2016/08/02 のログ
ルイサ > 「…ミレー族の?それは…、ええと…ご苦労様です。護衛なんかはよく聞きますけど、珍しい活動してますね。」

治安も、護衛も、今のところどうでもいい。
ただミレー族の保護については素直に反応した。
言葉通り、珍しい活動だと感じたのだから、自分がもし他の種族であっても同じ台詞を放っただろう。―――ということにしておく。
いくら敵意が見えず、悪人にも感じられないとはいえ素性を明かすことは躊躇われるのだから。

そうして、上辺だけではあるが互いの事情をほんの僅か知った状態で見えた相手の貌は、獣耳を隠す自分とは違い一目でエルフであると知れるものだった。
顔立ちもさることながら、やはり特徴的なのは耳だろう。
髪に隠れることもなく晒されているからこんな暗がりでもよく見える。
エルフの女性。長寿の者もいると聞くからどの程度敬うべきか、迷うところだ。

「……私が言うのもなんですけど、こんな夜道を歩いていていいんですか?そのー…エルフを好む者もいる、とか。」

性別が同じなら、国の乱れが生む酷い有様も共有出来そうだ。
他人事ながらぽっと滲んだ心配を口にする表情は眉尻がやや下がる。

レイカ > 「…ええ、まあ……私もそう思いますけど…とても情熱のある団長さんなので。」

ミレー族の保護など、確かにほかの人からしてみたら”何を無駄なことを…”と、思うのかもしれない。
だけれど、実際に保護をして、働き手として雇い、そして自活させているのだから…。
ゆえに私は、組織の拠点を『楽園』と呼称していた。
何もしがらみもなく、貴族の手も届かないミレー族の楽園…それが、組織だ。

「…あいにく、男好きする体をしていないので…。
ああ、いえ…。別に襲われないとは思っていないのですが…一応戦う術は持ち合わせているので。」

歩いていていいのか、と聞かれるとは思っていなかった…。
まあ、確かに私のようなものが夜道を歩いていれば、奴隷ギルドやその他にとっては格好の餌、に見えるかもしれない。
けれど、何も抵抗もしないような女ではないし、少しくらいならば自分の身を護れる。
ゆえに、彼女のその言葉には、苦笑で返すのみだった。

「…嗚呼、失礼。私はレイカ…。先ほども言いましたが、民間団体に所属しているものです。」

マグメールに行く理由は、あえて伏せておいた。
――ある薬が出回っていないか、その調査に赴くというのは、部外者である彼女には話す必要はないと踏んで。

ルイサ > 「ああ…団長さんのご意思なんですね。誰にでも出来ることじゃないから素敵。――ですけど、くれぐれもお気をつけて。粗野な者はともかく、権力者を敵にするときっと大変です。」

力ずくでミレー族を従える者ばかりではない。
彼女達の活動は貴族や王族すら敵に回すこともあるのだろう。
そんな団体に興味をそそられないはずはなかったが、これ以上追求しては要らぬ疑念を抱かれるのではないかと言葉を選んだ。
それでも十分、いつもの自分に比べれば反応してしまったし詮索してしまった気がするけれど。

「レイカさん。―――私はルイサ。王都の平民地区でお店をやってます。いわゆる、便利屋、というか。まぁ、魔力のない私が請け負える仕事は限られてますけど。身体もろくに鍛えてこなかったから、レイカさんのように強い女性にはちょっと…憧れます。」

保護や護衛を担っているのだ、元より自分が心配出来る身の上ではなかったのだろうが、改めて自負されれば偉い、と素直に思う。
生きることで精一杯で、誰かを守るだなんて今は考えられない。
相手との会話はそれを実感させられて、まばたいた瞳を無意識に地へと落とした。
折角目の前にミレー族を保護する立場の存在がいるのに、素性さえ明かせないのは少し苦しかった。

レイカ > 「嗚呼、そのあたりは平気ですよ。…組織が使っている土地が、騎士団の私有地になっているので。
さすがに、貴族や権力者といえども、騎士団を相手にはしたくないのでしょうね…。」

もし、手を出せば貴族は騎士団を敵に回すことになってしまう。
いくらお金に物を言わせているとはいえ、大きな組織を相手にしたくはない、というのが貴族たちの考えらしい。
しかし、最近では冒険者などに組織の穴を探すような依頼をしているらしい。
ひと悶着が終わったので、私はその有無を調べるために、マグメールへと入るという目的もあった…。
そして、出来るならばその依頼の根本を断ちたい、とも。

私は、聞こえないように「楽園を潰されたくはないから…」と口の中で呟いた。

「…私は強くなんかないですよ、自分の身を護るだけで精一杯な、ただの偽善者ですから。」

私は、組織の団長のように意思を持って行動することが出来なかった。
もし、彼のように意思が固ければ…今頃、私はきっと貴族に向かって弓を引く毎日だっただろう。
少しでもミレー族を護りたいと思うからこその行動、だが。

