2020/04/29 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 丘陵」にナランさんが現れました。
ナラン > 雲一つ無かった空に漆黒の帳が下りて、欠けた月が西の空に低く輝く夜。

自然地帯を貫く街道からは遠く森を抜けて現れる、丈低い草に覆われた丘に踏み入れる影がひとつ。
森を抜けて現れたその人影は、緩く吹く風に棚引く草を見渡してから丘の頂目指して歩みを進める。
周囲には揺れる若草色ばかりで、他に生き物の影はない。
―――いや、時折風とは別に草を揺らして行くのは夜行性の動物だろうか。

時折過ぎっていくそのさざ波を鳶色の瞳を細めて見送って、人影―――編んだ黒髪をターバンから零す女はまた歩みを再開する。
その背には長弓が背負われているが、今はそれをつがえるつもりは無い様だ。

膝下より下くらいまで育った草は、しかし柔らかで踏み分けるには苦労はしない。
振返って見渡しては、他に森からの足跡―――踏み分けた跡が無いのを確認しながら、黙々と頂きを目指す。

森を転々として暮らしながら、時折訪れる丘だ。
結構な高台に位置するので、遠く見渡せば王都の街の灯りも見える。
それよりも、森を抜け灌木を揺らしざあ、と渡っていく風が心地いいので
こんな夜には気晴らしも兼ねて珠に訪れて、昔聞いた星の物語を思い出したりしている。

(――――決まって、少し感傷的にはなってしまうのだけど)

向かいながらいつも思うけれども、止めることはしない。
丘の頂に辿り着くと、また周囲を見渡す。
棚引く草のさざ波には所々白や青の色が混ざって、香りこそ届かないまでも控えめな彩を添えている。
女は目を細めて口元を綻ばせると、背中の長弓を下ろしてその場に腰を下ろした。
尻の下にはふかふかの草が天然のクッションとなって、心地がいい。

一応弓と箙を身に着けてはきたけど、今日は獲物を狙うつもりは無い。
―――勿論、幸運が訪れたのら遠慮なく頂くんだろう。

ナラン > ―――やがて、春の夜風も冷たくなってくる。
月も西に沈みかけて、程なく空は星の瞬きだけになるのだろう。

丘の頂で編んだ髪を風に揺らされていた女は、沈みかけの月を見上げて瞳を細めると、そっと王都の方へと視線を移す。
―――あちらはまだ、きらきらと明かりが見える。
果たして常夜灯のものなのか、家々のものなのか。

遠くの光はきれいに見える、と心中独り言ちてから腰を上げる。
長弓を背負いなおし、箙をベルトへ下げなおして。

もう一度、月を見上げてから
女はまた編んだ黒髪を揺らし若草色を踏み分け、丘を下って――――森の中へと姿を消した。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 丘陵」からナランさんが去りました。