2019/08/05 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にルドラさんが現れました。
ルドラ > 「――ふぅむ。困ったな。……迷い込んだのか、それとも。」

喜びヶ原と一言に呼んでも、その範囲は広大である。

この洞窟はその広大な土地の辺境。
特別凶暴な魔物がでるでもなく、かといって財宝の類もとっくに盗り尽くされている為魔物討伐の依頼や財宝目当てでやってくるという者もろくにいない名も無き棄てられた洞窟である。

だからこそ、無用な争いを好まない旧き竜はこの何もないうえにやけに広大で竜の己が巣にしても困りそうにない快適な広さの洞窟を寝床にすることにしたのだが、どうも雲行きが怪しくなってきた。

薄闇に横たえた白金の鱗は光源無くとも煌めき、緋色の竜眼は闇によって視力が落ちるでもなく紅玉の如き輝きを湛えている竜は緩慢な仕草で長い首を持ち上げては、この一本道に過ぎない洞窟の入り口を静かに見据える。

向こうは気付いているのかは定かでないが、誰かがこの洞窟に入ってきたらしいと気配で察知した竜は本当に困っているのか怪しいのんびりとした声をあげ、しかしそれだけで大気を震動さえ煌々たる視覚化すら可能な竜気を全身から発しながら何故こんな何もない辺境に誰かが来るのかと不思議がる。

有り得るのは本来の目的地ではなく偶然此処に立ち寄ったか迷い込んだか。
困るのは、何処でばれたか知らないが己が目的である場合。

人間にとっては竜の血肉は余す事なく財であろうし、魔族にしても興味はないのだが戦に加担しろというものなら面倒。同じ竜種なら、腑抜け呼ばわりされ罵倒でもされかねない。

考えるだけで億劫だ。
この洞窟が迷路の構造ならよかったが一本道構造ではどう足掻いたって迷いようがない。
その為何故訪れたかはともかく遭遇は避けられはしない。

いっそ偶然迷いこんだなら、自分を見て怯えて逃げてくれればいいのだが。

いやだなぁ、と入り口迄届く熱風の如き鼻息を吐く。

そうこうするうちに来訪者は逃げないならば最奥で身を横たえる己の許へ辿り着くであろう。

ルドラ > 「やれやれ……涼しくて気に入っていたのだが。」

人間に例えるなら髪の毛が、獣に例えるなら体毛が一本抜け落ちたぐらい気にしないであろう。

どうにも、話を聞いた限りだとこの洞窟を寝床にしようと移動している途中、この近辺で自身の鱗が一枚剥がれ落ちていたらしく、間の悪い事に膨大な魔力によって剥がれ落ちた一枚に過ぎずとも尚燦然と白金に輝く鱗は拾われてから王都の貴族へと売られてしまい、欲深い貴族は鱗一枚では飽き足らずとうとう竜を見つけ捕らえるようにと依頼を出したせいで報酬に目が眩んだ冒険者が訪れた理由であるらしかった。

鎧袖一触。
正しく読んで字の如く、一息で竜種を相手に畏れず挑んでくるだけの実力に自信があったと見える冒険者を、此方にしてみれば人の領分で人の域で上下を定めたところであまり大差がないようにしか思えない感想通りになるべく傷つけないようそっと優しく慎重に息を吹きかけた結果、それでも人間にとっては閉所の洞窟に突如として大嵐の如き猛風と身に纏う武具が全て爛れ、風化し塵となる熱気に晒され木っ端の如く危うく微塵となりかねなかった。
慌てて冷却する為に属性を切り替えた吐息で冷やそうとすれば今度は凍死させそうになってしまい、人間の儚さを痛感する。
見ていて楽しい生物だし、思いがけない行動をとるのが人間だが無謀と勇気は違うとこれで学んで欲しいものだ。

一命の危機を取り止め、此方にしてみれば別に取って食っても足しにもならないのだから気にしないでいいというのに喰い殺される、死にたくないと心が折れた冒険者が、じゃあ何故此処に来たのかと尋ねて素直に答え、這う這うの体で逃げ帰るのを見届けた竜は依頼を出しているということは他の冒険者、賞金稼ぎが来てもおかしくないなぁ、と見送りながら残念に思う。

別の寝床を探すか。

あの程度なら何人来ようが寝込みを襲われても脅威でもなんでもないが、人間には時々竜の身でさえ驚嘆する個体が現れる事がある。
そうなると、己も相応に力を奮わねばならず、殺生沙汰になりかねない。
それはお互いにとって不幸な事だ。

争いを望まぬ力持つ竜は、次に訪れた者が徒労というのも哀れだろうとふるり、と身震いし生え変わる時期だった鱗を奮い落として駄賃代わりに置き土産してやってから洞窟の外へと歩み出し、再び穏やかに過ごせる寝床を求めて大いなる翼を広げて飛び立って。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からルドラさんが去りました。