はもう暴力的なまでのボリューム感を有している。
そしてその女戦士は樹海の枝葉に遮られてみる事の出来ぬ夏の蒼空の様な瞳でへたり込んだ少女をチラリと確認した後、森の木々を蹂躙しながら近付く気配に向き直る。
脇構えにも似てだらりと下げていた巨剣もそれに合わせて構えを変える。
巨木を圧し折り、茂みを踏み潰して近付く轟音にピタリと切っ先を向けて腰を落とした前のめりの刺突の構え。
「わたしは王都から来た冒険者でゼナと言います。大丈夫。オーガ程度ならわたし一人で問題なく倒す事が出来ます。立てる様でしたら、貴女が仲間と別れた場所への案内をお願いします」
真っすぐに正面を見たままの背が、涼やかで落ち着きのある声音で言葉を返す。『よく頑張りましたね』とへたり込んだ少女を褒めているかの優し気な響きは、その間にも近付く騒音にあっさりと呑まれて消える。
にもかかわらず分厚いマントに覆われた背は、焦りを見せる事無く、点火された大砲にも似て力を溜める。眼前を覆い隠す木々の衝立を破ってオーガが現れたその瞬間に溜めに溜めた力を持って突貫し、ただ一突きで終わらせるつもりでいるのだ。
■ティアフェル > ぶわ、と周囲の草葉はら木っ端やらを巻き上げて現れた巨大な得物とその持ち主には一瞬、大分やべえもんがきた、とした思えなかったが――この際やばければヤバイだけ、助力となってくれるならありがたい。なりふり構っていられる状況でもなく。その肉感的なスタイルよりも戦士としての熟練度を推し量るように目線を走らせ。
まだ、一応は膝を屈してはいなかったが、相手には充分へたった様子には映っただろう。
ともかく、汗して瞳を滲ませて衣服に木の葉やら砂ぼこりやらをくっつけたヒーラーは、どうやって持ち上げているのか一見不明な程、剣と呼ぶには余りに猛々しい得物を構えた女性に助けを求め、それに応じる声が返るとそれこそ膝が崩れそうになりながら、手持ちのスタッフの石突部分を立ててそれに縋るようにしながら、
「ゼナ? わたしはティアフェル、ヒーラー。勝てるなら、それならお願い…! オーガは二体恐らく一体は後ろに。もう一体は――判らない、多分わたしの連れの方を追ったと思う。――彼らと別れたのはこのまま真っ直ぐ行った所――……」
木々や茂みを薙ぎ倒し虫や小動物を蹴散らし踏み砕きながら、差し迫っているオーガの来るだろう正面を抜剣して見据えて告げる彼女に返答し、その返答が終わるや否や、とうとうしなやかな若木をへし折りながら魔物が迫り来た――。
「――ッ…!」
自負を持って倒せる、とその戦士は口にしたが、獲物を捕らえて空を劈く様な咆哮を上げながら肉薄するオーガと戦士の対峙に目を背けそうになりながらもどうにか反らさず唇を噛み締めて見据え。
そして、バッ、と鈍い緋が散ったかと思えば鮮やかに一瞬で鮮やかに貫かれ、断末魔も響かせる暇もなく、どお、と酷く重い音を立てて地に伏す魔物の姿を目の当たりにし――
「すっご……」
やはり漏れた一音は無意識に。
■ゼナ > ちらりと一瞥した彼女は、年の頃はゼナと同じくらい。もしかしたら少し年上かも知れない。華奢な脚線を覆うスカートの可愛らしさだとか、手にした杖だとかを見て後衛なのだろうとは思っていたが、それは間違っていなかったらしい。
しかし、震える足を叱咤して立ち上がる様子や、返す言葉の意外にもしっかりとした声音からは、後衛にしておくには勿体ないと思えるくらいの胆力が感じられた。
「分かりました。 それでは―――……行きますっ!」
直後、眼前の若木を剛腕の薙ぎ払いで圧し折ってオーガの巨躯が現れる。
追い詰めた獲物がいつの間にか二匹に増えていた事には軽い驚きを示しつつ、加勢として現れたのが最初の獲物と大差の無い小娘である事に油断したのだろうオーガは、ニヤリと乱杭歯を剥き出しにした笑みの表情で吹き飛ばされる事となった。
地面に爆裂の魔法を叩きつけた様に枯れ葉と腐葉土を巻き上げ飛び出したゼナが、ただの一足で10m近い距離を踏み越えて岩塊のようなオーガの胸板を巨剣で刺し貫いたからだ。
砲弾めいたその一撃はオーガの巨体を一瞬浮かせた後に地面に串刺しにしてのけた。
そして、その勢いのままオーガの胸上で前転しつつ立ち上がったゼナは、胸郭を割り割きながら大剣を引き抜き、ビクッ、ビクッと死後痙攣に跳ねる巨躯から降りて少女に告げる。
「では、ティアフェル。案内を頼みますっ」
炎熱の色彩を浮かべる巨大剣を物騒な轟音と共に血振りして、こちらを見上げる少女に手を差し伸べる。
■ティアフェル > 緊張状態で碌に相手の顔も見れていないが――相当な重力であろう得物を振り回し、見た目や口だけではない実力を感じれば、いくらか落ち着くことができた。脚を止めて深呼吸を繰り返すことで何とか荒いでいた呼気を抑え。
しかし、落ち着きを取り戻す暇もなく、一撃のもとに赤く硬い皮膚で覆われた強靭な肉体と荒々しい気性、鋭い牙や爪を有しそれなりに弱肉強食の上位にいる筈の魔物を屠殺した光景に息を飲み。それから、驚きを通り越して妙な空笑いを零し。
「人間じゃなーいー……」
やはり無意識に呟いていた。同い年くらいのやたら豊満な女の子――に見えるが、いやそれ絶対違う。そうであれ。人外染みた身体能力に若干ヒき気味だったが、しかし、この際頼れるほうがいいに決まっている。
一瞬で沈められてその内大地の一部と化していくだろう巨体から豪快に大剣を引き抜いて手を差し出す彼女の手を、ポーションは使い切ってしまったので、ウェストバッグから取り出した多少の疲労回復効果のある薬草を齧りながら取って、
「よしきたこっち!」
口端から緑の生草を食み出させつつ、ぎゅ、と握っては駆け出して来た方角を戻ろうと地を蹴り、仲間と別れた地点まで巻き戻ってゆく。やがて、見えてくるのは、自分達で討伐した通常のオーガとは異なる異様な巨体を有したオーガの遺骸で。小山のようなそれが見えてくると、もう片手にしたスタッフの先で示して。
「あれだ、あそこで別れて――その後はどっちに逃げたか……」