2019/10/26 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 丘」にぼたんさんが現れました。
■ぼたん > 雨上がりの夜。
群青色を濃くした夜空にいまは、白っぽい薄い月と撒いたようにあちこちで瞬く星々と、時折薄墨のように流れる雲。
街道から少し離れた森の中は、夜行性の生き物たちが冬支度に動き始める時分。
下栄えを横切る音や小枝と共に葉を揺らす音、夜鳥の声で、意外にも森の中は喧しい。
その森を更に抜けた場所にある、小さく開けた丘。
草食動物の餌場にでもなっているのか、短く刈り込まれたような下栄えて覆われたそこは、動く動物の影は見当たらない。
夜闇が下栄えの緑を沈めて色彩はやや乏しいなか、所々にあるタマスダレの群生が、白く華奢な花弁を開いて天を見上げている。
時折吹く冬を予感させる風が吹きぬけていく度、下栄えがさらさらと音を立てる。
丘の麓からは、小川の流れる音。
そのひっそりとした丘に、森の方から微かな灯り。
やがて、踏み入れてくる人影がひとつ。
「ン――…ちょいと、寒いね……」
闇に浮かぶような白い肌の顔。丘を渡る風に、墨色の瞳を細める。
片手にしたぶら提灯を持ち直すと、もう片方の手で、羽織っていた半纏の前を掻き合わせた。
■ぼたん > 提灯を持った人影―――和装の女は、その頭部に生やした獣の耳を敏感に震わせながら、端から端まで丘を見渡す。
特に、誰の気配もない……当然ながら。
それを確認すれば、女の背後、半纏の下から毀れている厚ぼったい尻尾が、機嫌よく揺れ出す。
足を踏み出せば、草履を履いた爪先を、着物の端を、草の露が濡らしていく。
それには意を介した風もなく、女は足を進めて
やがて、丘の中央あたり、小さな岩に辿りつく。
「――――――…」
腰かける、その前に提灯でようく照らしてから、帯から手ぬぐいを出して広げた。
流石に尻まで濡れるのはいやだったし、月光浴中の虫なんかいたりしたらその、邪魔をしたくも無かったし。
そうしてようやく腰かけると傍らに提灯を置いて
両腕をぐう、と天に伸ばし、背筋を逸らして伸びをする。
同時に、深呼吸。
「はぁ―――…雨上がりはやっぱり、空気が澄んでていいねえ……」
普段はヒトに紛れて町に住んでいるものの、矢張り身体の半分を成すものがそうさせるのか、無償に森へと思慕が募るときがある。
そんな時、女一人昼間から森へ行くのは怪しいので、夜になってからこうしてこっそり、忍んでくる。
――――まあ、夜中に森の中に居るのを見られても怪しいのだけど。
■ぼたん > 両腕をおろし、丘を改めて見渡す。
風が渡るたび、草が揺れて
麓の小川からも、時折ぽちゃん、と生命の気配。
夜鳥の鳴き声はすこし遠く、ただ飛び立ち木々を揺らす音が夜空へ染み渡る。
丘の中に小さな集落をつくるタマスダレの白い花弁は、小さく寄り添っていながらも堂々と夜闇の中に生える。
ひとしきり景色を眺めて、森特有の音と、緑の香りを楽しむ。
―――そうして、幾らか、時が過ぎて
月が来た時よりも傾いできたころ
(―――今度、晴れた昼の内に、森に木の実を集めに来なきゃ……)
ヒトとしての営みについて、思いを巡らせながら、すとんと岩から滑り落ちた。
立ったまままた、伸びと深呼吸をして。
敷いていた手ぬぐいを岩の上から拾い上げて、ぱん、と一度はたいてから帯の間へと。
儚く揺らぐ光を零す提灯を手にして、上機嫌に尻尾を揺らしながら、森の、闇の中へと………
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯 丘」からぼたんさんが去りました。