2019/10/08 のログ
ラボラス > (其の身のこなしは、流石弓術に長けたエルフと言った所か
躊躇なく距離を取り、弓の間合いを保った様子を見据えるは
かつてタナールで砦を争った、金の瞳の魔族。
報告では、戦場へと現れる事が殆どであった其の存在が
この場所へと現れた、と言う時点で、王国側にはイレギュラーであろう。)

「……ふ、其の程度の、今更に過ぎる事で驚くか。
……此処を戦場にする心算は無い。 事を荒立てたいなら別だがな。」

(――構える事は無い。
其れが、戦闘意思が無いのか、自然体であるのかは判らないだろうが
自ら距離を詰める事も無く、ただ、女の目の前で、其の背後
今はまだ、設営準備を行っているだろう隊員たちの存在を示しては。)

「―――待機指示を出せ。 貴様は巡回として、俺と共に来い。
さもなくば、須らく斬り捨てる。」

(――女へと、端的に伝えるのは其の指示だ。
いま、女がこの状況を兵へと伝えれば、間違い無く戦闘と為るだろう
或いは、撤退指示を出すとしても、己が存在を知られた以上
其の儘帰す訳には行かなくなる。

故に、今、この状況を唯一知る女だけが
己と共に森の奥まで来いと――「賢明な判断」を要求した)。

マリアナ > すぐに立ち回るつもりではないと聞いても、女の警戒心が薄らぐ筈もない。
間合いを詰められることがなければ弓も放て、刃も振るいやすいだろう。
彼女の弓柄は鞘としての役目も負っており、接近戦も可能だ。
が、案ずるのはこの男が実体を持っているか否かである。
そして何を目的としてこの地に降り立ち、姿を現わしたのかも。

「……何を、馬鹿な……。」

それを明らかにすることもなく当然のように要求だけを放つ男に、思わず眉をひそめた。
魔族の何を信用しろと言うのか。それも少なからず一つの軍団をまとめる頭である。

「何の用向きかも聞かず、無知な小娘のようにお前の後をついて行けと?滑稽な話だ。」

滑稽な話に愛想笑いを浮かべるほど表情豊かな女ではない。
己の立場を確認したことから自身に用があるわけではなく、小隊長としての立場だけが肝要なのだろう。
この国では大した身分も立場もない。
交渉するに適した人物でないことは自覚している。

――――ス、とエルフの指が矢を一本握り、弦に番えた。
真正面に構える様は決して相手を射えるとは思っていないが、意思を伝えるには充分に。
隊員の命を尊重し、理由もわからずついて行く選択肢は選ばない。
彼らとて王国軍人だ。守られる立場でないことは承知の筈。
とはいえただちに戦闘準備を整えよと叫ぶ選択肢をも選ばなかったのは、どうすることが最善なのか未だ考えあぐねているからに他ならないが。

ラボラス > 「用向きを、今伝える必要など無い。
……少なくとも貴様達にとって良い理由で無いのは確かだがな。
被害を最小限で済ませるか、其れとも此処で全員地に伏せるか
虚仮脅しでない事位は…貴様でも判るだろう、女。」

(矢を番え、己へと向ける動作に、ふ、と口元へ弧を描いた。
あくまでも、戦士で、兵で在ろうとするのならば、其れも構わない
好きにしろと、其の選択を女へと委ねた上で――距離を、詰める
女の弓の射線から、僅かたりとも外れる事無く、歩む
そうして、片掌を舞い上げたなら――其の掌に、一振りの、黒き剣を顕現させた)

「――貴様が無知な小娘だとは思わん、だが、無知な小娘の様について来い。
どちらも選べぬなら…、……攫うまでだがな。」

(――後、数歩。 剣の間合いまで、其れだけの猶予。
女が、其れまでの間に決断するならば、其れで良い。
戦いか、譲歩か、何れかに沿うよう動く事だろう。
だが、もし、其れまでにどちらをも選べぬのなら
――踏み込む。 疾く、女の懐にまで、距離を詰め
其の胴に、剣の根元を叩き付けんとするだろう)。

マリアナ > 弓とは本来援護に向いた武器で、この距離では上位魔族でなくとも不利だ。
多少のめくらましになる手立てがないでもないが――己だけならともかく、隊員全員を退避させるに至るのはまず不可能だろう。
臆することなく歩み寄ってくる男の歩調に合わせ、弦がぎりぎりと音を立てた。
矢の切っ先は心臓を狙っているものの、距離を詰められれば詰められるほど躰の軸がぶれる気がした。

「私一人を攫って如何とする。無意味だ。人質にもならない。飼い犬の餌が欲しいなら量が必要だと……思うがな。」

ますます理解できない要求に、エルフの唇からは掠れた吐息とも笑い声ともとれる空気がこぼれる。
意図さえわかれば玉砕覚悟で立ち向かうなり、最悪自刃だってできるだろうに。
どちらにせよ譲歩というものは彼女の中には存在しないようだった。

「―――――!」

まばたきひとつせず、男の足が踏み込んだのを察知する。
それは一瞬。エルフの躰がほぼ反射的に動き、避けようとした。
だが幾分か足りなかった。完全に避けきることはできず、脇腹に鈍い衝撃が加わる。
小さな呻きとともによろめいた途端、指先が緩んで矢が放たれた。
己の意思で放ったものではなかったため狙いは完全に外れているだろうが、風が吹き荒ぶような音が静かな森に響く。
エルフが番えていた矢は鏑矢のように音を鳴らす細工が施された物だった。
本来戦場で何らかの指示を出す際に使用する。

ざわっと野営地が騒がしくなる。
様子を見るために何人かの影が立ち上がり、こちらに向かってくる気配があった。

マリアナ > 内臓を痛めるものではなかったが、まともに決まれば膝をついただろう。
咳き込む女の声を聞き、隊員がいよいよ沢へ降りてこようとするのを察知し、慌てたのは男ではなく。

「……っ……問題ない。狐に驚き、矢を放ってしまった。」

話がついたわけではないが、男は此処ではこれ以上仕かけてくることはないのではないか。
そう判断したエルフは隊員がこちらに向かうより先にと歩き出す。
まだ脇腹は痛んだが、何事もなかったかのように背筋を伸ばして無表情を心がけた。
当然何事かと緊張した者が揃っているため、彼らを落ち着かせるべく言葉をかけなければならない。

男へと振り返る間はなかった。
こうして今夜起こった出来事は男と女、二人だけが知るほんの刹那の話となる。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からマリアナさんが去りました。
ラボラス > 「其処に意味を見出すのは貴様でも、王国でもない、俺自身だ
貴様こそ、敵国に身を窶して何故軍属として身を捧げる?」

(ひとつ――返す言葉は在る。
この女の顔を、どこかで見たことが在ると思ったが――この国ではない。
いずこか、名も忘れた小国の、王族の姫。
自らも戦場に赴くほどに勇猛であったとは聞くが、まさか。
――踏み込みの殴打が、寸前で軽打へと和らげられる。
完全ではないが、それでも其の身体の自由を奪う程には到らなければ
放たれた矢を、僅か視線で追いかけて、そして僅か双眸細め。)

「―――…前言撤回だ、貴様の事は想定外だった。
――また、改めて会いに来るぞ、女。」

(矢の音鳴りが、野営地側への合図と判れば
本来なら其の時点で、全員を叩き伏せる心算だった、が。
――気が変わったと、深追いをせずに。
其の儘、討伐兵たちの撤退を見送り、そして自らもまた
森の闇に紛れて、消えて行く事となるだろう)。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からラボラスさんが去りました。