「ルイサさん…ですね。……王都の、平民地区…ですか。」

私は、その言葉に少しだけ驚いた。
彼女はミレー族、そのミレー族が平民地区でちゃんとお店をしている、というのが驚きだ。
もっとも、彼女の場合獣の部分を完全に隠蔽できているようなので、心配はないのだろう。
魔力を上手く扱えないのも、もしかしたらそのあたりが原因なのかもしれない…。

ルイサ > 彼女の言葉に安堵する自分がいた。
今の自分には何の恩恵もないとはいえ、やはり同胞が救われるのなら嬉しい。
記憶には殆どないが、もしかしたら幼い頃の友人知人が相手に助けられている可能性だってあるのだ。
そう考えれば、偽善者と卑下する目の前の女性には畏敬の念さえ。

「いえ。そんなことないです。自分の身の方が可愛ければそもそも、そんな行為に加わるはずもないですし。―――でも、保護されたミレー族はどうやって生きていくのですか?」

やはり自分と同じで素性を偽って生きていくのだろうか。
自覚しているより相手に気を許し、そして民間団体なるものに興味を示していることは明白だった。
なぜそこまでミレー族について問うのかと尋ねられたら返答に詰まりそうだったが、不思議と彼女はそんなことも聞かないのではないかと感じつつあった。

「郊外に近いので不便ですけど、簡単なお困りごとがあれば是非来てください。…レイカさんは普段はどこに?…あ、今から帰宅、とか。」

だからここを歩いているのか、と。
無意識ではあるが、場所を尋ねたくなるのはきっと本当に困った時、救いを求める相手がいる場所を知りたかったからに違いない。
素性も明かせずそんな計算、都合が良すぎるとは思うのだが。

レイカ > ―――目の前の、彼女の雰囲気が少しだけ変わった気がした。
おそらく、彼女にして見れば同じミレー族が襲われてしまうのが、やはり耐えられないのだろう。
私だって、きっと同じような思いを抱いたに違いないから、その雰囲気の変わりようは少しだけ嬉しかった。

「……いえ、私は何度も…自分の身を護るためだったとはいえ、多くのものを見殺しにしてきましたから。
そんな私が、慈善活動なんて…偽善以外の何者でもありませんから。」

――しかし、私の顔はきっとどこか決意に満ちているような苦笑いだろう。
当然だ、例え偽善だろうと私は今度こそ遣り抜くと覚悟を決めたのだから…。

「えっと……組織が拠点にしている集落で、いろいろと就職といっていいのかわかりませんが…働く場所を斡旋してるんです。
勿論お給料だって出るし、それ以外では農作業なんかも…。」

―――つまり、保護をしたミレー族には、人間となんら代わりのない生活を約束されていた。
働く場所を見つけ、ちゃんと三食きっちりと、お腹一杯食べられる。
迫害されることもなく、身の安全すら護られている事を、私は拙い言葉ながらに説明した。
勿論、ミレー族であることを隠して活きていくなんてことはない。
皆、ありのままに姿を晒して―――活き活きと生きている。

「…そうですね、何かあったら頼りにさせてもらいます。
…私……ですか?私は普段は、九頭竜山脈の麓にある集落で過ごしていますので、帰宅というわけでは…。」

そもそも、マグメールには既に私の家はない…。
組織こそが、私の今の生活拠点になっているので、マグメールには少しだけ、用事があるだけだと説明した。
都合のいい計算だろうけど…ミレー族が困っていたら、私はこの身を挺して助けるだろう。

ルイサ > 自分だけではない。国が乱れれば乱れるほど、多くの者に不幸があって悲劇が起きる。
彼女の物言いはそれを表しているようで、具体的に何があったのかなどと無粋に聞ける雰囲気ではなかった。
繊細な部分をやたら突き刺し刺激するなんて、王族だってしてはならないことだ。――本来は。
相手の言葉は謙遜か、自嘲か、自信は見えなかったのに、なぜか頼もしかった。
ミレー族のその後を語る様子だって同じだ。
気が強そうには見えないけれど、確固とした信念や目標が見てとれる。
―――けれど、にわかには信じ難かった。
平和に暮らしているミレーの隠れ里さえ発見され、壊されるこの世界で安寧とした生活が成り立つものなのか。
ミレー族でなくとも難しいのではないかと思わせる、混沌とした国で。

「―――そんな世界があるんですね。でも良かった。…私にもミレー族の古い知り合いがいるんです。その子達がもしかしたらそんな風に暮らせてるのかもって思うだけで…慰められます。」

間違いなく本音だ。
それなのに、今の不安定ながらも一応は身の安全を保ち続けられている生活を捨てて、自らも理想郷へと行けないもどかしさも滲んだ。
今の店は大切な人の作ったもので、思い出が溢れんばかりに満ちている。
それすらも捨てる覚悟はまだ――― ない。

「…九頭竜山脈の。仕事でいろんな場所には行くんです。近くに行ったら探してみようかな。」

九頭竜山脈も広い。実際にそれが可能かはわからないが、回答を貰えたことに一端の安堵。
民間団体についても後々に調べればもしかしたら拠点のことなどがわかるのかも知れない。
職業柄、探偵業は得意だ。そう思えば別れを告げることにも前向きとなろう。

「…そろそろ帰らなくちゃ。馬を繋いだ場所、ここから結構遠いんです。今から頑張って歩かなくちゃ明日の朝入ってる仕事に遅刻しそうです。」

レイカ > 乱れきった国を変えることなど、並大抵なことでは不可能だろう。
いや―――、もうあの国は手遅れなのかもしれないと、私自身が思っていた。
王位不在の、形だけの王国。貴族が我が物顔でミレー族を虐げる日常。
全てが、あまりにも逸脱しすぎていたからこそ―――私は、全てを捨てて、逃げ出した。
だけど、もう逃げるわけには行かない事情がある。―――いや、事情なんかじゃない。
此れは私の覚悟、というものだ。もう、絶対に逃げないと決めたから…。

「そうですか……。もし、その友人さんがいるのでしたら、私のほうから声をかけてみますね。
実は…私もミレー族に育てられたんです。…だから、ですかね。」

ミレー族を護りたいと強く思っているのは。
彼女の、その本音に私は薄く笑みを浮かべながら、彼女の友人がいるのならば探してみようと思う。
離れ離れになったままなんて、少し寂しい。

「ええ、是非探してみてください。…詳しい場所は多分、商人に聴けば教えてもらえるかと。」

取引のある商人ならば、おそらくその拠点――ドラゴンフィートのことを教えてくれるだろう。
隠していることもないし、少し調べればいろいろとわかるかもしれない。

「…ならば、少しの間だけ護衛をしましょうか……?
もう夜も遅いですし、夜盗に襲われでもしたら、後味が悪いですからね…。」

彼女はミレー族、ならばその身の安全は保障されていない。
だからせめて、彼女が安全に町につくまでは、私が護衛を請け負うと提言した。

ルイサ > 「…ミレー族に?あの―――……、いえ。私達、きっとまた会えると思うんです。その時は座ってお茶でも飲みませんか?もう少し色々、聞かせてください。」

年齢は十八まで育ったが、平穏な生活となってからはミレー族に話しかけたことなどなかったし、関わりを持つことは危険だと思い、避けてきた。
しかしこの美しいエルフの女性はミレー族に育てられたと言う。
―――どんな場所で、どんな生活をしていたのか。
興味が先行しそうになり、慌てて口を噤んだが、噤みきれなかったというのが実情か。
何を芯としてかわからなかった彼女の信念の強さを垣間見て、それを更に深く知りたいと願うのは必然だった。
願望だけではない。現実に与えられた情報を辿ればいつか会えるのだろう。
あやふやな根拠を基にしたお誘いは、友人にでも投げかけるような気安いものとなってしまったが、また会いたい、話したいとの気持ちだけ伝わればいい。

思いもよらぬ護衛の申し出に腫れぼったい瞼がぱっちり開いてまばたきをしたが、現実にここへと向かう際にも極度の緊張感を味わってきたところだ。
屈強な男ならともかくこんなにも華奢に見える女性に頼んでいいのかは悩むところ、だが。
信念の強さを持つ彼女のこと。自分が無事帰れる自信を見せない限り、押し問答になるかも知れない。
ここは素直に甘えておこう。

「ありがとうございます。…レイカさんも目的の場所があるんでしょうし、本当に少しの間だけで。」

相手はああ言ったが、やはりその容貌は魅力的だ。
本来なら護衛を任されるような存在ではない気がする。
帰りに代わりに襲われてしまうなんて悲劇がないようにと告げた上で、二人で歩き出そうか。
道中もきっと、何らかの会話を交わしつつ、今夜の思わぬ出会いに色んな意味での刺激を受けたことだろう―――。

レイカ > 「……ええ、勿論です。もう少しゆっくりと話す機会があれば、そのときに。」

いろいろと聴きたいことがあるのはわかる。私が何故、ミレー族に育てられたのかなど。
彼女に聴かれることはそこまで苦にはならないだろう。
姿を隠しながら、いつか正体がばれて虐げられる側になるかわからない、そんな不安定な生活。
彼女も、きっと怯えながら暮らしているのだろうと思えば、少しでも安心が得られる場所に。
そんな場所に慣れるならば、私は本望だった。

「……不安なのはわかりますけど…一応私も戦えますよ…?」

とりあえず、夜盗位ならば蹴散らせる自信はある、とだけ伝えておこう。
確かに華奢で、小柄な私だから不安になるのは…まあ、仕方がないだろうけれども。
少なくとも彼女の変わりに、私が身を挺すなどという事態にはなりにくいだろう。
少なくとも、戦う術がない彼女よりかは、安全のつもりだ。

「ええ、少し……ルイサさんが無事に帰宅できるまでの間、だけですからね。」

その少ない時間、私たちはきっといろいろな、他愛のない話をしながら行くのだろう。
少し、楽しく話せたのは…私だけ、なんだろうか?

ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からルイサさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」からレイカさんが去りました。